理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第1章10(もうひとつの幸せ)

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「気持ちいいーっ」
 さっきまでの「気持ちイイ」とは、かなり意味が違う。
 首まで水に沈んでパシャパシャと水を弾き、無邪気に笑う美春を眺め、学はサンテーブルにアイスミルクティーのグラスを置いた。
「いつまでプールに浸かってるんだ? ふやけて水太りするぞ」
「なにそれっ、やぁねっ。……だって、まだ身体が熱いんだもん……」
 チラリと舌を出し、上目使いで学を見る。思わせぶりな台詞通り、美春はプールサイドでの情事がひと段落して、少しの間ラウンジャーで休んだ後、再びプールへと入り「火照ったままじゃ眠れないよ」と笑ってなかなか水から上がって来ない。
「どうせ水に入るなら、バスルームでジャグジーでも使おうぜ。今、ぬるめのお湯入れてるから」
「ん~、それにも惹かれるなぁ」
「それに、今、火照りを取ったって無駄だぞ。後でまた火照らせる予定なんだから」
「意味深ねぇ」
 笑いながらやっとプールから出てきた美春は、学からグラスを手渡しされ、「有難う」と微笑みストローに口を付ける。既に水着は着けているが、それでも最初より艶っぽい雰囲気を醸し出しているのは、激しく抱かれた後だからだろうか。

「そういえばさぁ、田島君っていつ帰ってくるの?」
「田島? どうして?」
「うん……、今日は試験の最終日で、修習生同士で打ち上げがあったりするから電話は来ないだろうなって、涼香が寂しそうだったから……。いつ頃こっちに戻ってくる予定になっているのかなって思ったの。学なら田島君とラブラブだから、知ってるんじゃないかなって」
「田島が聞いたら、猛然と否定しそうな台詞だな」
 チューっとストローからアイスミルクティーを吸い上げていると、学にポンッとおでこを弾かれた。「おっとっ」と仰け反る彼女に、爽快な笑い声が飛ぶ。
「田島はな、すぐ帰ってくるぞ。びっくりするくらい“すぐ”な」
「どうして分かるの?」
「美春を菱崎家に迎えに行く前に、電話で聞いた」
「なにそれっ。田島君も、涼香には電話よこしてなかったくせにっ」
 ちょっと口調が怒り気味の美春。そんな彼女に近付いて、学は耳元に唇を寄せる。
「……実はな……」
 ふたりきりなのだから別に小声になる必要はないのだが、学は掌を口の横に当て“内緒話”の形を取った。

 耳元で語られた事実に、美春は目を見開く。
「ええっ!?」
 学の顔を見詰めて呆然とするが、すぐに笑顔を浮かべ夜空を仰いだ。

 ――――遠くで、ヘリコプターの音が聞こえたような気がする……。


*****


 菱崎家、次女の夫、菱崎雅人は婿養子だ。
 元々は分家の三男であるが、才能に溢れた彼は、菱崎三姉妹の兄弟子として幼少の頃から家元に目を付けられていた。
 歳は三十一歳。妻の京香とは九つ違いだが、幼い頃から持て囃されて育った彼は、早い話が苦労知らずのお坊ちゃん。大人しそうに見えても、実はどこか抜け目無い京香の尻に敷かれてしまっている部分がある。
 そして、家族の誰もが、特に姉と妹はそれを分かってしまっている。……故に……。

「どーしたの、雅人兄様、京姉に怒られたの?」

 そんな言葉をかけられてしまう事も、珍しくは無いのだ。
「あっ、晶香ちゃん、お帰り。デートは楽しかったかい?」
 気まずい顔で湯呑みから口を離した雅人ではあったが、台所の片隅でひとり、婿養子が溜息をつきながらお茶を飲んでいれば、夫婦喧嘩かと勘繰られてもしょうがないのだ。
 しかも見付けたのは、三姉妹中、一番自由奔放な思考回路を持った末っ子の晶香だ。
「デートはいっつも楽しいよ。それよりどうしたの? 京姉に怒られたの? なにしたの?」
「いや、僕が何かした訳では無くてね……。……あの、……信君から連絡がない、って、怒っているんだよ……」
「何で京姉が怒るのよ」
「信君から連絡がないと、平気な顔はしていても涼香ちゃんの元気が無くなるだろう? 今も涼香ちゃん、小稽古室に籠っているんだよ。試験中でも連絡が来ていたはずなのに、今日は来ない、って……」
 雅人は大きな溜息をつく。ひとり息子の詩苑を寝かしつけて夫婦の部屋へ戻ると、いつもは優しくふわりとした笑顔を見せてくれる妻の顔が、不機嫌に歪んでいたのだ。
 お茶の一杯も淹れて欲しかったのだが、頼める雰囲気ではなかった……。
 すると晶香は、持ち前の明るさでけらけらと笑い出した。
「アハハッ、大丈夫だよ。京姉の機嫌も涼香姉様の元気も、すぐに復活するよ」
「どうして?」
「だって、さっきね……」
 姉達とよく似た綺麗な笑顔が、幸せを伝達する。


*****


 今日は考試の最終日だ。おまけにその後の予定まである。
 以前から聞いていた。最終日は、テスト終了後すぐに連絡は出来ないかもしれないと。
「……未練がましいって言うか……、諦めが悪いよね……」
 小稽古場にひとり座し、涼香は溜息をついて目の前に置いた携帯を見詰めた。
 今日は連絡がなくても、明日には来るだろう。そして彼は帰ってくる。それで良いではないか。
 涼香は下腹部を撫で苦笑いを浮かべるが、その顔は寂しそうだ。
「……今夜は、……声が聞けないけど、我慢しようね……」
 ぽこりっ……、お腹の中で空気玉が転がったような感覚が走る。何度か感じた事のある現象。話に聞けば、これが胎動というものらしい。京香はお腹の表面が揺れ動いて見えるほど胎動は大きくなるというが、その感覚はまだ分からない。

 この寂しさも、もうすぐ終わる。
 そう分かってはいても、つい「寂しい」と口から出そうになってしまうのだ。
「……信ちゃん……」
 目を閉じ、せめて彼への想いに浸ろう……。――そう考えた時、ふわりと背中が温かくなった。

 目を開き吃驚する涼香の目にその人は映る。後ろから彼女を優しく抱き締めているのは、スーツ姿の信だ。
「ただいま……、涼ちゃん」
 大好きな温かい声が、涼香の耳に響く。
「帰って来たよ……。もう、どこへも行かないからね。ずっと涼ちゃんとこの子の傍にいるよ……」
 抱き締める片手が下腹部に触れる。その手の上に添えた涼香の手が、嬉しさと嗚咽に震えた。
「……信ちゃん……」
「ずっと、一緒だよ……」

 ふたりが重ねた手の下で、ふくらみを持った腹部がくにゃりっと動く。
 それはまるで、赤ん坊も一緒に喜んでいるかのようだった……。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です
 第1章、幸せラブラブだらけで終了です。メインのらぶえちと、サブメインの幸せをお見せできたところで第2章へ。
 こんなに早く、信君がどうやって帰って来たのかは、第11部を読んでくれていた方なら分かりますよね。^^
 お忘れの方は第11部エピローグ6を♪
 信君と涼香ちゃん、離れ離れの期間がありましたが、これからはまた以前のようにずっと一緒です。
 一カ月後の発表後には入籍も待っています。
 赤ちゃんも順調だし、良い事だらけですね。

 幸せ気分はまだ続きます。
 例の温泉療養(?)に行ったカップルを冷やかしに行ったりもしますので、幸せカップルをもうひと組ご覧いただけます。^^
 
 そんな間に、光野家のエリさんの元に、これからの美春ちゃんにも大きく関係する人物が訪ねて来りもするのですが……。
 でも、それはまだまだ、先の話……。

 ではまた、第2章で!

*第2章は10月1日からになります。





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