理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第3章1(望まれる娘)

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「このお茶、美春ちゃんが淹れてくれたの?」
 嬉しそうに微笑む彼女を見て、相変わらず愛くるしい女性だと、美春は思う。
「はい。食後のお口に合えばいいんですけど」
「いやぁね、合わないはずがないでしょう? とても美味しいわ」
 葉山邸の食堂。朝食を終えた葉山さくらに食後のお茶を運んで来たのは、一足先に朝食を終えていた美春だった。
「これから出社なのでしょう? ごめんなさいね、行きがけに」
「学が、車の件で整備の紺野さんと話をしているんです。そうしたら、お母様のお食事が終わるところだってお聞きしたので」
「車? 朝に珍しいわね。学の車、調子でも悪いの?」
「どうなんでしょう……。私、車のことは分からなくて……」
 免許は持ってはいても、美春はペーパードライバーだ。車など運転して何かあったら大変だと、葉山家側プラス大介や一真からも許可してはもらえない。
 流れで問いかけてはみるものの、葉山家専属整備士である紺野の腕を、さくらも信頼している。何といっても愛する夫が引き抜いた人間だ。特に大きな心配をする必要もないだろう。

 今、朝食をとっていたのはさくらのみだ。いつも一緒であるはずの一は所用の電話中。長くかかっているらしく、さくらが食事を終えても現れる気配がない。
 学と美春は早朝出社の為、既に食事を終えている。少々寂しい気持ちが襲いかけた時、美春がお茶を持って現れた。
 昨夜は葉山邸で過ごした美春。夕食は一緒に取ったものの、後はいつものごとく学に独占されていたので、さくらは少々不満だったのだ。「学が美春ちゃんを貸してくれない」と。

 さくらは美春が大好きだ。
 光野一家が隣に越して来て二十一年。学が美春に可愛らしいプロポーズをしたあの日から、彼女はさくらのお気に入りなのだ。
 美春を可愛がるあまり、女の子が欲しいと望んでいた気持ちも、やがて「美春ちゃんがお嫁に来てくれればいいわ」と思うようになってしまったほどだ。
 幼い頃も、そして、学の婚約者になってからも、本当の娘のように愛しんできた。

 だが、もうすぐ彼女の願いは叶えられる。
 美春がさくらの“娘”になる日は近いのだ。

「もうすぐね……」
 口元に近付けた、美しい抹茶色の水面が揺れる。ゆっくりと口に含み、愛しい“娘”の思いやりで喉を潤すと、さくらは相変わらずの童顔で、四十歳に足を踏み入れたとは思えない笑顔を見せた。
「嬉しい。もうすぐ、本当の意味で、美春ちゃんが娘になるんだって思うと」
「……お母様」
「美春ちゃんに構い倒して干渉して、母親のフリをしていたって、やっぱりエリちゃんには敵わないものね……。でも、美春ちゃんが学と結婚すれば“母親なんだ”って自信が持てそう」
 さくらにしては弱気な言葉だ。快活で自信に溢れ、弛み無い愛情で葉山グループ会長である夫を心身共に支えている女性。そんな彼女がほろりと零したか弱さを、美春は静かに掬い取る。
「お母様……」
 朱塗りの盆をテーブルへ置き、椅子越しにさくらへと両腕を回し抱き付いた。

「お母様は、ずっと、私の“もうひとりのお母さん”だったじゃないですか……。小さな頃からずっと。私を……、私と学を、見守っていてくれました。……私は、私の母と同じくらい色々な気持ちをお母様にも貰って成長してきたんですよ……。お母様は、昔も今も、これからも、私のお母様じゃないですか……」

 湯呑みの緑色が、小さなさざ波を作る。
 心が震える感情が湧き上がっていると自覚し、さくらは湯呑みをテーブルに戻して美春の腕に手を添えた。

「……提携契約、頑張りましょうね……。私も、力になるから……。あなた達の、幸せの為に」
「はい。……お力を、お借りします」

 美春は嬉しさに涙腺が緩む思いだ。
 さくらの美春を思う気持ちが、溢れるほどに伝わってくる。
 ロシュティスの件は、学と美春の未来を左右するだけではない。
 ふたりが幸せを掴むことで、今まで二人を見守り続けてくれた人達への恩返しにも繋がるのだ。


「ん? 朝から仲良しで羨ましい光景だな。私も入れてくれないか?」
 穏やかな声を楽しげに弾ませ、食堂に入って来たのは一だった。
 外は朝から眩しい陽射しが外気温を上昇させているというのに、キッチリとネクタイを締め、相変わらず見目良いスーツ姿だ。一見暑苦しそうだが、彼の場合はその高潔さから清々しささえ感じさせる。
 学がエリに、成熟した美春の未来を見るように、美春も一に対して、学が父親世代になった時の姿を見ずにはいられない。

(今日もカッコ良いなぁ、お父様……)
 緩みそうになる頬を押さえながらそんな思いを持ってしまうのも、学と重ね合わせて見ているが故だ。

「仲間に入れてあげても良いけど、一さんはまず学の了解を取ってちょうだい。了解無しで美春ちゃんに抱き付いてなんかもらったら、あのやきもち妬きのことだもん、『俺の美春が、俺以外の男に抱き付いた!』って言って、家庭内暴走が始まりそうよ」
「お母様、そんな大袈裟な……」
 冗談だとは分かっていても、つい苦笑いが漏れる。そして流石と言うべき息の合った返しを一が見せた。
「そうだな。私もさくらが娘の頃、父上に懐いたり抱き付いたりすると『私のさくらが、私以外の男に抱き付いた!』と思って、殺意が芽生えたものだ。学の気持ちは分かる」
「おっ、おとーさまっ、そんな……」

 赤くなるべきか、青くなるべきか。戸惑う美春の少々楽しい反応を見たせいか、一は軽く失笑する。そこで終わらずに小さく肩を震わせ始めたのを見て、さくらは椅子から立ち上がった。
 一の持病、笑い上戸が発動するかと警戒したのだ。だが一は、そんなさくらを笑顔で制する。
「いや、心配しないでくれ、さくら。大丈夫だ。相変わらず美春ちゃんの反応は可愛いなと思ってね。こんな子が娘になるのだから、私は幸せ者だ」
「ふふっ、今丁度、同じような話をしていたのよ」
 
 ふたりの温かな気持ちに、美春の頬が赤く染まる。
 赤VS青は、赤が勝利したようだ。








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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第3章、スタートします。
 またしばらく、お付き合い下さいね。^^

 週明けの朝。
 第2章では実の母親であるエリさんとのシーンがありましたが、今回は美春ちゃんにとっては義理の母親になります、さくらさん。
 彼女は、シリーズ中、要所要所で大切な役割を果たしてくれていました。
 もちろん今回も、その役目は変わりません。
 学君の母親であるという特性から、美春ちゃんと絡むシーンが多く「エリさんとどっちが母親だか分からない」というお声も頂いてはおりましたが、やはりさくらさんにも「本物の母親には敵わない」という思いが、少しあったのだと思います。
 大切な息子と娘の幸せの為に、文字通り“命を懸けて”力を貸してもらいましょう。
 ……それにしても、整備士の紺野さんのこと、すっごく久し振りに話題にした気がします。(笑)
 2部から登場して、7部くらいまでチョイ役で出てました。^^
 車関係大好きな彼。もちろん、まだ葉山家で整備士してます。

 いじられ体質(?)の美春ちゃん。
 更に彼女、間接的にとある人からも結婚についてプレッシャーをかけられてしまいます。

 幸せな朝の光景を、もう少し……。

 次は学君も出ます。^^

 では、次回!!




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