「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・16『無駄な抵抗ですか?』

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「お兄様のご機嫌が優れなかったのは、そういう事でしたのね……」
 祥子さんの言葉に動揺した私とは違って、椿さんは毅然とした態度を崩さなかった。
「そのお話をしたのは、昨日ではありませんか? 昨日は一日中お兄様のご機嫌が優れなかったようですわ。そんなお話を持ちかけられたのなら、御気分も悪くなるというものね」
「話を通したのは日曜日よ。それも社長に直接。社長にだって御了解は頂いているわ。一さんにもお話を通して頂いているはずだし、断りが来ないという事は、了解頂いているという事でしょう?」

 私は日曜日の出来事を思い出す。
 外出から帰って来て、一さんはお父様に呼ばれた。お話を終えて部屋へ戻ってから、どこか様子がおかしかった。
 あれは、お父様に祥子さんからの申し出を聞いたせい?

 でも、プライベートのお世話、って……、子供を産むって……。いわゆる、お妾さんとか二号さんとか、そういった女性の事でしょう?
 自分からわざわざ「お妾さんになります」って公言するのは、恥ずかしく無いのだろうか。祥子さんの言葉を借りるなら、彼女は学歴もキャリアもある立派な女性なのに。
 それともこれは、本妻の陰になんてなるつもりは無いっていう意思表示なのだろうか。私みたいな子供は、相手になんてしていないっていう……。
 そう考えると、何だか凄く悔しくなってきた。
 祥子さんに比べたら、確かに私は子供だけど、それでも一さんの為に何ひとつ出来ないなんて思われたくない。

 一さんだって……、不満だったら求めたりしないって、言ってくれた……。

 足りない物はいっぱい有っても、一さんの為になれないなんて、思いたくない!

「いい加減になさいな。あなた、何をしにいらしたの? お話をするどころではないわ。ただ嫌がらせをしに来たようにしか見えません」
「だって、やっぱり御挨拶をしておいた方が良いと思ったのよ、本妻サンに。一さんは優しいから、下手をすれば私が子供を産んでも、気を遣って本妻サンにはずっと会わせてもらえないかもしれないでしょう? さくらちゃんだって、どんな女が葉山の跡取りを産むのか、知っておきたいんじゃない? 椿姫、あなたはお嫁に行って葉山から出て行く人でしょう? あまりうるさく口出ししないで欲しいわ」

「子供くらい産めます!」

 私は椿さんの後ろから出ると、思いきって声を上げた。

「一さんの為に、葉山家の為に、……跡取りは、私が産みます! それが……私の役目だと思っていますから!」

 両手を胸で握り締め、言葉の内容に恥ずかしさを感じるあまり視線を上げる事は出来なかったけれど、それでも私は懸命に自分の気持ちを口にした。
「プ……、プライベートのお世話なんて……不要です。……一さんのお世話は、私がします……。お、幼いといわれるなら、幼くても御満足頂けるように、何でもします……。だから、……お妾さんなんて、必要ありません!」

 必死だった。
 ただただ、理不尽な祥子さんの言葉を否定して、自分の立場を立証する事に……。
 黙っていたら、話はどんどんと進められてしまう。私が気持ちを口にしなくては、相手の思うがままだ。
 私の為に、椿さんも意見してくれた。どんなに祥子さんが失礼な発言をしようと、取り乱す事無く、正論で私を庇ってくれている。
 椿さんの気持ちに応えたい。それは、口にするのも恥ずかしい内容ではあるけれど……。

 けれど、そんな私の思い切りも、祥子さんは一笑に付した。
「可愛いわねぇ、真っ赤になっちゃって。そのくらいで真っ赤になるようじゃ、一さんに“御満足頂く事”なんか出来ないんじゃない?」
「そ、そんな事、ありません……っ!」
 
 恥ずかしがっちゃいけない……。
 恥ずかしがって俯いてばかりいたら、祥子さんは勝ち誇ってしまうばかりだ。
 でも、心が追いついていかないの。
 男女関係が絡む大人の会話に、同レベルで着いて行こうとしたって、今の私には無理だ。
 頑張って頑張って、一さんに見合う女性になろうと背伸びをしても、コンプレックスばかりが先に立って大人になんかなり切れないように、祥子さんのような大人の女性に合わせようとしたって、無理ばかりが目立ってしまう。

 ――――私は、本当に子供なんだ……。

 急に悲しくなった。本当に私で良いのだろうか。ずっと心にわだかまりを作っているコンプレックスが、大きな疑問になって心の中を占拠する。

 私は何も言えなくなった。
 眉を寄せて見守っていてくれた椿さんも口をつぐみ、静かな温室の中、祥子さんがフンっと鼻を鳴らした音だけが大きく聞こえたような気がする。

 けれど、その嘲笑に、一矢報いる声が場の緊張感を打ち砕いた。

「さくらは、充分に満足させてくれていますよ」

 驚いて顔を上げる。椿さんと祥子さんも、同じ場所に視線を向けた。

「葉山の跡取りを産むのは、さくらだと私が決めている。心配は無用」

 芝をゆっくりと踏みしめて、この場に緊張感と安堵感をもたらしてくれるスーツ姿の男性。
 驚きを隠せないまま見詰める私を、一さんはにこりと微笑み、肩を抱き寄せてくれた。

「そうだろう? さくら」









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