「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第10章≪迷宮の天使≫・13

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 取り敢えずは三日ほど開けよう。
 意識が戻ったばかりでは行動も制限されるだろうし、体力的にも以前と同じという訳にはいかない。
 お見舞いに行くとしても、神藤に気を遣わせては負担になってしまう。
 そう考えた学と美春は、月曜日の朝に一度様子を見に行ってから三日ほど見舞いを控えた。
 それでも差し入れは忘れず、一日に一度は様子を知る為に章太郎へ連絡を入れていたのだ。

 元気になっているであろう神藤を見られるのはもちろんだが、美春は紗月姫に会えるのが楽しみだった。
 先日会った時は、泣き腫らした目をして嬉しさに言葉も出ない様子だった。
 三日もあれば、神藤の声を聞き、動いている彼に触れ、その瞳に見詰められて、大分本来の彼女を取り戻している事だろう。
 以前のような、大人びた中に不敵さをも感じさせられる笑みを、見る事は出来るだろうか。
 エレベーターを走り出て、学を置き去りに病室へ向かってしまうほど、美春は気持ちが浮き立っていた。
 今日はゆっくり話をして行ける事を期待して、仕事も上手く時間内で切り上げたのだ。ロビーで待機していた章太郎にドアを開けてもらい、美春は満面の笑みで室内へ足を踏み入れる。

「こんばんは、紗月姫ちゃん、神藤さん、気分は……」

 爽やかな御機嫌伺いを目指した美春。しかし彼女の言葉はピタリと止まった。
「おやおや、ごきげんよう、お二人さん」
 そして、美春の言葉を止めた原因を、学が口にしたのだ。
「あいっかわらず、ベタベタベタベタしてるなぁ。それは、紗月姫ちゃんが甘えているだけかい? 同じ男として、どうも違うように見えるんだけど?」

(学! ひと言多い!)

 同意見だが、言ってしまえば余計なお世話という場合もある。だが、学がつい余計なお世話をしてしまう気持ちも分からなくもない。

 神藤が上半身を起こす大きなベッドの上には紗月姫が乗っている。
 それも、乗っているのはどう見ても彼の膝の上だ。
 いや、紗月姫が神藤の膝に乗っているなど珍しくも何ともない事だ。そのくらいで驚いていては、この二人と付き合う事など出来ない。
 しかし、膝に乗って何をしていたのかと思えば、紗月姫が神藤に、小さくカットした苺を食べさせてもらっていたのだ。
 それも、フォークなどを使っている訳ではなく、彼の指だけで……。
 美春と学が入室した時、丁度口の中へ入れてもらったところだったらしく、紗月姫が神藤の指先を唇で食(は)んでいる瞬間を目の当たりにしてしまった。

 その光景が、何とも雰囲気が有って色っぽい……。

 学も冷やかしたくなるというもの……。

 ここで予想されるのは、神藤の反応だ。彼はにこりと笑い、きっとこう言うだろう。
「いいえ、とんでもありません。私は以前のように、お嬢様に対してデザートの提供を行っていただけで御座いますよ? 学様? もしやお嬢様の仕草をご覧になって、性的興奮を覚えられたのではありませんよね?」――と。
 それを言われたらどう返してやろうかと先読みをしていた学ではあったが、神藤は紗月姫の唇から指を外し、彼女が食んでいた指先をぺろりと舐めてから微笑んだのだ。
「はい、いささか無理を言って食べて頂きました。お嬢様の可憐な仕草に、抑えられない性的衝動を煽られ、その高まりに己を叱していたところで御座います」
「あきっ……、っ神藤っ!」
 神藤の反論に紗月姫が赤くなる。“お世話役”の彼と一緒にいる時なら、平気な顔をしているはずだ。慌てるという事は、後ろめたい部分があるからだろう。

「し……神藤……、下ろして、良いわよ」
「何故ですか? 苺を食べ終えるまで乗っていると言われたのはお嬢様ですよ?」
「だって、ほら……、学さん達が……」
「私は平気ですが」
「神藤っ」
「嫌です。お嬢様の日常のお世話が出来無くて辛いというのに、せめてこのくらいはやらせてください」

 花恥ずかしげに羞恥し、頬を染める紗月姫。彼女のか弱気な抵抗を、神藤は強引なまでに従者の権限で抑え付ける。

 ――――こんな二人は、見た事が無い。

「はい、どうぞ。お嬢様」
 神藤が小さくカットされた苺を摘まみ、紗月姫の口元へ当てる。刹那、戸惑いは見せるものの、見詰める瞳に惹き込まれ、紗月姫は柔らかな唇で神藤の指先を苺ごと食んだ。
「ミルクを付けますか?」
「いらないわ。充分甘いもの。――神藤のお陰で」
「光栄です」

 そして、見ている方が恥ずかしくなって来るような光景を、しばらくの間、学と美春は見せつけられてしまったのだ。


*****


「神藤さんさぁ、何だかちょっと性格が変わったような気がしない?」
 帰りの車内で、美春は溜息と共に病院での感想を口にした。
「何て言うの……。ちょっと、強引っていうか……。元々押しの強い人ではあったけれど、紗月姫ちゃんに対してどこか今までとは違う、って言うか……。主従的な時でも、実は婚約者なんだ、っていう頭が有るから態度が違ってくるとかなのかしら……」
 そして、神藤の意見に負けて自分の主張を譲ってしまう紗月姫。
 結局彼の希望で、紗月姫が苺を食べ終えても彼女は膝に乗りっ放し。学と美春が帰る時まで降りる事は無かったのだ。
 はにかみながらも紗月姫が幸せそうで可愛らしくて、見ている美春も嬉しくなった。

「事故で箍(たが)が外れたのかもしれないな。元々サドっけの有る人だったけど、……紗月姫ちゃん大丈夫かな……」
 ハンドルを片手に溜息をつく学。何をまた冗談ばかりと運転席の彼を見た美春は、対向車のライトに照らされた学の表情が意外に真剣である事に、軽笑を引き締めた。
「しっ、神藤さんはそんな人じゃないわよ。あの人、優しいもん。サドっけが有るのは学でしょう?」
「この優しい俺の、何処にサドっけが有るんだよ」
「よっ、夜這いかけようとするような人はサドですっ」

(まだ根に持ってるし……)

 学は鼻で息を抜くと、ハンドルを切りながら美春を振り向く。
「よし、事前に言っときゃいいんだな。じゃぁ、今日は実家に帰れ、夜中に部屋に行くから」
「なっ、何で夜中なのっ」
「夜這いに行くから。事前に言っとけばサドじゃないんだろ?」
「な、何で夜這いなのよぉ」
「神藤さんと紗月姫ちゃんがベタベタしてて悔しかったから、あれ以上ベタベタしてやるっ」

 そんな事を張り合われても……。とは思うが、負けず嫌いの学は至って真剣だった……。








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