「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・18『世界一幸せです!』

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「秘書をしていた時から、アプローチの強い人だった。負けず嫌いで気が強いから、他の女性秘書よりは長く持っていたが、一年前さくらを迎えると決めた頃に自分から辞めていったんだ」
 説明をしながら、お仕事帰りのお土産に買ってきてくれた水羊羹を、一さんは自らお皿に移してくれた。
 お仕事で疲れているのに、甘味の御用意をさせるなんてやっぱり申し訳ない。私はお手伝いをしようとソファから立ち上がりかけるけれど、すかさず一さんに手で制された。
「座っていなさい。私がやる。さくらは、椿のお説教で疲れただろう?」
「いえ、そんな、疲れてなんて……。それに、あれはお昼の事だし……」
「椿はああいった固い性格なのでな。決して口煩くしようとしている訳ではないから、恨まないでやってくれ」
「とんでもないわ……。私が悪いのだし……」

 そう、私が悪い。
 例えあんな状況であっても、男女の行為を臭わせる発言をしてしまったのは、慎みが無い言動だったのだと思う。
 貞節を重んじる椿さんのような女性から見れば、とんでもない発言だったのだと思うのよ。叱られて当然だわ。

 祥子さんに煽られて私が言った言葉は、自分で思い出しても恥ずかしい発言だ。
 「子供は私が産みます」なんて、結婚も成人もしていない私が言うべき言葉では無かった。

「さくらを迎えると父上が決めた時、祥子さんはショックだったのだろう。恐らく自分が、花嫁候補に選ばれると思っていた気配はあったのでな。それで怒ってしまって辞めたんだ。それなのに、いきなり『プライベートの世話をしたいと申し出てきている』などと父上から聞かされた時は驚いた」
 私の手に水羊羹のお皿を渡して、自分のお皿を片手に、一さんが隣に腰を下ろす。竹匙で一口分掬うと、私の口元に差し出してきた。
 一さんのお部屋などで二人きりの時、よくこんな風に食べさせてくれたりするのだけれど、未だに気恥しい。
 それでも、とてもくすぐったくて幸せな気持ちになる。私はぱくりと一口頂いて、指で口を隠し、水羊羹の上品な甘さに顔をほころばせた。
「まぁ、私が子供を産んで欲しいのも、孕ませたいのも、さくらだけだから、断る事に迷いは無かった」

 一さんの言い方があまりにも直接的で、私は水羊羹が喉に詰まってしまう。
 詰まったところで柔らかいから、すぐに喉を通っては行ったけれど、その後少し咳込んだ。
「大丈夫か、さくら? どうした?」
「どっ、どうした……って……」
 ついつい顔が赤くなってしまう。もぅ、こういった事を平気で言うのよ。どうしよう、一さんってばっ。
「だが、嘘では無いぞ。大体、私が年中発情出来るのはさくらだけだし」
「はっ、はじめさんっ」
 自分のお皿と私のお皿をテーブルへ置いて、一さんは素敵な笑顔を浮かべたまま私を抱き締めてくれた。
「だから、葉山の跡取りを産めるのはさくらだけだ。そんなお前に、不満などある訳がないだろう? もう、おかしな事を気にするな、分かったな、さくら」
 歳が離れているから、子供だから、そんな事を私が気にしていると、もしかしたら一さんは気付いていたのかもしれない。

 抱えていたコンプレックスに気付かれていた事が恥ずかしくて、私は悪戯な質問をしてみた。
「あの、一さん、いつですか?」
「ん?」
「いつ、産ませてくれるんですか?」
 実は、いつも余裕な態度を取る一さんの困った顔が見たくて出してみた質問。けれど答えは、すぐに返って来た。
「いつ産みたい?」

 これはずるいですよ、一さんっ。
 だって、私が決められる事では無いじゃないですか。……私ひとりで出来るものじゃないのですから……。
 一さんを悪者にしたくて、私は本心を口にする。
「……すぐでも良いです」
「すぐは駄目だ」
 即答。
 そうよね、「すぐでも良い」っていうのは本心だけど、でもやっぱり、二十歳になってからとか言っておいた方が良いわよね。

「今すぐ作ったら、子供が産まれる時、さくらはまだ十五歳だ。籍が入れられない」
 驚いて目を見開き、私は頬を熱くした。
 駄目、って、そういう意味で!?

「せめてあと数カ月待て。私の予定では、さくらが十六になった一カ月後に子供が産まれる事になっている」
「予定、ってっ! 一さんっ!」
「何だ?」
「そっ、そんな予定、聞いていません!!」

 私が十六歳になったら籍を入れる事は決まっているから、その一カ月後なら、子供は間違いなく“葉山の子供”として産まれてこられる。
 けど……、予定、って……、一体いつ立てたんですか!

「嫌か?」
 ……急に消沈した声を出すのはずるいです……。
「ここまで待つのも、私にしては大きな譲歩だぞ」
 私は赤くなってしまった顔を、一さんのシャツに埋めた。
「……嫌な訳がないでしょう……」
 彼の背に腕を回し、力を入れてしがみつく。私を抱き締める腕に力が入り、一さんは私の髪を撫でた。
「立派な跡取りを、頼むぞ」
「はい……。嬉しい……、一さん……」
 恥ずかしいけれど嬉しくて堪らなかった。“その日”はまだなのに、この身体に一さんから賜り物を貰えるのだと思うと、気持は限りなく高揚する。

 胸に顔を埋めた私の顎を掬い、一さんの唇が重なる。そのまま甘いキスを貰いながら、私はソファに倒された。
 ブラウスのボタンが外されていくのを感じると、私の胸は鼓動は大きくなる。
「取り敢えず、さくら……」
「はい……」
「制服を着てくれ」

 ――――はい?

 突然の要望に、訳も分からず目をぱちくりとさせていると、一さんは至って真面目な顔で私を見詰めた。
「この間貰った制服で良いぞ。どうしてもあれを着たさくらを抱きたい欲求が消えてくれない」
「そっ、それってっ!」
 ――マニアックですっ!

 どっ、どうしよう、お断りするべき!? でも、旦那様のご要望を聞き入れるのは妻の役目であって……。ええと……。でもっ!

 目をキョロキョロさせて動揺する私を見て、一さんは意地悪く口角を上げた。
「さくら、温室で言っていたではないのか? 『一さんに御満足頂けるように、何でもします』と。私にはしっかりと聞こえたぞ」 

 一さん! ずるい!!

「一さんっ」
「さくらは可愛いから、色々楽しみだ」
 一さんはよっぽど楽しいらしい。とうとうクスクス笑いが止まらなくなった。
 ほらっ、意地悪するから、笑い上戸が止まらなくなるのよ!
 止めてあげないんだから!

「さくら、愛しているよ。さくらを妻に出来るのだから、私は世界一幸せな男だ」

 それでも……。
 “あの”一さんが、幸せだって言って笑ってくれていたら、私だって、堪らなく幸せなの……。

「私も、世界一幸せです……」

 抱き締めてくれる腕。守ってくれる人。
 何にも変えられない幸せを感じて、私は夢を見る。


 思い出の桜。
 大好きな桜の木の下で、親子三人、微笑み合う姿を――――。




     『恋桜~さくら~・3』

        END








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**********

後書き

 こんにちは、玉紀 直です。
 『恋桜~さくら~』第3部、お付き合い頂き、有難うございました!
 全十八話でしたから、お話自体は短かったのですが、週一更新(たまに週二)が続いていたので、随分と時間がかかってしまいました。 
 それでも最後までお付き合い頂けてとても嬉しいです。

 どうも今回は、あまり桜の木が関係するエピソードは出てきませんでしたが……。
 ひとまず、書きたかった3部まで書く事が出来ました。

 一さんも言っていましたが、さくらちゃんは十六歳になった一カ月後に、ひとり息子になります学君を産みます。
 御希望通り、文武両道に長け、強靭な精神力を持った子になります。(某連載では「殺しても死なない史上最強御曹司」と呼ばれております。(笑))

 歳の差カップルのお話を見守って頂き、誠に有難うございました。
 『恋桜~さくら~』は、これで完結となります。

 お読み下さった皆様に感謝をこめて。

 有難うございました!




     玉紀 直
     2012/0727




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~ Comment ~

直さん、こんにちは(*・ω・)ノ
【恋桜】お疲れ様でした&ありがとうございました。
番外編と少しテイストが違っていて、楽しく読ませていただきました。
椿サンがやはりかっこいい♪

さくらちゃん、これから益々一サン色に染められちゃうんだろうなー←なんかエロい(笑)

これから益々お似合いの2人になっていくんでしょうね。

意外にマニアックな一サンの一面を見たのですが(笑)
今回は一サン視点はないのでしょうか←とか言ってみる(^^;)


ありがとうございました☆

みわさんへお返事です7/29分

みわさん、こんにちは!

『恋桜』読んで頂き有難うございました!

 いやいや、何というか、『理想~』で番外編としてあげていた分を全て書けたので、少しホッとしていたりします。(^^ゞ
 3部は短いながらも祥子さんがグレードアップ(爆)していましたので。

 3部は久し振りに書いたせいか、何だか一さんが「あれ?」って感じの性格に。(笑)
 制服ネタは、実はキリ番リクエストだったのですよ。それを入れたらあんな一さんに。o(>▽<o)(o>▽<)oキャハハ

 一さん視点……。
 今までの経過でいえば書いても良い感じなんですけどね……。
 ちょっと事情がありまして、書けるかどうかが分からないのですよ。
 もしも書けた時は、またよろしくお願いします。

 有難うございました!

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