「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・13『学校は楽しいですか?』

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「茂さんは、学校には行ったのよね?」
 何気なく訊ねると、脚立の上で桜の様子を診ていた茂さんは、私を見降ろし不満を口にした。
「さくらさーん、オレ、勉強嫌いで馬鹿ですけど、一応学校は出てますよ」
「え? あっ、違うのよ、馬鹿にした意味じゃないの……」
 両手を振り、慌てて否定をする。だって、本当におかしな意味ではなかったのだもの。どうしよう、私、失礼な事を訊いたのかしら……。
 すると、焦る私を見て、茂さんはアハハと笑い頭を掻いた。
「冗談ですよー。すいません、分かってますって、さくらさんは絶対に人を馬鹿にするような人じゃないっすから。オレの方こそ、スイマセーン」

 私をホッとさせてから、茂さんは再び枝を探って桜の様子を診出した。
 私も桜の木に視線を戻す。桜花村から、一緒に葉山家へやって来た桜の木に。

 葉山家の裏庭には、植物園かと見紛う程の大きな温室がある。
 桜の木は温室の中央に植え替えられ、上手く根を張り、年中暖かいお陰で、この一年間休む事無く花を咲かせ続けていた。
「茂さん、訊いていいかな?」
「何です? どーんっとどうぞ!」
「学校って、楽しいですか?」
 張り切って返事をしたはずの茂さんは、その勢いを落とし動作までもが止まった。彼は恐らく、桜の事を訊かれるのだろうと思っていたに違いない。

「楽しい、っていうか……、うん、まぁ、楽しかったかな……」
「どういう風に?」
「友達とバカやって、バカな話して、学校帰りに遊んで……」
「バカな事って……、どんなこと話すの?」
「えーと、……あ、とにかく、バカな話なんっすよ、中学高校の男同士の話なんてっ」

 茂さんは困ってしまったのか、慌ててはぐらかした。
 バカな事すぎて話せないっていう意味なのかしら……。よほど口に出せない内容らしく、話題は違う方向へ向いた。
「で、学校がどうかしたんですか?」
「ん……、私、行っていないから、ちょっと訊いてみたかったのよ」
「学校……、行きたいんですか?」
「ううん。そういう訳ではないのよ。でも、良く分からないから、行った方が良いのかどうなのか私もきちんと判断がつかなくて。……一さんは、行かなくても良いって言ってくれているのだけれど……」

 両手で脚立を支え、茂さんはゆっくりと下りてくる。
「そうですねぇ……、坊ちゃんが『良い』って言ってくれるなら、良いんじゃないんですか? さくらさんは充分に頭もいいし、学校なんか行っていなくたって、何でも知ってて、難しい話も出来て……。今なんか、薬の勉強と秘書の勉強もしてるって聞きましたよ。凄いっすよ。ホント」
 一さんの意見を支持した茂さんではあったけれど、何か思う事があったのか、私から視線を逸らしちょっと黙ってしまった。
「でも……とすると、……ハクは付かないのか……」

 ハク? ハクって、何ですか?

「さくらさんは……“社長夫人”になるんだしな……」
 難しい顔で考える茂さん。どういう意味なのか訊こうとした時、どこからか女性の声が響いてきた。
「失礼! さくらさんは、いるかしら!?」
 訊いた事の無い声だった。使用人の中にも、知っているお客様の中にも、こんな甲高い声の人はいない。

 でも、何だか怒っているような声……。
 ドキリとしたけれど、呼ばれたのだから返事はしなくてはならないと思い、私は「はい、ここに」と声を出す。でも私の声では聞こえないだろうと判断した茂さんが、代わりに返事をしてくれた。
「こちらにいます! 桜の木の所に! どちら様ですか!?」
 声が聞えた方向へ歩いて行った茂さんは、入口方面の通路から一人の女性が現れたのを見て足を止めた。

 現れた女性は、椿さんより年上だろうか。
 身体の線が綺麗に出るスーツを着て、髪を後ろでまとめ上げている。
 お化粧をしたお顔は、ちょっと強気な様相。椿さんも時々“キツイ表情の美人”なんて言われ方をする事があるけれど、椿さんは『凛とした』という言葉が似合う女性。
 でもこの女性は、どちらかというと本当に勝気な雰囲気で、何処となく冷たさを感じてしまう。

 そしてこの女性を、私は見た事がある……。

 女性は茂さんをジロジロと見てから、私を交互に見た。
「ふぅん、あなた、使用人よね? 未来の奥様は、使用人の若い男と仲良し、ってやつ? まぁ、よくあるお話かしらね」

 何を言っているの……?

「さくらさんが一さんと結婚しても、また、コソコソと仲良くしてあげて頂戴ね。その方が、一さんも都合が良いでしょうし」
「……あの、お客さん……、何か、誤解してますよ。……別に、コソコソなんて……」
「うるさいわね。使用人は余計な口出しするものじゃないわよ」
 女性のおかしな誤解を解こうとした茂さんだったけれど、口出しが気に入らなかったらしく、女性は茂さんを叱り飛ばし、そのまま私へと歩み寄って来た。
「あなたが、“さくら”さん?」
「……はい、……あの、どちら様でしょうか?」
 何となく、この女性が誰なのか見当はついた。
 髪型とお化粧の仕方は違ったけれど、けれど、この人は……。

「……祥子さん、……ですか?」

 アルバムの中で、一さんに寄り添っていた人……。

 祥子さんは大人の余裕でにこりと微笑み、私に息が止まってしまう様な言葉を投げた。

「御存知なら、話は早いわ。御挨拶に来たのよ。やっぱり、本妻さんには会っておかなくちゃね。愛人の立場としては」








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