「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・17『私のままで良いのですね?』

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「一さん……」
 私は全身の力が抜けそうになった。
 一気に緊張の糸が切れてしまったかのような脱力感。一さんに肩を抱かれていなければ、きっと崩れ落ちてしまう。
 力が抜けた私の髪を、一さんはゆっくりと撫でた。
「さくらは、妻としても女性としても、完璧だ。きっと、葉山の為に素晴らしい跡取りを産んでくれる。文武両道に長け、強靭な精神力を持った完璧な葉山の跡取りを」
 いつだったか、「跡取りは男の子ひとりで良い」と言っていたのを思い出し、私は恥ずかしくなってしまった。
 生まれてくる子供の性別なんて今から分かるはずもないのに、一さんの自信に押されて、絶対その通りになるだろうと思ってしまっていたのも確か。

「祥子さんが申し出てくれたお話ですが、今日、正式に父上にお断りしておきました。その話は、君にも伝わっていると思う。だからここへ来たのだろうね」
 一さんの視線を追って、私も祥子さんに目を向ける。
 彼女は気まずそうに下唇を噛んで、一さんを見ていた。けれど、これは何か言い返さなくてはいけないと悟ったのか、私に鋭い視線を向けてきた。
「でも……、こんな小さな子に跡取りを、だなんて……。いったい何年かかるものか分からないでしょう? 一さんの辛抱が切れてしまうわ」
「さくらが十六になったら籍を入れる事になっている。あと一年だ。跡取りも、すぐに出来るだろう」
「……え? ……十六……?」
 祥子さんは目をぱちくりとしばたたかせ、私と一さんを何度も見比べた。
「……十六……って……、じゃぁ、今は十五歳なの?」 
 
 えぇと、もしかして……。もっと小さいと思っていたのかしら……。
 確かに顔だけを見たら、私はどちらかと言えば童顔だから、少し幼く見えるのかもしれないけど。
 いくつに見えていたのかしら。十二? 十三? それだもの「ちっちゃい」「ちっちゃい」って言うのも無理は無いわよね。
 今更ながら、歳より幼く見られていた事に私が驚くより、祥子さんの方が驚いている。彼女はまだ不思議そうに私を見ていた。

「それと、学校へ行っていようがいまいが関係は無い。学歴など無くたって大成した人間は沢山いる。第一さくらはIQが高い。家庭教師の教授達も、扱いに困るほどだ。将来私の秘書として、充分な仕事が出来るのなら、そんな物は必要が無い」

 一さん、どうして学歴の事で責められていた事を知っているんだろう。
 もしかして、現れるよりも先に来ていて、様子を見ていたのかしら……。

「それに、祥子さん」
 一さんは私を持ち上げ、片腕で抱いて綺麗な微笑みをくれた。
「どうやら私は、祥子さんが言った通り、“小さな子供”にしか興味が無いようなのですよ。但し、さくら限定ですがね」

「は、一さん……」
 一さんに抱きかかえられたまま、私は慌てた。
 祥子さんが一さんに対して口にした、偏見を持った発言。その通りの言葉を出して来たという事は、やっぱり一さんはずっと見ていたんだ。
 これは、本人には絶対に聞かれたくない言葉だったのではないだろうか。祥子さんは、一さんが居なかったからこそ口にしたのだろうし。
 気まずい顔で言葉も出ない祥子さんに、一さんはもうひとつ付け足した。
「例え君が、無理矢理プライベートの世話係になったとしても、私は指一本として君には触れないだろう。例え全裸でベッドへ忍んできても、だ」

 これは、女性にとっては屈辱かもしれない。特に、自分に自信を持っている女性には。
 その証拠に、祥子さんは下唇を噛み、何も言えなくなってしまっている。
 そんな彼女を、一さんは完璧に反抗不能にした。

「御引き取りを、祥子さん。私の妻は、さくらだけですよ」

 ――涙が出そう……。

 ううん……、涙が出た……。

 一さんの言葉が、嬉しくて嬉しくて。

 私で良いと言ってくれた。私で満足だと。
 妻になるのは、私だけだと。

 一さんに見合う女性になりたいと、気にし過ぎていた。歳が離れていて、周囲からも子供にしか見てもらえない事に、コンプレックスを持っていた。
 でもそんな事、気にしていたのは、私だけだったんだ……。

 一さんは、こんなにも私を想ってくれている。

 抱き上げられた状態のまま、私は一さんに抱き付いた。
 嬉し涙を感じている間に、祥子さんは温室を出て行ったようだ。

「一さん……」
 大好きって叫びたかった。恥ずかしくても、はしたなくても、世界で一番好きって、大声で叫びたかった。
 彼の腕の中で足をパタパタさせる私を、一さんは軽く笑いながら抱き締める。
「来てみて良かった。父上には断りを入れたが、彼女にも釘を刺しておこうと思ったら、所用で会社を出たと言われてな。もしやと思ったんだ。昔から、少々先走って出しゃばり過ぎるところがある人だった」
「一さん……、有難う」
 涙目が恥ずかしかったけれど、それでも微笑んで顔を上げる。半泣きになっている私を見て、一さんは苦笑した。
「椿が頑張ってくれていたので、タイミングの良いところまで祥子さんの話を聞いている事が出来た。彼女ももう何も言ってこられないだろうが、すぐに庇ってやれなくてすまなかったな。……椿も、有難う」
 私の事情を説明して、一さんは椿さんに顔を向けお礼を口にする。そうだ、椿さんにもお礼を言わなくては。あんなにも私を庇って、心遣いを下さったのだから。
 一さんが現れてから、口出しは無用と傍観していた椿さん。彼女もきっと安心して微笑んでくれる。私はそう確信して彼女を振り向いた。

「さくらさん……」

 笑って下さると……思っていたのだけれど……。
 どうしてそんなに、眉を寄せて厳しい顔をなさっているのでしょうか……。

「人前で、何というはしたない! 懐妊前提の行為を匂わす発言など、恥ずかしいとは思いませんか!? 女性として、言葉を慎みなさい!」


 ――――私は、約一時間、椿さんに『女性の慎み』 について、お説教を受けた……。








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 次回完結になります。
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