「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

【もしも企画】番外編『僕のお姫様』act.6

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「そんな事はないよ。緊張しているんだよ? だって、明日、やっと美春をお嫁さんに出来るんだから。考えただけで、ソワソワして落ち着かないよ」
 だが、学の口調には緊張の欠片もない。いつも通り穏やかで、爽やかな雰囲気だ。
(嘘つき……)
 ついつい捻る美春。これなら、「緊張なんかしていないよ。どうして緊張なんかするの? 楽しみにしていた結婚式だよ?」と軽く返されてしまった方が気も楽だ。
 学の言葉を無駄な気遣いと位置付けそうになった美春だが、ふと目に付いた光景に彼の言葉が嘘ではない事を悟った。

 学が見ている英字新聞が、上下逆様なのだ。
 心ここに有らずを、そのままに表した光景ではないか。

「学君……」
「何?」
「新聞、逆様だよ……」
 首を傾けた学は、手にしていた新聞に改めて視線を移し苦笑する。すぐに上下を戻し、何とも微妙な表情をする美春を見詰めて微笑んだ。
「今、気が付いた」

(緊張してるって、本当なんだ……)
 美春はいそいそと学へ近付き、彼の手前で足を止める、鼻をクンクンと鳴らし小首を傾げた。
「……学君、……お酒?」
 微かにアルコールの香りが鼻についたのだ。だが学は美春と一緒にいる時には決してアルコールを口にはしない。彼女が未成年であるという事の他、どうやら彼女はアルコール系の成分に弱い体質であると知っているからだ。
 学が手にしているカップにはコーヒーらしき液体が入っているが、どう見ても酒類には見えない。アルコールの臭いがしたのは気のせいだと勘違いで終わらせようとした時、顔の横にカップを上げた学が気まずそうに表情を歪めた。
「アイリッシュコーヒーなんだ。量は控えたんだけど、やっぱり香りはしちゃうよね? ごめんね、どうしても落ち着かなくてさ」

 アイリッシュコーヒーは、その名の通りアイリッシュウイスキーをコーヒーに落とす飲み物。ウイスキーの分量次第では、コーヒーやドリンクではなく完全なアルコール類としてカクテルに分類される。
 分量を控えてでも、少しアルコールを摂りたい気持ちになっていた学の心中を悟り、美春は肩を竦めてにこりと笑った。
「学君も、緊張してくれてるんだね……」
 ソファに飛び乗り学の腕に抱きつく。カップを持った方の腕であった為、あわや中身が零れそうになるが、ここで零してしまっては美春が気にしてしまう。学は腕が揺れ動かないように力を入れ、何気なく状態を維持した。

「緊張してる学君なんて初めてかも。なんか嬉しい」
「ごめんね美春、お酒臭くないかい? 少なくはしたんだけど、嫌じゃない?」
「うーうん。全然嫌なんかじゃないよ。学君の匂いは何でも好き。お酒の匂いさせた学君も、好きだよ」
 可愛らしい「好き」を連発する美春だが、すぐに彼女は真剣な表情で彼を見据えた。
「でもっ、酔っぱらいは嫌いだからねっ。お付き合いでお酒飲んで、酔っぱらいになって帰ってきたら、お家に入れてあげないから」
 噴き出してしまいたい気持ちを抑え、学は美春の頭を撫でる。実際のところ彼はとてもアルコールに強く、接待の席でどれだけ振る舞われても酔った事など無いのだ。
 それなので、彼女の前でアルコールによる醜態を晒す可能性などは無いに等しいのだが、学はハァっと溜息をついて少々情けない顔をして見せた。
「美春に追い出されたら、どうしよう……。大介父さんにでも泣き付こうか……。田島の事務所にでも転がり込もうか……。んー、玄関先で土下座でもしたら許してくれる?」
「やっ、やだっ! 冗談、冗談よぉっ! しない、しないよ、そんな事! 学君がお外でお酒を飲むのはお仕事だもん、そんな事をしたなんてお母さんに知れたら怒られちゃうよ!」
 学の弱気を真に受けた美春は、必死に訂正を入れる。緊張する学も滅多に見られるものではないが、弱気になる学などもっと見た事が無い。
 結婚前にふたつも貴重な学の姿を見てしまい、美春の戸惑いは大きくなるばかりだ。

 戸惑う美春を前に、学は心密かにほくそ笑む。
(慌てさせちゃって可哀相だったかな。でも、慌てた美春、可愛いなぁ……)
 彼に言わせれば、慌てた美春も慌ててない美春も両方可愛い。

 学はカップをソファ前のローテーブルに置くと、美春を肩から抱き寄せ額にキスをした。
「有難う。お許しが出たから、安心してお酒のお仕事が出来るよ。――大介お父さんも、そうやって酔って帰ってくる事とかあるの?」
「うん。でも、泥酔して帰って来た事はないよ? あっ、一お父様のお話に付き合わされた時は必ず酔い潰れるって。でも、お母さん、怒った事無いんだよ。『お付き合いだもの』って」
「そうか、じゃぁ、僕がお酒を飲んで怒られないのはエリお母さんのお陰なんだな。感謝しなくちゃ」
 和やかな話題であったはずなのだが、何故か美春から笑顔が消える。寂しげに目を細め、学の胸に寄り掛かったまま俯いてしまった。

「お父さん……、今日も断れないお付き合いがあるから、って……、行っちゃったんだよ。忙しいのは分かるけど、今日はお家にいてくれると思っていたのに。……明日お嫁に行くんだもん……、お父さんに、ちゃんと御挨拶がしたかったのに……」







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 やっと迎える結婚式ですから。緊張というか、ソワソワはしますよね。
 本編の学君にも、このくらいさりげなく緊張してもらいたいものですが。
 しかし、慌てる美春ちゃんが見たくて弱音を吐いてみたり……。学君はやっぱり学君です。(笑)

 お酒の話から繋がったのは大介さんの話題。
 お嫁に行く前日に、娘が実家にいないというのも微妙な話です。
 でも、それには、理由があったりするのです……。

 では、次回!!




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