理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第2章4(ロシュティス側の理由)

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「ど、どうしてお父様……、社長からそんな連絡が来たの……? 私のところには、中止になったから週明けに連絡する、としか来てなかったのよ。その後も、今日一日はずっと連絡が取れなくて……」
 学の下で美春は慌てる。
 この件は学の仕事であり、ロシュティス側の担当である社長からの意向を聞く為に、秘書と密に連絡を取り合っているのは美春だ。
 その美春のところへは、早朝に視察中止の連絡が入ったのみなのだ。 
 週明けとはいっても“いつ”という指定も無く、すぐ連絡をくれるのかも不明なまま。
 言葉の足りない連絡のようにも思うが、ロシュティス側の秘書はいつもこんな感じで素っ気ないのだ。
 とはいえ決していい加減な訳ではなく、約束は必ず守り対応にも無駄のない相手。“週明け”というからには“週明け”に必ず連絡は来るだろう。
 だが、正規の担当である美春が知らされてはいない事実を、何故一が知っていたのだろう。一が知っていたという事は、秘書のさくらに、この一件を知り得る何らかの要因があったという事か。

(もしかして……、私に何かの落ち度があって、秘書が意図的に連絡をずらしたんじゃ……)

 拗ねた考えのようにも思うが、ロシュティス側の秘書は実に事務的で情け容赦が無い。日本人的な考えでは付き合ってはいけない性格だ。
 もしも本当に美春に対して気に入らない点があれば、例えこの土壇場であろうと、打ち合わせ相手を平気で変えてくるだろう。

「おい、美春。おかしな事を考えるなよ?」
 不安な表情で視線を逸らす美春の額をツンっとつつき、学は事情を話してくれた。
「偶然だったんだよ。別件を調査していた須賀さんが、予定していた飛行機の搭乗者名簿の中に社長と秘書の名前を見付けたんだ」
「須賀さんが……?」
「全く同じなので、本人も驚いたんだろう。櫻井さんに話が渡り、驚いた櫻井さんから、丁度一緒に残業中だった母さんに話がいった」
「それで……、お父様が知るところになったのね」

 飛行機の搭乗者名簿など、普通は簡単に閲覧出来るものではない。
 だが世の中には、例え非合法でもそんな情報の中へ入り込む技術を持った人間がいる。
 葉山製薬本社コーポレートIT事業部特殊対応班、須賀大智は、主任という肩書と“専務のお傍付き”という名誉を持つ男だが、少年時代はソノ世界で名を馳せた天才ハッカーだ。その技術と才能は、学から与えられる特別任務の際と、特殊な場合にのみ発揮される。
 何らかの事情で、偶然にも予定を組んでいた便の搭乗者名簿をハッキングした須賀が、その中にあるはずの無い名前を見付けたのだろう。
 本来ならばすぐに学へ伝えるところだが、気付いた時には既に学が退社をしていた為、同じく“専務のお傍付き”と言われる、秘書課の係長であり美春の教育指導係を務めている櫻井陸都に相談をした。
 彼は同時に、葉山グループ会長付きの秘書事務だ。会長第一秘書であるさくらを慕い敬愛する良き部下でもある。
 もちろん、情報はそのままさくらへ。そして一へと伝わっていった。

「中止の方向だったがやはり決行になった、なんて連絡は、ロシュティス側からは入っていない。早い話が、現地入りする事を秘密にしたかったんだ」
「……どうして秘密にする必要があるの……。観光でもしたかったのかしら?」
「もしくは、ライバル社を先に視察しようと考えたか……」
「えっ!?」
 驚いて学の肩を掴んでしまった美春は、少々動揺の色を濃くした。ロシュティス側は、何年もの協議と交渉を踏まえ、葉山製薬を単独で視察すると決めてくれたのではなかったのか。ライバル社も視野に入れての視察などという話は、今回の予定にはなかったはずだ。
「まぁ、社長はドライで厳しい人だけど、こんな大切な場面で信用問題に関わるような事はしないだろう。もしかしたら、社長がプライベートに時間を作りたかっただけなのかもしれない」
「……観光?」
「……かもな」
 そんな理由ではないだろうとも思うが、今は不安から脱したがっている美春に同意して、学はクスリと笑った。

「社長は、薬学博士としても著名な人だ。もしかしたら、こちらへ来て調べたい文献でもあったのかもしれない」
「うん……」
 美春を安心させようとしてくれているのだろう。説明をする学の声は落ち着いていて、片手はゆっくりと彼女の髪を撫でている。
 そんな彼の心遣いに感謝をしつつ、美春は学が手にしたままのスマホを指差した。
「で? 学、いつまで持ってるの、これ」
「ん? ああ、須賀さんにひと仕事してもらいたくてさ。連絡しようと」
「仕事の連絡? 今?」
「ロシュティス側に用意してあったホテルにはもちろん来ていない。とすると、向こうで独自に宿泊先を用意したって事だろう? 一応、どこに宿泊しているのか調べてもらおうと思ってな」
 須賀が調べるとなれば宿泊リストのハッキングに話は及ぶが、美春はわざと意地悪を口にした。
「コンピューター管理の無い宿に泊っていたらどうするの? 宿帳記入のみとかの」
「ラブホやら連れ込み宿には泊らないだろ? 老舗旅館だって宿帳記入だけなんて事はないぞ」
 仮にも、世界トップレベルの製薬会社社長が、そんなお粗末な宿を取るとも思えない。もしかしたら日本独特のワビサビを味わいたいという考えを持っているのかもしれないが、秘書が許さないであろうと思われる。

「そうかもしれないけど、でも、泊ってるところを調べるなら急ぎじゃないでしょう? 明日でも良いじゃない。今じゃなくたって」
 学の手からスマホを取り上げ、美春は枕の下に隠してしまった。
「何で? 須賀ちゃんをゆっくり寝かせてあげたいとかか? まーた、美春はぁ、須賀さんが“美春ちゃんお気に入り”の田島君タイプだからって、そうやって贔屓する」
「まなぶっ」
 サラリとからかう学の鼻先をキュッと摘まむと、美春は照れながらも理由を口にした。
「きっ、金曜日の夜なのよ。須賀さんだって、悠里さんとデートかもしれないでしょうっ。じゃっ、邪魔しちゃ駄目っ」

 “お気に入りの須賀君”に、精一杯の気遣いだ。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 中止になったと思っていたのに、社長一行は既に来ています。そりゃぁ、美春ちゃんも焦りますよ。
 週が明ければ理由は分かりますが、最初から少々振り回され始めているような気も……。

 須賀さんに気を遣った美春ちゃんの気持ちを、学君は汲み取ってくれるでしょうか。
 でも、あんまり気を遣い過ぎるとやきもち妬かれちゃいますよ?

 では、次回!!




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