理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第1章2(司法修習生考試)

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「私が、不安で具合悪くなってるんじゃないかとか、心配で寝込んじゃってるんじゃないか、とか思ったんでしょう?」
 いつも通り、凛とした綺麗な笑みを見せてくれた涼香に微笑み返し、美春は言いたかったひと事をやっと口にする。
「大丈夫だよ。田島君、きっと上手くいってるよ」
 静かに膝を進め、涼香はキュッと美春を抱き締めた。
「……有難う、美春……」

 新制度ではなく、信のように現行の司法修習生は、卒業試験とも言われる司法修習生考試を七月の末に受ける。つまり今、信は試験の真っ最中なのだ。
 民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護、五教科が五日間かけて実施されるのだが、午前中から夕方過ぎまで、ひと教科に丸一日を要する試験だ。今日はその五日目、最終日。
 この試験の結果で、信が弁護士になれるかどうかが決まる。涼香も気が気ではないだろう。
 そんな親友の様子が気がかりで、美春は打ち合わせ中の学を置き、ひとりでタクシーを使いここまで来たのだ。

「毎日、一応電話は来るのよ。『明日また頑張るよ』って。元気な声で。……勉強の邪魔になったら困ると思って私も早く電話を切るけど、本当は心配で堪らない。……信ちゃんは優しいから、仮に上手くいっていなくても、私を心配させないために無理をしているんじゃないだろうかって……」
 不安げに語られるのは、涼香の本音だ。
 信が弁護士になる為、どれだけ努力をしてきたか。いつも傍に居る涼香が一番よく知っている。それと同時に、彼の実力も分かっている。もちろん信じてはいるのだ。
 だがやはり、“もしも”の不安、というものは残るではないか。

「でも田島君、結構自信はあるみたいだよ。学もね、毎日夜に電話して様子を聞いてるみたい。『問題無い』って言われるんだって。あの口調は、絶対の自信がある時のものだって学も言ってるよ」
 信は学に隠し事をしない。中学時代から十一年間続いている、主従的な男の友情関係、それを熟知している涼香はフンっと鼻を鳴らして意気込んだ。
「信ちゃんってばっ、ホント葉山君には素直よねっ。やきもち妬いちゃうわ」
「あはは、私もたまに田島君にやきもち妬くよ。学ってば、田島君には何でも話すし相談するし」
 同朋意識。ふたりはガシッと両手を握り合った。
「お互い、浮気されないように見張ってようね」
「涼香っ、それ違うと思うっ」
 涼香の冗談に声を上げて笑うものの、確かに学と信は仲が良い。
 昨日など、仕事帰り、食事に行く途中の車中でキスをしている時、「そういえば田島に様子を聞くの忘れてた」と、思い出したように電話をかけていた。
(私とキスするより、田島君の方が気になるんだー!)
 その熱の入れように、わざと拗ねてやろうかとも思ったが、実際、学が気にかける気持ちも分かる。
 信は学生時代から、ずっと学の右腕。生涯、仕事のパートナーになる男だ。
 正式な弁護士になれば、もちろん学に関わる事案の一切を取り仕切り、葉山グループ顧問弁護士の一人になる。
 そして学も強くそれを望んでいるのだから、信には絶対弁護士になってもいらわなくてはならないのだ。

「発表は一カ月後だったよね。合格したらすぐに弁護士の登録って出来るんだっけ」
「うん、……だから、ほら、……次の日に、って……」
 涼香が言い淀み、はにかみの笑みを浮かべる。すぐに言葉の意味を悟り、美春にも頬笑みが浮かんだ。
「来月の末には、“田島涼香”さんだね」

 はにかんだ涼香が幸せそうに微笑む。
 美春も見惚れる、とても綺麗な笑みだった。

 八月の合格発表後、合格であれば翌日すぐに弁護士会への登録を済ませ、帰りの足で信と涼香は入籍をする。
 八月の末には、ふたりはもう夫婦になっている予定だ。結婚式は九月。
 信はその後、九月から田島総合法律事務所での採用が内定している。
 ただこれは、全て合格した場合の予定。
 だが信は、不合格だった場合のプランは一切立てていないという。また学も「そんなものは必要ない」と鼻で笑った。
 これだけ聞くと、信も意外と学に負けない自信家であるように感じるが、美春もそんなものは必要ないと思える。

 誰もが信じているのだ。
 来月の末には、自由と正義、公平と平等を追い求める証である弁護士バッジを、信がその襟元に付けているであろう事を。

「そういえば、今日はまだ連絡来て無いよね。遅いね」
 時間を気にしたのは、緑茶のお代わりを用意し始めてくれていた京香だ。毎日の電話連絡を、涼香が心待ちにしていると京香も知っている。早く連絡を受けて、涼香に安心してもらいたいのだろう。
「五日目だけ終了が遅いとか……」
 美春の問いに、涼香は笑って首を振る。
「ないない。十七時四十分だったか五十分だったかの終わるのよ。ただ、今日は最終日だし、終わったら、修習生皆で『お疲れ会』に行くって言ってたなぁ」
「いわゆる『打ち上げ』?」
「計画はしたけれど、皆疲れで力が抜けて飲めないんじゃないかって言ってたわ」
 確かに、一週間かけて内五日間試験に挑むのは、相当神経を使うだろう。
「疲れているだろうし、今日は電話は来ないかも。でもいいの。もうすぐ信ちゃん、帰ってくるし」
 司法修習生考試が終われば、信は研修所近くに借りていた部屋を引き払い帰ってくる。合格発表は自宅に通知が郵送されるが、数日遅れる為、当日司法研修所まで見に行く予定だ。
 信が戻ってくるのを、涼香だけではなく、皆が心待ちにしている。

「そういえば、美春も今は忙しいんじゃなかったっけ? ほら、何てったっけ? 契約を進めている会社の社長が、スイスから来るとか……。今日じゃなかった?」
 思い出すように話題を振られるが、美春は何故か諦めの笑みを浮かべた。
「うん……、そうなんだけど、……実は、来なくなって……」
「え? どうして?」
「それがね……」
 美春が話し出そうとした時、電話の着信音が鳴った。ピアノで奏でられるパッヘルベルのカノン。
 確認するまでもなく、それは、学専用の着信音だ。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 信君と涼香ちゃんの結婚まで、あと一カ月です。
 九月には結婚式。同時に、やっと信君が弁護士として認められますよ。……既にそれ相応の活躍はしていますが。(笑)
 ……合格すれば、ですけどね。(いやいや、今更)

 さりげなく、懐かしい事を書いてみました。
 パッヘルベルのカノン。
 第1部の高校三年生の時も学君専用の着信音にしていました。
 この曲は、ずっと学君専用のままです。^^

 さて、電話が来たところで、ヒーロー登場ですよ。
 
 では、次回!!





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