「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛・企画SS集

●『ブロマンス~葉山君と田島君~』(キリ拍手1万記念リクエスト)

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「ほらほら、乾杯、乾杯」
 浮かれた口調は、デート帰りである彼の気持ちそのままだ。
 ニコニコというよりは、少々だらしなくニヤニヤ笑いを顔面に残した田島信は、冷蔵庫から出してきたばかりの缶コーヒー二本のうちの一本を差し出した。
 コーヒー代は信の財布から出たものだが、一般庶民代表男子高校生の心遣いに、一般庶民ではない御曹司代表は文句を付ける。
「おまっ、コーヒーかよ。こういう時はビールだろうが」
 不満を口にするのは、周囲に逆らえる大人はいないとまで言わしめる十八歳、葉山学。大きな態度でベッドに腰掛ける彼を、信は可愛い系の顔で睨み付けた。
「るせっ! あと二年待て」
「信ちゃん、頭カタい……」
「お前が軟過ぎるんだ」
「美春と一緒だと、すぐにカタくなるんだけどなぁ」
「どーこーがーぁ?」
 ケラケラと笑う信からコーヒーを受け取った学は、そのまま缶同士をカツンッとぶつけ、冷やかし調子でニヤリと笑う。
「数年振りに“溜め”知らずで活躍しているであろう、田島クンのムスコさんに乾杯っ。で? 今日のデートのシメは、どこのホテルだった?」
「やめんかっ」
 悪気ない茶化しに笑い合い、ふたりは缶コーヒーに口を付けた。

 一気に半分ほど喉へと流し込み、学はシャツの首を引っ張り空気を入れる。
「お前の部屋、あっついなー」
「扇風機は回ってるだろ。葉山ンちみたいに全室冷房が効いてる訳じゃねーンだよ」
 お坊ちゃまに諦めを促しつつも、信は缶をローテーブルへ置き、一度下ろしかけた腰を伸ばして窓を開けに向かう。窓を全開にすると、ほんの少しだけ涼しく感じる夜風が入って来た。
 新鮮な空気で深呼吸をすると、気分を入れ替えた信は、いつもの爽やかな笑顔で振り返る。
「明日、結納なんだろ? 良かったな、葉山。長年蓄積された想いが、やっと成就したようなもんだもんな」
 冷やかし無しで祝福をくれる親友を見詰めて、学は感慨深げに「サンキュー」と呟いた。

 幼い日、三歳になる一カ月前、二歳になったばかりの美春に恋をした学。
 お互い両想いであったのに今まですれ違い続け、やっと通じ合ったふたりの想いは、明日結納という形で結ばれようとしている。
 親友の気持ちを長年応援してきた信としては、学と同じくらい嬉しい。
 だが、信が嬉しくて舞い上がっているのは、学の件だけではない。彼も高校入学当時から想い続けた同級生、菱崎涼香と、最近恋人同士になったばかりなのだ。
 好きで好きで堪らなかった涼香。彼女と肌を重ねた時、もう二度と離さないとさえ思った。

 今は夏休みの真っ只中だ。デートから帰って来たばかりだった信の元へ、外出帰りの学がやってきた。学は、一日早い結納祝いを無二の親友から受けた事になる。
 学が昔から、どれだけ美春を想っていたか、そして、今回二人が結ばれた経緯を信はよく知っている。それだけに、学と美春が想いを通じ合わせ結納にまで至ろうとしているこの経緯は、信にとって感無量なのだ。
「オレさぁ、ホッとしてんだ。……やっと葉山が、落ち着いてくれるのかと思って……」
 窓辺に置かれた扇風機の風力を強め、コーヒーの缶を傾けて視線をくれる学へ笑い掛ける。
「昔っから光野さんが好きだって言ってるくせに、彼女が何も言わないのを良い事に、お前、チョロチョロしてばっかりいてさ。……いくら男を上げる為だって割り切っても、光野さんに似た女としか付き合ってないって言ったって……、他の女に……手を出せる気持ちが、分かんなかったし……」

 言われなくても分かっていた事だ。学は苦笑してベッドの端に腰かけたまま上半身を伸ばし、鼻で息を抜く。
「……そのうちに、“若気の至り”って笑ってくれると、信じてるよ」
「ん? 後悔してんの? お前なりに」
「まぁな……」
 クスリと笑った後に、学の表情は変わる。少々深刻な表情は、どこか自分を蔑んでいるかのようにも見えた。
「……美春がさ、……泣いたんだ……。『何も感じていなかったと思ってるのか』って……」
 痛む胸と共に、美春の泣き顔が学の脳裏に浮かび上がる。
 今まで学の夜遊びを責めた事などなかった彼女。鼻で笑い、「女ったらし」と学を軽笑し続けていたはずの彼女が、本気で泣き、見せた本心。
 大好きな人が、見知らぬ女に触れている現実が、彼女の心をどれだけ傷つけていたか……。
 
「俺が……、あいつの気持ちも考えず、一夜限りの女の話をしたり、遊びに行く姿を見て、……平気だったと思ってるのかって……。必死になって、泣いたんだ……」

 微かに笑んだ口元は、すぐに悔しげに結ばれる。眉を寄せ苦しげな様相は、まるで懺悔のようだ。
 信はゆっくりと足を進め、学の横に腰を下ろした。
「あいつの為だと思ってた……。他の女と付き合うのも、罪の意識なんて無かった。ただ、あいつの為に、あいつを守りたいが為に、――……大人になる事だけを、俺は異常に急いでいたから……」

学の瞳が翳を差す。信には一瞬、彼が泣いているように見えた。

「俺が必要以上に大人でいることなんて……、あいつは……、そんな事、望んでなんかいなかったのに……」

「葉山……」
 自分の行動に後悔を口にする学など、信は初めて見た気がする。
 彼はいつだって自信に満ち溢れ、自分の行動に後悔などした事のない男ではないか。

 信は苦しげな学の頭を抱き寄せ、肩に寄り掛けてポンポンっと叩く。
 学に対して慰めをかけるのは初めてだった。学はいつも慰める立場に立つ人間であって、慰められる側に回る人間ではないのだ。

 ――こんな弱みを見せるのも、信の前だから、なのかもしれない。

「葉山の気持ちは、どんなことでも大抵分かってるつもりだった。でも、この件だけは、……悲しかったって泣いた光野さんの気持ちのほうが分かるし、オレは、彼女の味方をする……」
 学を慰める体勢をとりながらも、信の口からは彼を否定する言葉が飛び出した。
 美春の為に、必要以上に早く大人になろうとしていた学。
 彼女を完璧に守れる男になる為、そう心に強く誓った学の気持ちは分かる。男なら、好きな女の為に頼れる男でいたいと思うのは当たり前だ。
 でもその為に、想い続けた美春以外の女性達と付き合う必要はあったのだろうか。

 自分には出来ないと、信は思う。

 高校に入学して涼香に出会ってから、信は涼香一筋だった。例え誘われても違う女子に告白されても、よそ見などはしなかった。
 中学時代に付き合った女性達だって、最終的にはいつもフラれて終わったようなものではあったが、付き合っている時は本気で好きになって、やはりよそ見などはせず一筋でいるのが信の恋愛の仕方だった。
 なので、好きな女の子がいるのに、彼女以外の身体に触れられる学が不思議だったのだ。

「だけどさ、そんな今までがあったから、今のお前があるとも思う。――それだけで、……お前がやって来た事は間違いじゃないと思うよ。だって、今のお前は、光野さんを“守れる”男になってるだろ?」
 慰めでも何でもない。信は思うがままを口にし、学の髪を撫でる。何となくお兄さんぶっている自分が凄く照れくさかった。
 すると、今まで大人しく撫でられていた学がいきなり抱き付いてきたのだ。
「たじまぁっ!」
「ぅあっ!!」

 身長こそ五センチ程度の差であるにしろ、一八〇センチで線の細い信と、一八五センチで意外に筋肉質な学。この場合、考えられる可能性通り、学の力に押された信は、彼に抱き付かれたままベッドへと倒れ込んでしまった。
「たじまぁっ! お前って、本当にイイ男だよな!!」
「いっ、いやっ、それは嬉しいけどよ!」
「ホントに、お前が右腕で嬉しいぞ、俺は!」
「そっ、それも、嬉しいけどよっ!」
「お前が女だったら、惚れてたかもしんねーぞ、俺! いや、男でも良いから惚れさせてくれ!」
「全力で拒否させてもらう!」

 学の馬鹿力で押さえ付けられたら、同性でも振り解く事は難しい。信は妙な気分になりつつ、学に組み伏せられたまま足をバタつかせる。すると、学がクスリと笑って身体を離したのだ。
「バーカっ、冗談だって。俺だって男はごめんだ。……でも、たまーに思うんだけど、田島なら可愛いしいいかな、って……」
「だが断る!」

 からかわれているのは分かっているくせに、それでも信はムキになる。
「葉山が言うとシャレに聞こえねーよ」
 ブツブツ呟く信を見ながら笑いを噛み殺す学がベッドへ座り直すと、続いて信が「この馬鹿力が」と文句を口にしながら身体を起こした。
 ひとしきり笑い合った後、学の口調が真剣みを帯びる。
「でも本当に、田島には感謝している。……お前が親友で、嬉しいんだ」
 もちろん、こんな気持ちを聞けば嬉しいのは信も同じ。彼は照れ臭そうに頭を掻いた。
「……オレだって……、葉山の友達でいられて嬉しいよ……。……頑張って弁護士になれば、一生お前と付き合っていけるしな」
「ならなくたって、お前とは一生付き合っていきたいと思ってるぞ、俺は」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど……。オレは絶対に弁護士になるからな」
「ならないと、信吾先生に家から追い出されるよな」
「……冗談に聞こえねーよ……」
(父さんならやりそうだ……)
 父への不信感が一瞬過った信だが、その直後、視界に入った学の穏やかな双眸に惹きつけられ、男惚れしてしまいそうな彼の顔を見詰めた。

「俺は、冗談抜きで、田島の性格も考え方も好きだ。行動力も、目を瞠るものがある」
「お、お前に褒められると照れるんだよな……。行動力なんて、お前の方があるだろ」
「お前に女の子の子供が出来たら、俺の息子の嫁にもらっても良いな。きっとお前の娘なら、性格が良くて可愛いと思うし」
「おっ、凄いな。オレの娘、今から超玉の輿決定じゃん。こりゃぁ絶対に女の子作んなきゃ」
「涼香さんにも言っとけ」
「おいっ!」
 見えない未来の話ではあるが、生まれるのか分からない子供の性別から、結婚相手の可能性にまで話は進んでしまい、信は焦る。

 ――だが、そうなれば良いな、という気持ちは、とても強いのだ。

「――ここにいる俺の親友が、田島で良かった……」

 学の本心から出ている言葉に、信も本心で応える。

「オレも、お前の傍にいられて、光栄だよ」

 ふたりはニヤリと笑い合うと、右手を打ち付け合い、握り合って、声を立てて笑い合った。


 無二の親友として、未来の仕事のパートナーとして。
 学と信は、生涯共に、歩み成長していくのだ――――。




     『ブロマンス~葉山君と田島君~』

      *** END ***








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直さん、こんにちは(*゜▽゜)ノ

学クンと信チャン。男の友情ですね。この2人の関係、大好きです!!

学クンの若気の至りは、反省すべき点として(笑)
信チャンのいうとおり、過去があって今現在の学クンですからね♪

ちなみにブロマンス…はじめて知りました(^^;)カシコクナッタ


そして、新連載!
章太郎サンと萌チャンだったんだー(てっきり先日のブルームーン関連かと(^^;))

萌チャンお嬢様?他に婚約者?あらすじ読んだだけでワクワクです。
楽しみにしてますね(*^▽^*)

ツキハラコトセさんへお返事です9/9

コトセさん、こんにちは!

 SS読んで頂き、ありがとうございます!

 いえいえ、多分誤解をされるだろう予想はしていました。(笑)
 でもこのふたりには、この言葉がぴったりだと思ったのですよ。^^
 男の友情、良いですよねぇ。
 アメリカ映画とか、男の友情を感じさせるお話が多いじゃないですか。ああいう世界好きです。^^

 第12部、楽しんで頂けるように頑張りますね。^^

 有難うございました!

みわさんへお返事です9/10

みわさん、こんにちは!

 SS,読んで頂き、ありがとうございます!
 男の友情、好きですが書き方が難しいって思いました。(^^ゞ
 ちょっと間違うと、アッチ風に……。( ̄  ̄;;
 でも、学君と信君にはぴったりの言葉だと、自己満足に浸っております。

 新連載……。
 ふふふ、萌ちゃんなのですよ……。
 楽しんで頂けるように頑張りますね!
 宜しくお願いします。^^

 有難うございました!!


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