「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

エピローグ・6≪信と涼香≫

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 学が口にした「総帥」という言葉に反応してソワソワしていた身体を止めたのは、スーツ姿ではあるがノーネクタイという少々珍しいスタイルの信だ。
 菱崎家への到着をレクサスの後部座席で待つ彼は、本来ならば今週も涼香の元へは帰って来られる予定ではなかった。
 それを変えてしまったのが、今話題に上った「総帥」だったのだ。
「スケールが違う、っていうかさ……、違い過ぎる、っていうかさ……。ある種、お前よりぶっ飛んでるよ」
 思い出したようにハァと息を吐き、ルームミラーを見上げて学と目を合わせる。こんな“スケールが違う事”に付き合わされても面白そうにニヤ付いている学を見て、信は苦笑した。
「あんなに青くなって固まった教官達やら所長やらの顔は初めて見た。そりゃぁそうだよな、辻川財閥総帥自らが司法研修所を訪れるなんて、前代未聞だ」

 昨日の夕方の事だ。司法研修所に、総司が信を訪ねて来たのだ。「例の件のお詫びがしたい」と。
 例の件とはもちろん、学と総帥の賭けから始まった一連の騒動の事だろう。
 弁護士や秘書が代理を務める事無く、総司自らが信に会いに来たのだ。よっぽど総司は自分をやり込めた信を気に入ったらしい。
「お詫びの印だって言ってさ、最初は小切手を切ろうとしたんだぜ。総帥」
「切ってもらえば良かったんじゃないのか。総司叔父さんは気に入った人間には豪気だからな。葉山家の裏に空いている土地があるけど、そこに豪邸一軒建つくらい切ってくれるぞ」
「ばかやろっ! そんなおっそろしい額、貰えるかっ!」
 冗談抜きで信は驚いたのだ。額面を書き込む総司の手を掴んで、慌てて首を左右に思い切り振ってしまったほどだ。
「やる事がデカイのは、葉山に付き合ってて慣れてるつもりだったけど、上には上がいるよな……」
 本気で参ったらしい親友を、学は励ましにならない笑い声を上げながら慰めた。
「でも良いじゃないか。お陰で後期修習の間、毎週末最短で涼香さんに会いに来られる方法を手に入れたんだ。この方法なら疲れないし、あっという間だからな」
「まぁ……、心臓に悪い額面の小切手切られるよりいいさ。……でも、やっぱスケールはでかいよ……」
 信は大きな溜息をつき、外に視線を流す。気疲れ気味の彼ではあったが、菱崎家に近付いてきた事を悟ると、自然と気持ちが高ぶってきた。

 小切手を必死に断る信を見て、逆に総司は訊いたのだ。「今現在の君が、一番望む事は何だ?」と。
 信は、涼香に会いに行く時間が欲しいという気持ちを正直に答えた。往復の時間や手段を考えても、もしかして後期修習が終わるまで彼女には会えないのではないだろうかという予感があったからだ。
 こんな望み、どうにかなるものではない。だが総司は「分かった」とひと言口にすると、背後に控えていたお付きに、人差し指を一本、クイッと振ったのだ。

 そして信は、後期修習の期間中、毎週末涼香に会いに行ける方法を手に入れた。

 毎週末、辻川家の自家用ヘリが彼を送り迎えする。
 ヘリは統括本部屋上のヘリポートへ降り立ち、そこからは車で、田島家もしくは菱崎家へ信を送り届けるのだ。
 研修所へ戻る時も同じ。信が手を煩わされる事は一切無い。

 これが、今回の一件に対する総司の「お詫び」だ。
 通常では考えられない事ではあるが、その考えられない事が現実なのだ。
 実際今朝も、その方法で彼は帰って来た。話を聞いて面白そうだと感じた学が、今回だけ菱崎家に送り届ける役を買って出たのだ。
「で? 正直なところ、このお詫びの品は気に入ってるのか?」
 度肝を抜かれている信に本音を訪ねると、彼はとても嬉しそうに笑った。
「当り前だろう。涼ちゃんの……、オレの嫁さんの顔を見に行けるんだぜ」 


*****


 美春がスマホをバッグに戻した時、涼香は丁度お茶のお代わりを淹れようとしていたところだった。
「葉山君、もう来るの?」
「門の前に着いたところなんだって」
「そう……」
 涼香は少し残念そうだ。仕事が無ければもっと一緒に話していたかったのだろう。だがそれは美春も同じ。「また改めて顔見に来るね」と笑顔を向け、軽く彼女を抱擁した。
 玄関を出た所で、美春は涼香を制する。
「ここまでで良いわ。いい? 動いちゃ駄目よ?」
 本当は門の外まで送りたかったのだ。迎えに来ているという学にも挨拶がしたかった。だが美春がここまで言うという事は、あまり無駄に身体を動かして無理をしないようにと気を遣ってくれているのかもしれない。そう思った涼香は素直に従った。
 正門の木戸から出て行く美春に手を振っていた涼香は、彼女の姿が見えなくなると微かに瞼を伏せ、寂しそうな表情を作った。しかしすぐに木戸が開く音が聞こえ、美春が引き返してきたのだろうかと視線を上げる。――そして、更に瞼は開かれた。

 木戸から入って来たのは、信だったのだ。
 涼香が大好きな笑顔で、彼女の元へと走って来る。スーツにノーネクタイ姿は珍しいが、涼香は知っている、彼がネクタイを忘れてしまうのは、身嗜みを気にする暇もないほど、もっと大切な事に気を取られてしまうからだと。

「信、ちゃん……」
 涼香は何も考えず、信に向かって走り出した。
「涼ちゃん! 走っちゃ駄目だ!」
 信が驚いて叫んだ直後、涼香は石畳に足を取られる。ぐらりと揺らいだ彼女を掴まえ、信は胸の中へ抱き込んだ。
「涼ちゃん……危ないよ……」
「――信ちゃん……、どうし……」
 どうしてここにいるんだろう。理由を訊こうとした唇を、信が唇で塞いだ。

 何も言わない。何も訊かせないまま、信は何度も涼香の唇を掬い、キスを繰り返す。

「会いたかったよ……、涼ちゃん……」

 信の腕の中で、彼の想いを受け止め、涼香は閉じた瞼から涙が滲んでくるのを感じていた。
 会えなくても平気だと思っていた。二人には繋がりがあるから、心配はしていないと。以前のように寂しくはないと。
(私、嘘つき……)

 涼香は嬉しくて堪らない。信の腕を感じられる事が。彼にキスの愛情を貰える事が。彼に会えた事が、こんなにも涙が出るほど嬉しい。

 ぽろぽろと零れて来た涼香の涙を手の甲で拭い、信は「そのワンピース可愛い」と言って、再びキスを始めた。
 何度も何度も。あまりにもしつこくて涼香が笑い出してしまうまで。
「まだするの?」
 しつこいキス攻撃に、涼香は笑い声を上げる。もちろん信は笑顔で肯定した。
「するよ。まだいっぱいするっ。涼ちゃんに会いたくて会いたくて堪んなかった気持ちを分かってもらえるまで。いっぱいキスするんだ」

 言葉から、唇から、信の想いが伝わってくる。
 一度拭われた頬は、不意打ちの愛情に、また濡れてしまった。
 涼香は信に抱き付き、自分から唇を寄せた。
「会いたかった……、信ちゃん……」

 交わされるキスと想いは止まらない。
 何度キスをすれば伝わるだろう。どれだけ抱き締めれば、伝わるのだろう。
 どれだけ会いたかったか……。
 どれだけ、愛しい人を求めているか……。

 どこか懐かしい想いに捉われながら、信は涼香にキスを繰り返す。
「愛してるよ……、涼香」

 伝えても伝えても、どんどん新しい気持ちで彼女を好きになる。
 どれだけキスを繰り返しても、伝えきれないほど。

 だから信は、何度でも涼香にキスをした――――。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 総司さん、紗月姫ちゃんのパパですから、やる事は派出です。(笑)
 これで、後期修習の間も二人が長く会えなくなる事はありません。二か月なんてすぐですよ。^^お話的には、あと一カ月ほどです。

 この作品では、サブメインであるはずの二人。
 今回の11部は特殊なパターンでしたので、サブメインの座を譲ってもらいました。
 それでも、目立つ所ではいい感じに目立ってくれていたと思います。
 長く書いていると「信君と涼香ちゃんが一番好き」と言って下さる方々もいらっしゃって、本当に嬉しく思っています。
 ただ今回、そう言って読んでくれている方々には、出番もエピソードも、らぶえちシーンなども無く、御不満が残るお話だったのではないか。時々そう考え不安であったりもしますが、二人の強い結びつきを感じて頂けるエピソードなども入れられたので、私自身は満足しています。(私が満足でも駄目ですね(^^ゞ)

 信君は弁護士を目指し、最後の詰めにかかっています。
 二人の未来の為に、新しい命の為に、頑張ってくれる事でしょう。
 司法修習生考試の後、二人は籍を入れ結婚する予定です。
 学君と美春ちゃんより、早いのかな……?

 さて、再び、今回サブメインを務めた二人が登場です。
 エピローグも大詰め。
 あと数話、お付き合いくださいね。

 では、次回!!




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