「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

エピローグ・1≪学と美春≫

 ←第8話・君を好きな気持ち、全部全部 →エピローグ・2≪紗月姫と神藤≫


 美春が秘書課と専務室を行き来するのは当然の事だ。
 何度出入りしようと、入り浸ろうと、特に誰も不思議とは思わない。
 だが今日だけは、彼女の出入りを気にする男がいた。

「美春君」

 学の“仕事用”を漂わせた呼び掛けに、美春の足がピタリと止まる。彼はデスクから顔を上げ、溜息交じりに表情を曇らせた。
「君は熊の子か」

「くっ、くく、熊の子って……、まなっ……専務っ」
 ハァっと再度大きく吐息し、重厚な椅子の背凭れに深く寄り掛かる。身体の前で指を組み、学は口角を上げた。
「何だい? 私は先日テレビ番組で観た熊の子が、目の前に有る餌を母熊の許し無く食べて良いのか分からなくて、不安そうにチョロチョロしていた姿を、今の君に置き換えただけだよ? 何か知りたい事が有るのに、訊こうともしないで、ただウロウロするしか術の無い君にね」
「……申し訳ありません……」
 少々不満気に唇を結ぶ美春を見て、学は仕事用の涼しげな相貌をフッと和めた。

「美春、こっちにおいで」
 口調が変わる。美春は目を丸くして下がりかかった視線を上げると、デスクを回って学の横に駆け寄った。
「ま、学っ、連絡は来た? もう戻ったみたい? 時間的に、病院は出てるわよね? ま、まさかと思うけど、神藤さん、自分で運転してお邸に戻った、なんて事は無いわよね!」
 訊きたかった事を矢継ぎ早に質問し、両手を胸の前で握り合わせ必死の形相をする美春を見上げ、学はクッと喉を鳴らす。笑われた事に言い訳をしようとした美春だが、椅子を回した学に素早く腰を抱かれ引き寄せられた。
「美春は全くっ。聞きたいなら、さっさと訊けばいいのに」
「だっ、……だって、仕事中だしっ。怒られるかな、って……」
「連絡が来たのかを気にして、十五分に一回ウロウロと出入りする方が、怒られる元だろう?」
「うーっ、ごめんなさいっ」
 謝った頃には、すっかり膝の上へ座らされている。横向きで抱かれたまま学の胸に頭を寄り掛けると、身体を抱いているのとは違う手が頭を撫でた。
「心配しなくても、予定にはキッチリと対応する人だ。二時頃には間違いなく病院を出て、辻川邸へ向かったはずだよ。今頃、向かっている最中じゃないかな」
「紗月姫ちゃん、嬉しいでしょうね」
「ああ、待ちに待った退院だからな。まぁ、自宅療養、っていう名目は有るが」

 今日は神藤が退院をする日だ。
 回復は早く、経過は良好。主治医の「自宅療養への切り替えを検討します」という決定に素早く乗り、早々に退院が決まった。
 昏睡状態で死の淵を彷徨ったとは思えない回復振りを見ていると、どうしても学と重なってしまい、美春はついつい含み笑いを漏らさずにはいられない。

 間違いなく病院を出たのか、邸には着いたのか、久し振りの辻川家で緊張はしていないか。昼過ぎから、ずっと様子が気になっている。きっと学に紗月姫から連絡が入るだろうと読み、気になる気持ちのままに専務室を覗きに来てしまっていたのだ。
「大体、連絡は俺にっていうより、美春の方に来るんじゃないのか?」
「え? 私?」
「紗月姫ちゃんなら、美春にかけてから、ついでに俺に回してくれとか言いそうだ」
「えーっ、そうかなぁ、だって、『学お兄様』でしょう? 学が先だよ」
 美春が気を遣って口にすると、頭を撫でていた学の手がピタッと止まった。

「美春、もう一回言って」
「何? 学が先でしょ、……って?」
「いや、『そーかなぁ、だって』、の後」
「――『学お兄様』……」
 少々妙な気分になりつつ、学ご希望の言葉を口にすると、彼は両腕で強く美春を抱き締めた。
「ちょっとっ、何よっ。……何か、やーらしいわよっ」
「いやぁ、可愛いな……、俺、美春が妹だったら傍に置いて離さないな。もー、絶対に彼氏なんか作らせないぞ」
「何言ってんの馬鹿っ。妹だったら結婚出来ないってばっ」
「それは嫌だ!」
 当然の事を言っただけなのだが、学は腕を緩めて真顔を作った。そんな彼を見て、美春は笑顔になる。

「男の子と女の子が産まれたら、学みたいなお兄ちゃんになるのかもね。妹ばっかり可愛がっているような」
「そんなの当たり前だ。美春に似た女の子なら、絶対に可愛いに決まってる」

 まだ見えない未来の力説に、照れの混じった笑い声を上げてしまうも、きっと同じように学も笑ってくれているだろうという推測の元に向けた視線の先には、ただ優しく微笑む彼がいた。
 こんな顔をされてしまうと、笑い続ける事が出来ない……。

 笑い声を止めてはにかむ美春を見詰め、学は彼女の顎を掬って顔を近付けた。
「そんな未来、作ろうな」

 唇が重なり、温かな愛が交わされる。
 下唇を食むようなキスをされ、美春はプルプルっと身体を震わせた。

「その為には、あの二人の事ばっかり気にしてないで、仕事に集中しないとな?」
「うん……」

 顎の下を撫でられ髪を梳かれて、美春はすっかり好い気分だ。結婚の為に、二人にはやらなくてはならない事が有る。
 気分を入れ替えようとした時、学が再びおかしな事を口にした。
「俺達……、もし十二歳差だったら、どうなっていただろうな?」
「十二歳? 歳の差? 紗月姫ちゃんと神藤さんみたいに?」
「よく考えればひと回りだからな……。あの二人は今でこそ十八歳と三十歳だから、それほど気にもならないけど……。十年前ならマズイ事に……」
「ちょっとぉ、変な事言わないでよっ。あの二人は出会った頃から惹かれ合って……」
「……やっぱ、神藤さん……、ロリコ……」
「そんな事言っちゃ駄目でしょぉぉっ!」
 誰かが聞いている訳ではないのだが、思わず掌で学の口を塞いでしまった。
 何とも微妙な面持ちで赤くなる美春の手を外し、学はクスクス笑いながら彼女を抱き締める。
「ばーかっ、俺だって、十歳離れてようと十二歳離れてようと、会った瞬間に美春に惚れてるよ」

 もしもの話でもやはり嬉しい。
 耳まで赤くなってしまった自分を感じながら、美春は学の背に腕を回し、キュッとしがみついた。

「俺達だって、あのサンルームで、宿命の愛に導かれたんだから……」

 嬉しさに体温が上がる。
 温かく力強い腕の中で、美春は至上の幸福を抱き続けた。







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 こんにちは。玉紀 直です。
 第11部も締め括りとなります、≪エピローグ≫
 数話続きます。どうぞ最後までお付き合いくださいね。

 やはり最初は学君と美春ちゃん。
 未来の話をさせるっていうのは、ちょっとニヤニヤしてしまいます。
 二人の子供は、一体どんな子になるんでしょうね。(笑)←

 人の事を気にしても、結局は自分達の世界に浸ってしまう二人。
 二人が浸っている間に、今回見事にサブメインを務めてくれた二人を迎えに行きましょう。
 お揃いで、帰ってきますよ。

 では、次回!!





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