「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・15

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「美春様が聞きたくないという事でしたら、これ以上はお話しはしません。学様には御承知頂いているお話ですし、旦那様と奥様にも、医師チームが説明をしている最中です。――紗月姫お嬢様にも、意識が戻り次第、告知を聞くかの選択をしてもらうつもりです」
 斉は美春に、穏やかに選択を迫った。
 神藤の置かれた状態を知りたいか知りたくないか。しかしそれは、勘繰って考えるなら、「知りたくなかった」と思う可能性のある事実だからこそ、選択させられるのだとも考えられる。
 つまり、それだけ、神藤の状態は思わしく無いのだと。

 美春は唇を結び、斉と向き合う。
 告知をする医師の気持ちを感じながら、決意を表した。
「先生……私……」
「――お聞きします。教えて下さい」

 美春では無い声が先に返答をする。驚いて声の主へ視線を移した美春は、声を詰まらせた。
「……紗月姫ちゃ……」
 いつの間にか紗月姫が薄らと瞼を開き、宙へ視線を投げたまま耳を傾けていたのだ。
 眠ったままだと思っていたが、学と斉が入室した辺りから意識が戻って来ていたのかもしれない。

 斉は紗月姫の脈を診てから、選択をされた話を続けた。
「もしも昏睡状態が続けば、このまま目を覚まさない可能性もあります。昏睡と心肺機能の低下が同時に進行すれば、あるいは……。――いずれ、脳死の判定を決断して頂く可能性も否めない、という事です」

 美春が息を呑む。
 驚きのあまり、喉が悲鳴のような音を響かせた。

「まだ、現段階での見解です。……この先の様子を、慎重に見ていく事が重要かと」

 両手で口を押さえ、衝撃の事実に眉を寄せる美春の肩を、横に立つ学が抱き寄せた。抱いた肩をギュッと力強く掴み、「しっかりしろ」と勇気付ける。
 美春を力付けながら、学の視線は紗月姫を見詰めていた。
 彼女はゆっくりと両眼を開き、無表情のまま天井を見詰めている。しかし数秒後、顔を斉へと向け、明確に返答をした。
「分かりました。心に留めておきます」

 数時間前、動揺のあまり泣き叫び暴れるという醜態を見せた紗月姫と、同一人物とは思えないほど気丈な態度。
 本来の彼女そのままの雰囲気だ。
 しかし美春は、紗月姫の気丈さに薄ら寒いほどの胸騒ぎを感じた。

 紗月姫の返答に頷いた斉は、学へと向き直る。
「お嬢様と、二人でお話をしたい事があります。外して頂いても良いですか? デリケートなお話ですので、お願いいたします」
 身体的プライバシーだと言われては、無理強いは出来ない。学は美春の肩を抱いたまま、病室を出た。

 二人が病室を出た姿を見送り、斉は宙を見詰めたまま表情を崩さない紗月姫に問いかける。
「……本日は、本来でしたら夕方、お嬢様の診察をさせて頂く予定でした。もちろん、御存じですね?」
「……ええ……」
「神藤君が指定をしていた、通常診察の他、婦人科系健診もと指定を受けていました。それは定期的に行っているもの なので、何も問題は無いのですが……。その一環として、妊娠検査もしてほしいと、伺っています」
 紗月姫は返事をしなかった。斉は話を続ける。
「おかしいとは思いませんし、婚約者同士になられたお二人ならば、時には気にかけなくてはいけない事だとも思っています。ただ、疑問に思うのは、これが“一応の為の物”としての項目であったのか、それとも“気配があるので確認をする為”の項目であったのか、という事です」
 斉は決して強い態度はとらず、答えを強要する言葉も使わなかった。
 もしも、医師からのハッキリとした確認をとる為の検査であるのなら、彼は紗月姫の主治医として絶対に放っておく訳にはいかないのだ。

「斉先生……」
 紗月姫は静かな口調で言葉を出す。囁きのように優しく。今にも震え出してしまいそうな哀しい声で。
「もう……、良いのです……」
「お嬢様?」
「診察の事は、お忘れになって下さい。……もう、良いのです。……そんな確認は、もう要らない……」
 上掛けに隠れた下腹部を両手で覆い、紗月姫は目を閉じる。
 意識を持っていけば、下腹部を愛しげに撫でてくれる神藤の手を思い出す事が出来る。
 温かな繋がりを、感じる事が出来る。

 二人の繋がりを、紗月姫は身体で感じる事が出来るのだ。
 それで、充分だった……――。


*****

「神藤さんは、死んだりしないわよね……」
 フロアロビーのソファに並んで腰を下ろし、肩を抱かれたまま美春は学の胸に寄り掛かった。
 斉から聞いた話は、誰が聞いてもショックな物だ。昏睡状態が進行しない事、心肺機能が低下しない事などを、今は祈るしかない。
「……死なないよ。俺に、美春っていう女神が付いているように、神藤さんには、紗月姫ちゃんっていう天使が付いている。天使は、人を見殺しにしたりはしないだろう?」
 この状況では、あまり現実的ではない慰めではあるが、逆にその幻想的な例えが美春の頬笑みを誘う。
 
「学……、成澤咲月さんは……」
「ん……?」
「……最期の瞬間、……幸せな気持ちになれたのかしら……」

 学は美春の頭を抱き寄せ、額に唇を付けた。
「なれたよ……きっと。……愛した人の所へ行けるという思いが、彼女に、一瞬幸せを与えてくれたに違いない……。――それが、愚かな事かもしれなくても……」
「……私……」
 学の胸に寄り添い、スーツを力いっぱい握って、美春は言葉に出来ない悲憤を表した。
「死を選ぶ事で、幸せになるなんて……、認めたくない……」

 美春の言葉が、忘れたくても忘れられない、哀しい記憶を呼び起こす。
 彼女の瞳は、徐々に潤み始めた。
「自ら死を選ぶのは、この世界から淘汰される事を、自ら選ぶ事ではないの? 自分が生きてきた軌跡も、家族も、愛した気持ちさえ、捨ててしまう行為ではないの?」

 死を選ぶ事で、幸せを得ようとする気持ち。

 極限まで高揚した精神状態の中でだけ得られる、幸福感。

 そんな愛を否定しながらも……。

「少しでも、彼女は幸せを感じる事が出来たの……?」

 自ら淘汰される事を選んだ彼女が、ほんの一瞬でも幸せであった事を……。

 美春は、願わずにはいられない。 







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第9章≪淘汰される愛≫
 今回でラストになります。
 幸せを掴んだはずの二人。愛し合った繋がりを得た喜びを分かち合い、幸せは高まり続けるはず……。
 だった矢先に、悲劇は起こりました。

 紗月姫に宿った命と、消えそうな神藤の命。
 二つの命を背負って、紗月姫が出す決断は。
 そして、死から得る幸せを拒絶する美春のトラウマ。
 それらを踏まえて、物語は第11部最後の佳境を迎えます。
 では次回より
 第10章
 ≪迷宮の天使≫
 に、お付き合いください。

 よろしくお願いします!

*次回更新は7月20日からになります。





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みわさんへお返事です7/18


 みわさん、こんにちは!

 第9章、楽しんで頂けましたでしょうか……、って、あんな展開で楽しめるかーーーーい!!
 (ノ`△´)ノ ┫:・'∵:.┻┻:・'.:∵
 ……って、感じですよね……。(・・;)

 咲月さんは、ちゃんと栗原君と会えたと思いたいですよね。
 自分で書いておいて何ですが、私もそう思います。

>ちょっぴり霧島サンを思い出してしまった。

 さすがみわさんっ。良い所に目を付けて下さいました!
 実は後々そのお話が出てきます。

 第10章、ラストの山場です。もう、サブタイトルに≪迷宮の天使≫と入れてしまっている時点で大バレですね。(笑)
 是非、お付き合いくださいね!

 
 さくらちゃんも、祥子さんにムカムカしながら頑張ります。(笑)

 有難うございました!
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