「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

エピローグ・4≪須賀と悠里≫

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 葉山製薬のコーポレートIT事業部は、男性ばかりの職場だ。
 決して皆パソコンに向かって黙々と仕事をしている訳ではないので、結構騒がしい。
 なので……。

「あの……、こんにちは……」

 普段なら、そんな小さな声に気付くはずなどないのだ。特に女性が恐る恐るかけた声など、察し難いこの上ない。
 しかし……。
 市橋悠里がオフィスの入り口で掛けた声は、オフィス中の動きを止めた。

「おおっ! 悠里ちゃん!!」

 誰が叫んだかは不明だが、その途端、全員の視線と歓声が彼女に集中し、あまりの驚きに悠里はスススッと数歩後退してしまった。
「あーっ、逃げない、逃げないっ」
 慌ててデスクから立ち上がってしまったのは、もちろん須賀だ。だが、彼よりも先に悠里を捉まえたのは同僚の木村だった。
「ゆーりちゃん、つーかまえたっ」
「あっ、木村さん、こんにち……」
 悠里が以前ここで準社員として働いていた頃、須賀の親友である事や個人的な感情も関係して、木村には随分と世話になった。
 親しい顔にホッとしたのも束の間。木村は彼女を引っ張ってオフィスへ入ると、楽しそうに叫んだのだ。
「みんなーっ! 実は恋人同士だったくせに、親戚同士ですなんて嘘をついて会社でいちゃついた揚句、今年中に結婚するらしい、須賀主任の婚約者が来てますよーっ!」

「木村っ!!」
 慌てて悠里を木村の腕から奪い返し、須賀は彼女を背中に庇う。両頬を押さえる事も出来ないまま肩を竦め、悠里は真っ赤になってしまった。
「だって、ホントの事じゃん、須賀ちゃーん」
 別に嫌味では無い。その証拠に木村の笑顔は爽やかだ。オフィスの面々も笑い声を上げるが、そこに嘲りのような物はなく、祝福交じりの好意的な冷やかしだけがあった。

 以前悠里が勤めていた頃、二人は親戚同士という事になっていた。
 須賀が悠里に干渉するのも、出かける、病院へ行くと言っては付き添っていたのも、悠里の親に世話を頼まれているからだという事になっていたのだ。そしてそれは、彼女が辞める時まで誰も疑う事はなかった。
 だが最近、実は親戚では無く、諸事情があって面倒を見ていた女性であり、更に今年中には結婚予定なのだという報告を須賀から受け、IT事業部全体が驚きに包まれた。
 ――ただ、その事情をいち早く知っていた木村だけは別なのだが……。

 事情があったとはいえ、騙していた事には変わりが無い。
 中途採用でIT関係の知識も何もなく、雑用しか出来ない自分を情けなく感じていたが、事業部のメンバーは悠里に優しかった。
 なので余計に心苦しい物があり、結婚を決めた事を機にちゃんと挨拶をして謝りたいと、悠里が須賀に頼んだのだ。
 それで今日、終業時間近くを利用してやって来た。

「あの、皆さん、その節はお世話になりました。あの、嘘をついていて、ごめんなさい! け、結婚式には、是非来て下さい!」
 響き渡る美声、……とまではいかないが、それでも彼女にしては精一杯の大きな声。さりげなく結婚式への出席を促した事などは、悠里の性格から考えるなら快挙に近い。
 初めて目にする悠里の勇姿に、「おおっ!」と言わんばかりの歓声が上がるが、いち早く返事をしたのは、IT事業部のメンバーではなかった。
「はい、これからも宜しくお願いします」
 拍手をしながらにこやかに。オフィスの出入り口に現れたのは、何と“葉山専務と秘書の光野さん”だったのだ。

「悠里さんが来るって須賀さんに聞いていたので……。顔を見に来ました。お久し振りですね、悠里さん」
 学がにこやかに話しかけると、悠里は須賀の後ろから出て深く頭を下げる。
「せ、専務、……あの、あ、わざわざ、有難うございます」
「後で一緒に専務室へ伺おうと思ってたんです」
 須賀が言葉を付け加えると、学は快く返事をした。
「待ってるよ。“例の件”だろう? 二人にお願いして貰えるのだから、私も張り切らないとね」
 隣りで美春がクスリと笑う。“例の件”とは仲人の一件だろう。

 須賀と悠里が顔を見合わせて嬉しそうに微笑み合う。
 その光景は幸せそうで、見ている方がくすぐったい。故に、すかさず水は差されるのだ。
「では皆さーん、悠里ちゃんには、騙してくれたお詫びに、美味しいコーヒーでも淹れてもらいましょうか。それでチャラっていう事でー。賛成の方、挙手!」
 おどけて先導したのは木村。そして、全員の手が上がった。

「大変だわ、悠里さん。私、手伝うわね」
 美春が声をかけると、悠里は嬉しそうに頷いた。
「美味しいコーヒー、淹れてきます。待っていて下さいね!」
 皆に声をかけ、悠里は須賀と顔を見合わせにこりと笑って、美春と共に給湯室へ向かった。

 会社にいた時も、彼女はお茶淹れが大好きだった。
 そして皆も、彼女が淹れるコーヒーが大好きだったのだ。
 専門知識も何もないと引け目を感じながらも、自分がやれる事に対しては決して手を抜かず頑張ってきた彼女を、皆が認めていた。

 いつも自分を、必要の無い人間のように卑下していたところがある悠里。
 だが、彼女は間違いなく皆に必要とされていた。

「そういえば須賀さん、結婚式の日、ちゃんと決まりましたか?」
 学が訊くと、須賀は悠里の姿を見送りながら答えた。
「はい。十二月二十三日に……」

 そして、誰よりも何よりも、須賀を必要とし、必要とされた彼女は、クリスマスの雰囲気漂う季節、必要とされる幸せを手に入れる。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 今回は、須賀さんと悠里ちゃん。
 くっついていた訳ではないのですが、庇ったり微笑み合ったり、らぶらぶなのは察して頂けましたでしょうか。(笑)
 結婚式の日取りも決まりましたという事で……。幸せいっぱいです。^^
 イイ男だし良い人なのに、彼女が出来ないのが木村さんですね。
 彼もいつか、そのうちにどっかで……。(^^ゞ

 結婚、といえば、“この二人”も、もうすぐ結婚ですね。
 今回、ストーリーの都合上サブメインの座を譲りはしましたが、それでも、途中で良い活躍をしてくれました。
 ですが、今ちょっと離れ離れになっているんですよ。
 その理由は……。

 では次回!!





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