「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・11

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 零落した成澤家。そんな我が身よりも、“彼”を失った事を恨んでいると言った咲月。
 “彼”を失った原因は紗月姫にあると思い込み、紗月姫の不幸しか願えなくなってしまった少女。
 
 もしも咲月が、復讐だけを考えているのではなく、“彼”の元へ行きたいとまで考えていたら……。

 美春は、その、もしも、が辛くて堪らないのだ。

 危険である可能性を考え、美春を置いて行こうとした学だが、彼女の思い詰めた様子を見て考えを変える。
 何も無ければそれに越した事は無い。もし危険な状態になったとしても、自分が守れば良いのだ。学は美春の同行を許し、櫻井に後を頼んで地下駐車場へと向かった。
 両手を握り合わせ、不安のあまり泣いてしまいそうになっている美春の横顔に胸が痛む。慰めに肩を叩き、速足で車へと向かった。
 美春を助手席に乗せてからスマホを取り出し、神藤へ連絡を入れておこうとしたが、あいにく彼は通話中だった。
 それでも目的地へ車を走らせながら、信号待ちになる手前で美春に電話を入れさせる。彼と連絡がついたのは、学園へ到着するまであと数分という地点だった。


*****


「お邸に戻るのは少々遅くなるかもしれませんが、ホテルの方へは間違いなく時間内に到着しますよう配慮いたします」
 その時間、神藤がずっと電話にかかっていた相手は椿だった。所用があるので学校から邸へ戻る時間が少々遅くなるという話を聞いていた椿が、「ディナーには間に合うの?」と心配して連絡をくれたのだ。
 今夜は神藤の誕生日を祝うのが目的。新たな気持ちで祝う記念すべき日。まさか所用で遅れるような事は無いかと、椿も心配だったのだろう。
 所用とはいっても、紗月姫を主治医の元へ連れて行き、正式に懐妊のお墨付きを貰ってくるだけなので、それほど時間はかからないだろう。指定されている時間には間違いなく間に合うが、本当の理由を言う訳にはいかない。

「間違いなくお嬢様をお連れいたしますので、どうぞ御安心下さい」
 学園のプライベートルームで、そろそろ終業時間かと腕時計を気にしていた神藤は、時間よりも聞えてくる椿のクスクス笑いが気になりだした。
「奥様?」
『あ、ごめんなさいね、つい……。そうやって、至極丁寧な口調でお話しして貰えるのもいつまでなのかしらって』
「そんな、……私は特に、奥様への態度を崩すつもりは……」
『あら、そんなのつまらないわ。いくら丁寧でも、学君レベルには落としてもらうわよ』
「学様、レベルですか……」
『そうそう、いずれ、“学様”も、おやめなさいね』
 さすがに学の場合は予想をしていなかったらしく、神藤は閉口する。すると相変わらず楽しげに笑う椿が『とにかく、“奥様”をどう変えてくれるのかは、ディナーまでの課題よ』と意地悪な宿題を出し通話を終えた。

「これは……、思ったよりも決意が必要なようだ……」
 神藤は変化し続ける己の環境を改めて考え、肩で息を抜いた。
 十八年間、彼は従者だった。当主一族、親族にもそれなりの態度で接してきたのだ。しかし、婚約発表もしくは結婚の時点で、その全ては緩やかに変わっていく。いや、変えていかなくてはならない。
 神藤は、辻川財閥次期当主である紗月姫の夫となり、片腕となる人間だ。まず変えていかなくてはならないのが“呼び方”なのだろう。
 紗月姫と二人きりの時などは、お互い名前で呼び合うようにはしているのだが……。
「さて、どうしたものか……」
 ずっと「奥様」だった椿。「学様」だった学。学の件は後回しにするとして、椿への呼び方を考えておくのがディナーまでの課題だ。

 神藤がスマホを見詰めたまま考え込んでいると、着信が表示された。かけてきたのは美春のようだ。
「美春様ですか?」
 彼は笑顔で対応しながら、美春への呼び方も変えなくてはならないのだろうかと思案する。
『あっ、神藤さん? やっと出た……、あっ、ちょ、ちょっと待っててね』
 妙に慌てる美春の声が聞えたかと思うと、すぐに冷静な学の声が耳に届いた。
『神藤さん、まだ学園だね? 何か異常はないかい?』
「いいえ、特にはありませんが。――何か、あったのですか?」
 どうも様子がおかしい。神藤がすぐに雰囲気を察すると、学は成澤咲月の件を話した。

『必ずそちらへ向かったとは限らないし、駅で目撃されたのは朝だ。それまで何も無かったって事は、そっちには行っていないのかもしれないが、油断はしないでくれ。相手は女性であっても、彼女が持ち出している物に問題がある。何より、精神的に弱くなっている……。俺も、様子を見にそっちへ向かっているところだ』
「分かりました。お嬢様の授業が終わったようですので、学様と美春様がいらっしゃるまで、プライベートルームでお待ちします」

 通話を終えると、終業のベルも鳴り終えたところだった。
 これから帰りのホームルームに入るので、紗月姫がここへ来るのは約二十分後。
 しかし、成澤咲月の件を聞いた神藤は、黙って紗月姫が戻って来るのを待っているのももどかしく感じ、教室まで迎えに出ようかと考えた。
 もしも咲月が学園に忍び込んでいたのだとしたら、紗月姫が神藤から離れている時間帯に接触しようと考えるだろう。
 紗月姫を保護し、それから章太郎に成澤咲月の行方を追うように指示を出そう。先の行動をまとめつつドアを開けた神藤だったが、彼の足はすぐに止まってしまった。
 ――ドアの前に、紗月姫が立っていたのだ。


*****


 少女は、ゆっくりと階段を上がっていた。
 今はホームルームの時間だ。生徒や教師も教室にいる。それなので、もちろん少女の周囲には誰もいない。
 誰に見られる事も無くここまで来られたのは、少女の思惑通りだ。
 このまま全て、思惑通りに進んでくれれば、それで良い……。

 ――――それで全て、終わる……。

 目指す場所は、……すぐそこだ…………。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 呼び方。神藤としては悩みどころですよ。紗月姫に対してはともかく、他の人達に対しても変えていかなくちゃならないんですから。
 課題まで出されてしまいましたね。でも、どうやらそれを考えている余裕はなさそうです。

 着々と近付く影。
 “その時”が、迫ってきます。

 では、次回!!




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