「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第10章≪迷宮の天使≫・14

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「じゃぁ、また明日来るわね」
 パソコンのモニターに見入っていた神藤の顔の前で掌を上下させ、彼の注意を逸らし、紗月姫は小首を傾げて微笑んだ。
「いくらお仕事のお許しが出たからって、いきなり根を詰めて夢中にならないでちょうだい。仕事にやきもちを妬くなんて事はしたくはないわ」
 ベッドサイドテーブルを押しやってパソコンを放し、神藤はベッドの傍らに立つ紗月姫へ手を伸ばす。
「おいで。紗月姫」
 その手に掴まり、紗月姫はベッドに乗って神藤に抱き付いた。
「煌がタフなのはもちろん知っているけれど、心配なの……。無理はしないで……」

 意識が戻ってから、神藤の体調は極めて良い。
 各種検査も異常は見られず、元々の基礎的根幹が強いせいか、体力の回復も目を瞠るものがある。まさしく「生まれ変わった」という言葉がぴったりだ。
 今も統括本部から届けられた入院中の仕事をチェックしていたところだ。
 希望するなら自宅療養も検討出来ると医師からは言われている。紗月姫としてはその方が嬉しいのだ。彼女はずっと傍に居たいのに、朝、病院に来ても二十時には帰らなくてはならないのだから。

「帰りたくない……、煌と離れたくないわ……」
 薄いパジャマ越しに神藤の体温を感じ、紗月姫はその温かさに頬擦りをする。望めばいつでも傍にあったはずの温もりを制限されるもどかしさは、彼女に切なさをもたらした。
「……私も、帰したくはないよ……」
 紗月姫を胸に抱いたまま、神藤は彼女をベッドへと倒す。身体を起こし、シーツの白に映える黒髪をひと房取って唇を付け、紗月姫の頭を撫でた。
「ずっと、紗月姫を感じていたいのに……」
 両手を取り、指を絡め、か弱くも白い肌に痕が付いてしまいそうなほど思いを込めて彼女の手を握ると、神藤は紗月姫に唇付けた。

 唇から伝わる温かさは紗月姫の心を蕩かし、神藤への想いを強くする。
 離れたくはない。ずっと繋がっていたいと思う気持ちは、二人の舌を指と同じくらいの強さで絡めさせた。
「あき、ら……」
 どこか焦れる口調は、紗月姫がもっと愛されたいと望む気持ちを神藤へ伝える。彼は唇を離すと、ゆっくりと開いた艶めく瞳と視線を絡ませ、彼女の瞼に唇を落とした。
「まだ、駄目だよ」
「……煌ぁ……」
 握り合わせた片手だけを解き、神藤はゆっくりと紗月姫の身体を撫でる。
「今回の事で、本当に傷付いたのは私ではないよ。……一番辛かったのは、紗月姫だ。心も身体も……。私は、それを完璧に癒してあげたい……」
「そんな……。私だけじゃ……」
 身体を撫でる手は彼女の下腹部で止まる。紗月姫の言葉も止まり、二人の心に共通の想いが広がった。

「“あの子”が、命をくれたのだと、私は思っている。……藤が見せた神秘も、紗月姫が“皆”と話せなくなったのも、……全て、“あの子”の奇跡なのだと……」

 藤の終焉は寿命。紗月姫に起こった感覚の変化は流産のショック。納得がいく理由が欲しいのなら、そんな解釈をする事が出来る。しかし現実では見えないところで、違う何かを二人は感じているのだ。

「そんな奇跡を導いてくれた紗月姫を、……大切にしたい。……私には、その義務があると思っている」
「煌……」
 紗月姫は下腹部に当てられた神藤の手を取り、強く握って自分の胸に当てた。
「同じ夢を、見たのね……」
「見たよ……。きっと……」

 とても優しい夢を見た事は覚えている。
 誰かが、迷宮の出口へ導いてくれた夢だ。
 だが、夢を見た時は覚えていたであろう内容を、今の二人は覚えてはいない。
 誰が現れたのか。
 何を言ったのか。

 それでも、記憶に残るのは、とても愛おしく安らかな夢であった事。

「愛しているよ……、紗月姫……」
 涙が浮かび始めた紗月姫の目尻にキスをすると、握り締めていた手を口元へ当て、神藤は指に唇を這わせた。
「それにね、今、我慢せずに紗月姫を抱いてしまったら、私の方が夢中になってしまって腹上死してしまいそうだよ」
「ふっ、……腹上っ……、煌!」
神藤は軽く声を立てて笑うと、今の台詞に反抗して彼を叩こうとした紗月姫の両手を取り、シーツへ押し付けた。

「生涯、紗月姫は私の、天使だよ」

 胸が締め付けられる。幸せが強く全身を襲い、紗月姫の目尻からは自然と涙が零れた。
「愛しているよ……」
「……分かっているわ……。何回言うの?」
「何回でも……」

 紗月姫に唇付け、神藤は十八年間の想いを繰り返す。
「何回言えば良いのか分からない。何回言えば、今まで口に出来なかった年月を埋められるのか分からない。だから、何度でも言おう……。――愛しているよ、紗月姫……」

 二人の心に浮かび上がる十八年間。
 伝えられなかった想い。口に出来なかった言葉。
 それらは全て、迷宮の中に置いてきた。
 今二人の目の前には、白く眩しい光に包まれた未来だけが有る。

 翼を傷つけ涙で濡らし続けた天使は、その翼をたたみ、愛する人の腕の中で瞳を閉じる。


 ――――幸せは、今、二人の腕の中に……。








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