「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・14『私が嫌いなんですね?』

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「お客さん、さくらさんに、おかしな事言わないで下さい!」
 茂さんも驚いたのだろう。祥子さんの言葉に口出しをして私を庇ってくれた。けれど、すぐに鋭い目で彼女から睨み付けられてしまった。
「使用人は黙っていなさい! 私はさくらさんとお話がしたいのよ! 出て行きなさい、いつまでそこに居るの!」
 その剣幕に、茂さんは言葉を失う。葉山の家で仕事をしていたって、こんな言われ方をした事など無いだろう。

 かくいう私も言葉が出ない。
 いくら使用人とはいえ、他家の者に対してこの言い方は酷くは無いのかしら。
 それでも、客人に口答えをしても良い立場では無い茂さんは、私をチラリと見てから頭を下げて走り去って行った。

「可愛いわねぇ……」
 腕を組んだ祥子さんが、首を傾けながら私へと歩み寄って来る。
 立ち去る茂さんを見送っていた私が次に見たのは、蔑み軽笑をする彼女の口元だった。
「話題にはなっていたのよ。一さんの婚約者は、とても可愛らしいお嬢様だ、って」
「……有難うございます……」
「本当に……、何から何までが可愛らしいわ。顔も容姿も、……お歳も……」
 祥子さんが言わんとしている言葉に気付き、鼓動が緊張にドキリと高鳴る。
 分かっている……。彼女は私を「子供だ」と言いたいんだ。

「こんな可愛らしい“お嬢ちゃま”が、一さんの婚約者だなんて信じられないわ。お人形さんみたいねぇ?」

 彼女は、決して私を褒めている訳じゃない。
 それは、言葉の一つ一つを形取る口調を聞いていれば分かる。
 一さんの婚約者が、私のような子供である事に、あからさまな不満を感じているんだ。

 私は改めて、祥子さんを見詰める。
 ――とても、女性らしい人だ。
 綺麗にお化粧をした顔も、見事なおうとつを作る身体の線も。
 ひと言で言うなら「色っぽい女性」だ。男の人は、こういった女性が好きなのではないかとコンプレックスを刺激される。
 私とは全く違うタイプ。「お子ちゃま」って言われて反論したとしても、かえって見苦しい。一さんも……、本当はこんな女性が好みなのではと、心が捻くれてしまいそう……。

「聞けば、由緒正しい家柄のお嬢様なんですって? 御実家は大名様の流れを汲む名家だとか。世が世ならお姫様だもの、本当に“お人形ちゃん”よね。跡取りのお嫁さんは、家柄に拘りたかったってところなのかしら」

 祥子さんが私に浴びせる心無い言葉を聞いていて、ひとつハッキリと分かった事がある。
 彼女は、一さんが好きなんだ……。
 学生時代からなのか、秘書を務めている時からなのかは分からないけれど。
 大学時代のお友達が言っていたように、周囲からは祥子さんが一さんのお相手に選ばれると思われていて、本人もそのつもりだったのだろう。
 でもそこへ、私が“婚約者”として現れた。

 祥子さんは、取引会社の重役秘書を務めていると一さんは言っていた。
 色々と私の噂を聞き、実際に見て「こんな子供が?」って気分が悪くなったのかもしれない。それだから、「本妻」とか「愛人」とか、そんな言葉で困らせようとしているのではないだろうか。

「それと、さくらさん、あなた、学校には行っていないんですって?」
「……え? あ、はい、小さな頃から、家庭教師の先生についていてもらったので……」
 いきなり変わった話題に、私はいささか戸惑った。すると祥子さんは鼻を鳴らし、腕を組んだまま軽く笑い声を上げる。
「老舗一流どころの葉山が、学歴も無い娘を跡取りの妻に迎えるなんて、信じられないわ。葉山の一族は、皆さんとても素晴らしい学歴をお持ちだっていうのに。お嫁さんがこれじゃぁ、なんのハクも無いわね」

 ……ハク?
 ハクって、この事? 茂さんが言っていたのは、この事なの?
 私が育った桜花村なら、学歴なんてあまり問題にはされない。でも、ここでは違うんだ。いくら「頭が良いから」なんて褒めてもらっても、人に認めてもらう材料にはならない。

「本当に家柄だけあれば良いって感じね。どんなに歳が若かろうと、学歴が無かろうと関係ない。賢い女の子だとは聞いてはいるけれど、所詮は田舎から出てきたお姫様。……たかが知れてるわ」

 学校へ行っていないというのは、こういう事。
 学歴が無いというのは、自分が知らない場所で笑い物にされる大きな種をまいてしまっているようなもの……。一流企業を背負う跡取りの妻としては、あまり具合の良い事じゃない。
 一さんは「行かなくても良い」とは言ってくれたけど、私はもう少し、世間体とか一さんの立場とかを考えた方が良かったのだろう。
 行った事が無いから、行かなくても良いなら行かない。
 そんな我儘を、通すべきではなかった。

 これは、世間から見た私の姿なんだ……。

「その可愛らしさで、せいぜい一さんの心を慰めてあげて。わたしは“女”の部分で彼を慰めてあげるつもりだから」
「あの……、それはどういう……」
 さすがに、この話題には黙っていられない。
 私が口を開いた時、凛とした声が、場の空気を引き締めた。

「失礼な言動は、お慎み下さいな。祥子様」

 通路から姿を現したのは、椿さんだった。










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