理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第1章1(ママになる親友)

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「ねぇねぇ、まだどっちだか分からないの?」
 妊婦にこの質問は、時に酷いプレッシャーだ。
 男か女か、どちらかに異常な期待が集まっている場合のみならず、どちらでもいいが、早くどちらなのかが知りたいという質問を多く投げかけられれば投げかけられるほど、それは高まる。
 だが、訊く側にとっては純粋な期待で訊いているだけなので、特別な事情が無い限り妊婦を困らせようという意図は無い。
 ――――特に、美春には。

「この間、健診だったんでしょう? んーと、六カ月健診だっけ? でも、七カ月に近いんだよね?」
 嬉しそうにはしゃぎ笑顔を見せてくれる美春を見ていると、末妹の晶香が懐いて来る姿を思い出してしまい、邪険に出来ない。親友になった高校の時から、美春の無邪気な可愛らしさには敵わないと考えると、菱崎涼香はクスクスと小さな笑いが込み上げてしまうのだ。

「どうして笑うの?」
「んー、美春にも子供が出来たら、もう、三カ月目くらいから『どっち? どっち?』って訊いてやろうと思って」
「えええっ、三カ月でも分かるものなの?」
「分かる訳ないでしょっ」
 ちょっと意地悪な親友に拗ねた顔を作り、美春は涼香が淹れてくれたお茶に手を伸ばす。
 緑のグラデーションが趣を醸し出す美濃焼の湯呑みを近付ければ、深みのある緑茶の香りが拗ねた表情を和ませる。
 ゆっくりと吐息して浮かべる頬笑みは、同性である涼香でさえ見惚れる優美さだ。
「いただきます」
 メイクなど要らないのではないかと錯覚してしまう白い肌と、発色の良い唇。
 ふわりと柔らかい栗色の髪は、故意にゆるいカールを作っているかのようにクセを作り、彼女の大人っぽい可愛らしさを強調する。
 一見少女のまま大人になってしまったのではないかという雰囲気を持ち合わせてはいるが、これでも彼女は社会人二年目。会社では後輩も出来て、嫌味抜きで「光野女史」と呼ばれるようにもなって来た、立派な専務秘書だ。
 ――だが……。

「美春さーん、竹に入った水羊羹食べますー? 頂きモノなんですけどぉ」
「きゃー、食べるー、それ好きー」
 菱崎三姉妹の次女、涼香の妹、京香が運んできた竹筒入り水羊羹に、子供のような笑顔で普段とのギャップを見せる。
 こんな美春を見るのが、涼香は楽しくて堪らない。彼女の中に渦巻く、“姉性本能”が刺激されまくるからだ。

 七月下旬。
 夜になっても蒸し暑い日が続く週末。仕事を終えた美春が、単身菱崎家へやって来た。
 いつもは婚約者であり上司である学と離れる事無く行動をするが、今日は終業後に、葉山グループ会長にして学の父である一と、葉山製薬本社開発研究部研究室室長にして美春の父である光野大介、この三人で打ち合わせの予定が入っていた。
 いつもならそのまま残業でもしながら待つのだが、今日はどうしても涼香の元へ来たい理由があったのだ。

「京香ちゃんは、もうどっちか分かってるんだっけ? お腹、触っても良い?」
 了解を取る前に、美春の手は大分せり出してきた京香の腹部を撫でる。マタニティスカート越しの丸みは不思議な楕円を描き、不思議な感覚だ。
「うん、ウチは男の子。上も男の子だし、今度は女の子が良いなぁ」
 ふたり目がお目見えしていないうちから、三人目の希望を口にする京香。
(何人産む気? 京香ちゃん……)
 つい余計な心配をしてしまうが、彼女もまだ二十二歳、あながち無理な希望ではないだろう。

 姉の涼香そっくりに揃えられた、セミロングのストレートヘア。幸せな笑みの横でサラサラと揺れる様は、姉妹揃って新しい命を宿している幸せを感じさせ、微かな羨ましさを美春に与える。
 ふたりの出産予定日はほぼ一カ月違い。京香は十月、涼香は十一月だ。

「私は五カ月の健診で分かっちゃったの。詩苑の時もそう。男の子だから、“アレ”が股の間にハッキリ見えて……」
 手で口元を押さえ、おどける京香の言葉にドキッとした美春だが、続きを聞きたい気持ちが先に立ち、恐る恐る追及した。
「……み、見えるものなの?」
「見えるんですよぉ。エコーのモニターにね、ちっこいのがポツンって映るんです。胎児の態勢によって見えない時もあるんだけど、まー、生意気にちゃんとあるんですよ。立派なのが」
「り、立派ってぇ……。なにが……?」
「なにって、……やだなぁ、美春さん、決まってるじゃないですか。おち……」
「すとーーーーっぷ、京香ぁっ」
 何気なく出そうになった言葉を涼香が止める。何故止められたのか首を傾げる京香に、忠告が促された。
「駄目よ、美春はそういう言葉に免疫が無いんだから」
「あ、そっか、ごめんね。男の子のママやってると、結構自然に出ちゃうよね」
「分かるけど、周囲に小さな子がいない人には衝撃よ」
 何気ない妊婦同士の会話は、どことなく未開の境地。イケナイ気持ちを起こしつつ、美春は京香に訊ねる。
「……ふ、普通に口から出ちゃうの……?」
「出ますよー、オムツ替える時とか、身体を洗ってあげる時とか。話しかけるでしょ?」
 すると涼香が、拳で掌をポンッと叩いた。
「そっかぁ、美春にも男の子が出来れば、普通にそう言った言葉が口から出るんだ? うわぁ、美春の口から出たの聞いてみたいかも」
「ちょっとぉ、涼香っ」
 ムキになって涼香を見た美春の頬が染まっていたのは、やはり“そう言った言葉”を思い浮かべてしまったからだろう。
「あっ、でも、意外と葉山君と二人っきりの時は言ってたりして。葉山君が『言って』とか言ったら、言いそうだもん」
「もぅ、涼香ってば!」
 羞恥心を煽られ過ぎた美春は、プイッと横を向く。それを見た涼香がクスクスと笑った。
「ごめん、ごめん、悪かったってば。せっかく来てくれたのに」
 からかい半分の笑いが止まると、涼香の表情が穏やかに笑む。
「……心配して来てくれたんでしょう? 有難うね、美春」

 不安を隠す為、明るく務めていた涼香。
 もちろん美春だって、そんな彼女の気持ちは分かっている。

 今日は、涼香の婚約者である信が弁護士としての資格を得られるかどうかを判断される、司法修習生考試、いわゆる二回試験の最終日なのだ。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 本日から、第1章に入ります。
 物語は7月下旬から始まります。涼香ちゃん、順調そうですね。^^京香ちゃんも順調ですよ。
 涼香ちゃんはどっちなのかな。ふたりの希望は女の子でしたが……。

 親友二人でイチャイチャしてると思ったら、今は信君が司法修習生考試。最後の試験中です。
 ある意味この物語は、学君と美春ちゃんの恋愛の軌跡を追う一方で、信君が弁護士になるまでの一通りを追って来たような気もします。
 司法試験の勉強からここまで……。長かった……。(笑)
 でもとうとう最後の試験。これに合格すれば、彼は本物の弁護士バッジを付ける事が出来ます。
 頑張れ、信君!

 と、あおりつつ、オンナノコ同士のお話は続くのです。^^

 では、次回!!





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