「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第10章≪迷宮の天使≫・15

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「はい、どうぞ」
 差し出されたビールの缶に、大介は目をぱちくりさせる。
 持ち帰った仕事を終えてリビングへと寛ぎに入ったこの瞬間、妻が出してくれるのは緑茶かコーヒーだろうと予想していたからだ。
 「ビールは一日一本ね」禁煙成功に続いて、出来る事なら禁酒もと推奨し始めた妻との約束なのだ。帰宅後の潤い、ビール中瓶一本は、既に飲み終えている。
「何で?」
 寄り添うようにソファへ腰を下ろしたエリは、不思議そうに問いかける大介へ、ビール缶とグラスを両手に持ったままにこりと微笑んだ。
「大介、美春の為に頑張ってるから。御褒美っ」
 流石は親子というべきか。ふたりきりの時のエリは妙に可愛らしく、美春を彷彿とさせる仕草をする。しかしもちろん愛娘を見るのとは違う目線で見ている為、大介の理性は大いに動く。
「良いのか?」
「うん」
 一カ月後、視察に訪れるというロシュティスの社長。その対応の為に、大介も協力を要請されている。下準備を要する仕事を持ち帰る日が続いている事実を、エリも知っているのだ。

 学と美春の大仕事。
 この仕事が成功すれば、二人は結婚をすると言っている。
 本来の仕事と共に二人への協力を惜しまない大介を、エリなりに評価しているのだろう。

「有難う、エリ」
 大介はグラスを受け取り、注がれるビールの気泡を見詰める。ビールはビアグラスの中で綺麗な七対三の黄金比率を作り、飲んでしまうには惜しいほどの景観だ。
 すぐに口を付けるかと思われた大介だが、彼はエリの手から半分残った缶を取り、グラスと共にテーブルへ置いた。
「大介?」
「エリ……」
 気遣ってくれた妻を感動のまま抱擁しようとした彼ではあったが、その瞬間、リビングのドアが物凄い勢いで開いた。

 二人が驚いて顔を向けると、そこに、枕とタオルケット持参の一真が渋い顔をして立っていた。
「……ここで、寝る」
 その一言で、両親は彼の切ない事情を悟る。
 今日は美春が帰って来ていた。時刻は二十四時に近い。――学が、来ているのだろう。

「しょうが無いわね。ほら、こっちにおいで、一真」
 抱き寄せられる一歩手前の腕をすり抜け、エリは立ち上がって一真を手招きする。腕の行方を失った大介は、苦笑いをしながらひとり用の肘掛椅子へと移動した。
 ひとつ溜息をつき、エリの手招きに応じる一真は、安眠出来ない不満をぼやく。
「ったく……、お姉ちゃん、帰ってこなくていいよ……」

 美春が聞いたら、泣いてしまいそうだ。
 ついでに、せっかく妻と良い雰囲気になりそうだったのに邪魔をされた大介も、泣きそうだ。


*****


「ねぇ、学」
「ん?」
「これ、“夜這い”じゃないよね?」
「どうして?」
「だって、私、起きてたもん」
「じゃぁ、今すぐ寝かせてやろうか」
 後ろから回って来た腕が、目の前でビールの缶をちらつかせる。
 肩越しに振り返り、美春は学の膝に乗ったまま文句を口にした。
「飲ませたら怒るからねっ」
「はいはい、じゃぁ、かんぱーい」
 美春が手にする紅茶飲料の缶にカツンッとぶつけ、学はビールを口にする。一口飲んでから、胡坐の中に座らせた美春に両腕を回しニコニコ笑う。そんな彼を見て、美春はちょっとはにかんだ。

 会社に居る時は、絶対に見せない顔。
 学がニコニコと子供のような笑顔を見せてくれる時、美春は堪らなく嬉しくなる。堪らなく幸せを感じる。彼がこんなにも安らいだ表情をしてくれるのは、美春と二人で心から寛いでいる時だけだと、彼女は知っているからだ

「学、かわいいっ」
 美春の肩に顎を乗せる学のこめかみにチュッとキスをする。学に「可愛い」は禁句だが、ベッド以外でならば彼は特に怒らない。――ただ……。
「馬鹿っ、美春の方が可愛いっ」
「そんな事無いよぉ、ニコニコしてる学、すっごく可愛いもん」
「違う、美春が可愛いから俺はニコニコするんだ」
「ほらぁ、私を見てニコニコしてくれるんでしょう? 可愛いじゃない」
「美春の次にな」
 学は意見を譲らない。美春は噴き出してしまった。
「学の頑固者」
「正直者と言え」
 美春は紅茶の缶を目の前のガラステーブルに置き、身体を捩じって学に抱きつく。
「学っ、だーいすき」

 学も、素直に美春を抱き入れた。
「美春、だーいすき」
 まるで小さな頃の様だと感じ、幸せな顔が更に和む。心がどんどん温かくなっていき、美春と一緒に居る時にしか感じられない幸福感に、学は全身で浸った。

「んふっ、学が言った通りだね」
「何が?」
「絶対に紗月姫ちゃんと神藤さん以上、イチャイチャしてると思うもん」
「だろ?」
 美春は学を見上げ、彼の幸せそうな顔を目に薄ら頬を染めた。
「学、キスして」
「今キスしたら、酔っぱらうぞ?」
「――いいよ」
 学は今までビールを飲んでいたので、キスをすればもちろん口腔内に残るアルコールが美春に移ってしまう。アルコールを飲んだ学とキスをして美春が酔ってしまうのは、いつものお約束だ。

「酔った私、好きなんでしょ?」
 唇が近付く。アルコールは苦手でも、学から漂うアルコールの匂いが大好きなのは何故だろう。
「酔って無くても、愛しているよ」
 唇が触れる瞬間、囁かれる言葉。心浮き立つ呪文に口元が和む前に、その唇は塞がれた。

 唇付けを交わす時。二人で寛ぐ時間。
 美春は、そして学も、何ものにも代えがたい幸せを感じる。

 神藤の膝に乗り、笑顔を見せていた紗月姫を思い出す。
 主従関係である時から、二人は常に寄り添ってはいた。
 だが今は、婚約者同士として寄り添い、以前とは全く違う感覚を全身で幸せと共に感じている事だろう。

「――学、……私、幸せよ……」

 同じ幸せを、長い間哀しみの涙を心で流し続けた彼女も、感じる事が出来るようになったのだ。
 そう思うと、美春はとても嬉しかった。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第10章≪迷宮の天使≫
 今回でラストになります。

 内容的な事もあり、ラストまで後書きを控えさせて頂きました。
 御挨拶を入れてお話の緊張感を緩めない為、と自分では考えつつ、その実、辛い展開だと御挨拶をさせて頂くのも辛くなるからだったりします。……情けないですねぇ。(^^ゞ
 今章、紗月姫ちゃんと神藤さんの主従関係に、やっと決着がつきました。
 二人は晴れて結ばれ、婚約者同士に。

 やっとここまで来た、という感じです。
 さて、残すはエピローグのみですが……。一話だけではなく、数話ご用意しています。
 11部で頑張ってくれた方々のその後。全体的に穏やかなムードで、カップル的にイチャイチャがメインです。
 安心してお読み頂けるかと思います。^^

 途中で出番が無くなってしまった人達にも、最後にもう一度姿を見せて貰いましょう。^^

 第11部、ラストの≪エピローグ≫数話に、お付き合いくださいね。

 宜しくお願い致します。

*エピローグは8月10日から開始させて頂きます。




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みわさんへお返事です8/10

みわさん、こんにちは!

 第10章も終わって、エピローグでホッと一息、といった感じです。
 ただひたすら、つらつらと平和なお話が続きます。
 もしかして退屈かも?(^_^;)

 白い闇に中であった子はですね、色々な想像を皆さんにして頂きたいのです。
 小さな命であったかもしれないし、もしかしたら、『迷宮~』で出てきた“彼”の残像であったかもしれないし。
 何にしろ、紗月姫ちゃんを守ってくれている存在である事は間違いがないです。

 悲恋カップルの正念場だった第11部も、もうすぐ終了です。
 どうぞ最後までお付き合いくださいね。

 有難うございました!
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