理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第2章6(一真の動揺)

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「いい? 絶対だよ、絶対父さんが帰ってくるまで、どこへも行っちゃ駄目だからね!」
 散々念を押し、美春には外出を禁止しながらも、自分は晶香とのデートへ出かけてしまった一真。
(何なのよ……、もぅ)
 文句というより、美春は少々呆れていた。

 学と金曜の夜を過ごし、思い切り幸せな寝坊をした土曜日。
 ひと泳ぎの後にブランチを取り、ホテルを出たのは午後だった。
 日曜の夜は翌日の早朝出勤に備えて葉山家で過ごす予定なので、今日は実家へ帰るつもりでいた美春。「今夜はおうちでご飯食べるからねー」とエリに連絡を入れようとしたところ、電話に出た一真に「夕方じゃなくて、今すぐ帰って来て!」と懇願されたのだ。

「美春のデート中に、一真が無理を言うのは珍しいぞ。余程の事なんだろうから、今日は早めに帰ろう。夜にまた、美春の部屋まで行くから」
 満足な週末を過ごし御機嫌な学は、可愛い義弟の味方をし、お土産のケーキと共に美春を光野家へ帰したのだ。

 大介は仕事に出ているらしく、家にはエリと一真がいた。それでも一真は、十五時になったら晶香とデートらしい。
「早かったのね、美春。お父さんに電話したらね、美春が帰って来てるなら早めに帰るって言っていたわよ」
 呑気に笑うエリとは対照的に、一真は美春を自分の部屋へと連れ込み、真剣な表情で迫ったのだ。
「おねーちゃんっ、お父さんが帰ってくるまで、絶対にお母さんから目を離しちゃ駄目だよっ」
「は?」
 もちろん美春は、一真が何を言っているのか分からない。小さな子供でもあるまいし、母から目を離すなとはどういう事なのだろう。
「実は、夕べさぁ……」
 すると、不安げに一真が昨夜の出来事を口にしたのだ。
 昨夜、エリの知人が訪ねて来たという出来事を。
 十五分程度ではあったが、ふたりは門の内と外で話をしていた。しかしその雰囲気は、どこか意味深なものであったらしい。

 『せっかくここまで来てくれたんだから、お茶の一杯も御馳走してあげたいところだけど、中には入れないわよ? “昔みたいな事”があったら嫌だもの』
 『そんな無理は言わないよ。元々、会えると思って来た訳じゃないんだ。エリの姿を見られただけで、満足だよ』
 『本当に?』
 『――僕が、昔から嘘つきなのは、エリがよく知っているだろう?』

「それで、ふたりで笑い合ってるんだよ! どう思う!? ねぇ、お姉ちゃんっ!!」
 一真はかなり興奮して美春に詰め寄ってきた。
 どう思うと訊かれても、「お友達でしょ?」としか言いようがない。
「ふたりで見詰め合っちゃってさ、男の方は帰るまで母さんの手を放さなかったんだよ!? ぼ、僕、怖くて、母さんに『誰?』とも訊けなかったんだから!!」
 エリに外国人の知人が多数いる事は美春も知っている。どの程度の知人なのかは知らないが、外国人のスキンシップは日本人より濃厚だろうから、手を握っていたくらいで騒ぐ事も無いのではないだろうか。
 実際の雰囲気を目の当たりにしていない美春は、軽く考えてしまった。

「で、その外人さんさ、『仕事でまだしばらくは日本にいるから、また会いに来るかもしれない』とか言ってるんだよ。ウインクなんかしてさ『ダンナ様がいない時にね』とかってっ、ちょっと問題だよね、これ!!」
 大好きな母の一大事かと、一真は涙目で猜疑心いっぱいだ。デートに行くまでに父が帰って来なかったら、この家に母はひとりきりになってしまう。そんな時に、あの外国人がやって来たら……。
 泣きそうなくらい心配になった時、美春から電話が来たのだ。
 必死になって呼び戻した理由は“母の監視”、これに尽きる。


「昔のボーイフレンド、とかじゃないのかなぁ……」
 ひと通りの話を終え、再三に渡り念を押して行った一真を見送って部屋へ戻った美春は、部屋着のワンピースに着替え、ひとりごちる。
 母は十三の時までフランスにいたのだ。その時代の友達だという考え方も出来る。
 十三歳の時に、十九歳だった父と出会った。その後は父にべったり懐いていたという話なので、手を握りあって見詰め合うようなボーイフレンドを日本で作るとも思えない。

「でも……、お母さんも、スミに置けないなぁ……」

 美春はつい頬が緩む。
 家族の幸せに一生懸命で、父が大好きな母。
 いくつになっても優しくて可愛らしく、女性を見る目にうるさい学にさえ称賛される女性だ。
 家族に疑いを持たれるような異性の知人がいるなど、想像もしなかった。

 美春はふぅっと吐息し、デスクの上に置いた洋菓子店の箱に目を留める。
 帰って来てすぐ一真に引っ張られてしまったので、エリにケーキを渡す間も無かったのだ。
「三時のおやつは、お母さんとふたりだなぁ」
 昨夜来たという男性の件でも問い詰めてみようか。あの母がどんな顔をするのかと思うと興味も湧くが、逆に「お友達よ? ぅふっ」で終わりそうな気がしないでもない。
「意外に手強いのよね、お母さん。……あんな顔して」
 ――美春もそうである事を、本人は自覚しているだろうか。

 洋菓子店の箱を手に部屋を出る。鼻歌なぞが自然に出てしまうのは、やはり久々に母娘でおやつの時間なるものを共有する楽しみ故だ。
 階段を下りたところで、ドアチャイムの音が玄関に響いた。キッチンからエリの「はーい」と返事をする声が聞こえたが、美春はそれを制する。
「いいよ、お母さん。私が出るから」
 箱を廊下の隅に置き、玄関口へと下りる。大抵は門のインターフォンが鳴るのだが、鳴ったのはドアチャイムだったので訪問者はドアの前まで来てしまっているのだろう。
「どちら様ですか?」
 声をかけ、相手の返事を待とうとしたが、相手が先にドアを開けてしまった。
 どことなくいつもと違う雰囲気に、もしも強引な訪問販売などであったなら怒鳴りつけてやると息を吸い込んだ美春だが、その言葉は目の前に飛び込んできた物に止められた。
 いきなり美春の目の前に現れたのは、薔薇の花束だったのだ。ピンクの薔薇だ。いったい何本あるのだろう……。

(何……?)
 美春は呆然と薔薇を見詰め、そして、その上に出ている顔を見上げた。
 ブラウンの髪と瞳を持つ外国人。歳の頃は、母と同じくらいだろうか。

「……エリ……?」

 彼は何故か母の名前を呟き……。
 そして、美春を抱き締めた。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 一真君、焦る、焦る。
 無理もない話ですけどね。彼は目の前で見ていましたから。

 母娘の楽しいティータイムを邪魔しに来た彼。
 何故かいきなり抱き締められた美春ちゃんですが……。

 では、次回!!





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