理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第2章5(須賀の事情)

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「まっ、学だって、デート中に邪魔が入るのは嫌でしょう? そんな仕事で須賀さん取られたら、悠里さん、泣いちゃうよっ」
 泣いちゃうは言い過ぎかもしれないが、しょうが無いとは思いつつも切なくはなるだろう。
 市橋悠里は須賀の恋人だ。クリスマス・イブ前日の十二月二十三日に結婚式の予定を立てている。
 彼女はカフェ店員なので、普通の会社員のように“週末”という言葉にあまり恩恵はないが、それでも須賀に合わせて週末などは必ず一緒に過ごすようにしている。
 というよりは、春に須賀が悠里の両親に挨拶をしに行ってからというもの、どちらかがどちらかの部屋に入り浸るという半同棲状態になっていた。
 金曜の夜ともなれば、絶対にふたり一緒だろう。結婚も決まって幸せいっぱいだと思えば、そんな邪心もしてしまうではないか。
 実際のところ、明日の土曜日は須賀も悠里も仕事がある。休日前の甘い雰囲気とまではいっていないのかもしれないが、それでも日付が変わる寸前というこの時間に、仕事の話は無粋だ。

「そうだよ? 俺だって邪魔されたんだぞ」
 わざと美春に眉を寄せて見せるが、学はすぐに不敵な笑みを浮かべてベッドから下りると、そのまま部屋を出て行った。
「学……?」
 まさか、止められて怒ったのだろうか。そんな心の狭い人ではないと分かってはいるが、美春は慌てて起き上がった。――すると、メインルームから軽快な打音が聞こえてきたのだ。
 これは、パソコンのキーボードを打つ音だ。メインルーム付属の簡易デスクに学のノートブックが起動されたまま置いてある事を思い出す。美春は床から、脱ぎっ放しだったバスローブを拾い上げて腕を通し、同じく脱ぎっ放しで放置されていた学のバスローブを片手にメインルームへと急いだ。

 ベッドルームを出ると、さほど離れてはいない場所に簡易デスクが設置されている。学は立ったままパソコンのキーを叩いていた。
「学?」
 ひと声かけて、彼の肩にバスローブをかける。「サンキュー」と嬉しげな声と共に止まった手がバスローブの袖を通り、そしてまたキーを叩き始めた。
「何してるの?」
「ん? 美春に須賀さんの使用を止められたからさ、自分でやってんの……。まぁ、すぐに終わるから待ってろ」
 何となく予感はあったのだが、やはり学は須賀に頼む事なく自分で調査を始めてしまったらしい。

 学もまた、須賀と同じく高いハッキング技術を持っている。
 だがその腕を披露する事は滅多にない。昨年、葉山のシステムに入り込みクラッキング行為に及ぼうとしたクラッカーを、須賀と協力してハッキングし返しクラックした経緯がある。思えば須賀は、その一件で学に惚れ込んだのだ。
「学? 座れば?」
 立ったままキーを打ち続ける学に恐る恐る声をかけると、軽く返事が戻ってきた。
「座るほどの仕事じゃないよ」
 美春も思わず失笑だ。
(どれだけ自信があるのよ、もぅ!)
 しかしその自信が頼もしくて堪らないのだ。美春は後ろから彼に抱き付いてしまいたい衝動を抑えつつ、頼り甲斐のある背中を見詰めた。

 立場的なものから考えれば、宿泊先に選ぼうとする施設は限られてくる。葉山側で用意していたのはグループ系列の高級ホテルだったが、そこへは来ていないのだから選択肢は減る。
「一番怪しい所から……」
 呟きながらも学の両手はキーボードを滑り、指はキーを弾き続ける。
 そしてその手は、すぐに止まった。
「ほーら、当たり」
 どこか自慢げな声を出し、学は腕を組んでモニターを見下ろす。もう分かったのだろうか、恐る恐る後ろから覗き込んだ美春は、モニターに映し出されている名簿を見て目を瞠った。
 そこにあったのは、宿泊施設で管理している宿泊客の個人情報だ。ロシュティス社の名前で、予約が取られ滞在中とされている。
「アラン・ルドワイヤン。――社長の名前だ。やっぱり、秘書も一緒だな」

「いったい、どこに泊っているの?」
「ここだよ」
「……は?」
「ほら、本当はハイラグジュアリー・スイートを取りたかったけど、どうしてもルームチェンジが出来ない客の予約が入っていて断られた、って話をしただろう? 親会社の関係で、ここは外国人VIPが優遇されるきらいがある。社長が宿泊している可能性として、最初に思い浮かんだんだ」
 そして、学の予想は的中したのだ。彼はこのマニフィーク・ヒルの宿泊者名簿をハッキングするのみで、事を解決してしまった。

 偶然とはいえ、同じホテルにいるのだという事実に驚きだ。
 学の腕に抱きつき、美春は得意然とする彼を見上げた。
「で? どうするの? 挨拶にでも行く?」
「来日を誤魔化した人の所へか? 向こうは、来ている事を知られたくはないんだぞ?」
「うん……」
 生返事をしつつ、美春は名簿にあるもうひとつの名前が気になっていた。
 【グレース・ラファラン】これは、社長第一秘書の名前だ。
 名前自体が女性名であるように、第一秘書は女性であるはずなのだが名簿の部屋割りを見る限るでふたりは同室している。
 学と美春が使っているスイートより、ハイラグジュアリーは更に広い。ゲストベッドを入れてもらえば寝室を同じにする事も無いが……。
(もしかして、訊いた事も話題になった事も無いけれど、恋人だとか婚約者だとか、そういった関係なのかしら……)
 自分達の例を取り考える。ならば同室である理由も分かる。
 そうじゃなくても、もしかしたら仕事の為、常に秘書を傍に置きたいという社長の意向から同室である可能性もある。
 社長は四十二歳、秘書は三十二歳だ。創業時から社長の陰となり活躍してきた秘書らしいので、社長の信用も絶大なものなのだろう。そうなれば、常に傍に、というのも当たり前だ。
(私ってば、詮索し過ぎ)
 邪な考えを振り落とし、美春は学の肩に頭を寄り添わせた。
「お疲れ様、学」







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 後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 そうなんですよ。須賀さんに頼まなくても、学君でも出来るんですね。
 あ、でも、ハッキングシーンは須賀さんの見せ場ですから。(笑) まだ先ですが、出てくる予定です。

 社長一行が来ている事は分かりましたが、先方からの連絡待ちですから今は動けません。
 もう少し、この週末を楽しんでもらいましょうね。^^

 では、次回!!





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