「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第10章≪迷宮の天使≫・12

 ←第10章≪迷宮の天使≫・11 →第10章≪迷宮の天使≫・13


 神藤の意識が戻り、三日。
 彼の回復を喜んだのは身内だけでは無い。
 お付き仲間を始めとする辻川家の使用人は元より、統括本部などで共に仕事をしていた社員も同様だ。
 当然見舞いの希望者も多いが、辻川総合病院の特別フロアは、辻川側親族他関係者以外の立ち入りを禁じている。
 そうなると気持ちを表す手段として、見舞いの品や花などが大量に届けられる事になるのだ。

「有難う。章太郎」
 その言葉は、神藤に届けられた大量の花を病室やロビーなど様々な場所へと振り分け、枯れかかった物は抜き、毎日手入れをしている事に対する礼なのかと章太郎は思った。
 現に今も、統括本部秘書課の女性社員達から、今朝がた届けられた花をフロアロビーに飾り、戻って来たところだ。
 紗月姫は今、久々に学園へと赴き、学園長と話をしている。彼女が居ない間、神藤の傍に付いているよう命じられたのだ。
「いや、礼には及ばないさ。ただ、そろそろロビーも花だらけで結構辛い。今日辺りから少しずつ邸へ持って行かせて、執務室やメイドの休憩室なんかに置く予定にはしているのだが……」
 病室内ならば広いので、まだ飾る余裕はあるようだが、室内に飾るのは紗月姫が用意した花や、親族が持ち込んだ物だけと決めている。
 用心の為と考えるのが普通だが、実は女性から贈られた花が多い為、振り分けをしている章太郎が紗月姫に気を遣っているというのが本当のところだ。

 章太郎の返事を聞き、ベッドのリクライニングで身体を起こし本を読んでいた神藤は、ふと目元を和めた。
「そうじゃない。私が事故に遭った時、後の処理を全てお前がやってくれたと聞いた。……お嬢様の付き添いも……。有難う、大変だったろうと思う」
「え? ああ……」
 話を理解した章太郎は、神藤の傍に近付くとベッドに片手を着き、人差し指を彼の鼻先へ突き付けた。
「“未来の旦那様”だろう? 恩を売っておいて損は無いさ」

 神藤は喉の奥で笑いを詰まらせ、突き付けられた指先を摘まんでクイッと捻る。
「人に指を向ける不作法者が“未来の執事”では、再教育が必要なのではないか?」
「失礼致しました」
 離された指を、「痛かったぞ」の思いを込めて振りながら神藤をひと睨みするが、その表情はすぐに照れ笑いに変わった。
「まぁ、実際、……煌の仕事のやり方を真似ただけだ……。俺の知識や実力だけじゃ、ひとりで全てを回すなんて出来なかった。……それでも、いっぱいいっぱいで、目が回りそうだったよ。……やっぱり、煌は凄いと思い知らされた」
「章太郎……」
「本当に、煌なら、将来素直に『旦那様』呼びが出来そうだ。家の名前だけで実力も無い男を、お嬢様と一緒に辻川財閥を動かす人間だなんて、俺は認めたくなかった。――お前で、本当に良かったと思う」
 神藤の出生を知ってから、ずっと胸に仕舞い、彼には伝えていなかった思いを章太郎は口にする。
 彼は右手を胸に当て、綺麗な動作で上半身を僅かに倒した。
「辻川の、より一層の繁栄の為、未来を創る旦那様のお力になります事を誓約致します」

 深い忠誠の言葉を口にしてから、章太郎はニヤリと口角を上げた。
 彼に合わせるように神藤も不敵な笑みを見せる。二人の中に未来を見据えた主従関係が出来上がった時、ノックの音と共にドアが開いた。
「戻ったわよ! 寝ているの!?」
 問いかけながら飛び込んできたのは紗月姫だった。慌てた様子を見て、章太郎はクスッと笑う。
「お嬢様、そんなに心配なのでしたら、お付きに言って連絡を頂ければ、神藤の様子をお伝え出来ましたのに」
「きっ……、来て、直接見た方が早いでしょう!?」
 普段の落ち着いた彼女ならばそうしていたのかもしれないが、今の彼女は早く神藤に会いたいが為にかなり慌てていたようだ。とにかく彼の元へ到着する事を最優先にしていたのだろう。
 神藤はそんな紗月姫を見て嬉しそうに笑う。

「おかえりなさいませ、お嬢様。学校はいかがでしたか?」

 二人きりではないが、唯一居るのは気心が知れた章太郎だ。もう少し砕けた態度を取るか、思い切り砕けて迎えてくれた方が紗月姫としては嬉しかったのだが、取り敢えず今の気持ちを、彼女は遠回しだがストレートに表現する。
「学園長と話をしてきたのよ。欠席が続いてしまったけれど問題は無いわ。――あ、水野、もう良いわよ。後は私が付いているわ」
「承知致しました」
 二人きりになりたいのだという気持ちを察し、章太郎は微笑ましげな笑みを浮かべて頭を下げ、退室した。

 ドアが閉まると、紗月姫は約三秒待ってからベッドへ飛び乗り、神藤へにじり寄る。
「ただいま、煌。具合は? 大丈夫?」
「紗月姫の顔を見たら元気になったよ。おかえり。紗月姫こそ、疲れているのではないのかい?」
 神藤は手にしていた本を置き、紗月姫の頭を抱き寄せた。
 これが“神藤”としての仕事中なら、まず始めにベッドへ飛び乗るという嗜みの無さを叱責するところだ。

 紗月姫は抱き寄せられた肩から顔を上げ、神藤を見詰め微笑む。
「煌の顔を見たら、元気になったわ」
 そのまま彼の肩から両腕を回して抱きつくと、甘えてくる紗月姫の身体を抱き、髪を撫で、神藤は至福に微笑んだ。
「こんなにハシャグ紗月姫も、珍しいね」
「ふふ……、だって、嬉しいのですもの」

 神藤は紗月姫を更に引き寄せ膝を跨がせる。こんな姿を彼女にさせているところを椿にでも見られたものなら、「はしたない!」と小一時間程度のお説教は覚悟しなくてはならないと感じつつ、今感じる幸せのまま紗月姫を抱き締め長い唇付を始めた。








人気ブログランキングへ



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第10章≪迷宮の天使≫・11】へ  【第10章≪迷宮の天使≫・13】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第10章≪迷宮の天使≫・11】へ
  • 【第10章≪迷宮の天使≫・13】へ