理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第3章2(ふたりの関係性)

 ←第3章1(望まれる娘) →第3章3(新婚・柳原家)

「お電話、長かったのね。何かあったの? 私、お食事終わっちゃったわ」
 一緒に食事をとれなかったと拗ねたふりをして見せるさくらに、一は笑顔で弁解を始めた。
「すまない。父上からだったのだよ」
 夫婦揃っての朝食を邪魔したのは、学の祖父に当たる一の実父だったらしい。
 今は相談役として葉山グループに籍を置き、郊外にある葉山の別邸に、夫婦ふたりと数人の使用人で暮らしている。
 美春は葉山の祖父母にも可愛がられている。未だに「はるちゃん」と呼ばれるほどだ。祖父の新一は、常に物静かで時には表情が無くなるほどに厳しくなる一の父親とは思えないほど朗らかな老紳士。何と言っても「孫だから」という特権の元、天下の辻川紗月姫を「さっちゃん」と呼んでしまう豪傑だ。

「発破をかけられてね。『さっさと学とはるちゃんを結婚させんか』って。学が大仕事をやり遂げてカッコつけたいのは分かるが、何故手を貸さない、と……怒られてしまったよ」
「おっ、……お父様が、ですかっ?」
 美春は慌ててしまった。決して一が手を貸してくれていない訳ではない。今回の視察だって、持て成しを含めた話し合いには、一にも中に入ってもらわねばならないのだから。

 女性ふたりに歩み寄った一は、学よりも高い背を屈めて美春を覗き込んだ。
「父上も御立腹なのだよ。年下の紗月姫ちゃんが婚礼時期をハッキリと決めているのに、学と美春ちゃんはまだ宙に浮いた状態だ。同じ孫だからどちらの結婚も嬉しいだろうけど、やはり学は男孫だし、会社への思いを考えて、どうしても早く決めて欲しいと思ってしまうのだろう」
 学は葉山製薬を筆頭とした、葉山グループの跡取り。祖父だけではなく、彼には葉山グループというものの期待がかかっている。
 第一線からは退いたものの、祖父が跡取りの結婚問題を気にかけるのは当然。
 考え詰めていけば、学の存在は会社やそこに関わる人間にとってとても大きなものであり、ふたりの結婚は重要なものだ。

 美春が考え込み、視線を下げてしまったせいだろうか。ニコリと微笑んだ一は、一番大切な伝言を耳打ちする。
「父上がね、『曾孫(ひまご)の顔を見て、その子が結婚するまで死ねない』と言っていた。あの人のことだ、希望を叶えてあげれば、きっと玄孫(やしゃご)、来孫(らいそん)の代まで長生きしてくれる」
 視線を上げると、そこには学に良く似た涼しげで澄んだ瞳がある。学に元気付けられている感覚で美春が表情を和めると、一の大きな手が彼女の頭を撫でた。
「頑張ろう。会社の為には勿論だが、……学と、美春ちゃんの為にも」
「はい」
 とびきりの笑顔で、美春は嬉しさを表す。

 自分達は、こんなにも周囲から期待をされている。
 こんなにも、温かい大きな優しさを、沢山貰っている。


 ――――幸せを掴む準備は、出来ていたのだ……。


*****


「お爺様が? そんな事を言っていたって?」
 一から聞いた祖父の話を学にすると、彼は少し驚いたようだった。
 だがすぐに苦笑いをし、くすぐったそうに“孫”の表情を見せたのだ。
「心配しないで下さいって言っておいたのに……。結構、心配性なんだよな……」
 助手席で彼が運転をする姿を眺め、美春も表情を和める。
「分かっているし、信じてくれているんだと思う。でも、学が可愛いから、期待を込めて口に出さずにはいられないんだと思うわ」
「それはそれで嬉しいな。お爺様との約束、絶対に守らないとな。『跡取り失格』って怒鳴られそうだ」

 今年一月、祖父に会いに行った際、今回の仕事を成功させて今年中に美春と結婚をすると約束をした。
 祖父はその約束を覚えているからこそ、期待を込めて一に発破をかけたのだろう。
 “跡取り失格”などという想像にも値しない台詞を口にした学は、大仕事前の緊張感に包まれているのではないか。そう感じた美春は、ハンドルを握る彼の腕に触れ、ニコリと微笑んで自分の緊張を呑み込み彼を優先した。

「何を言っているの。葉山グループの跡取りは学しかいないのよ。そんなに皆が知っているわ。私も、学を支えられる人間になれるように頑張る。学が弱音を吐きたい時も、強気でいる時も、いつでも受け止めてあげられるように。……すぐには、お母様のようにはなれないけれど……」

 頼もしく謙虚な言葉が心に沁みてくる。学は心嬉しくも幸せな気持ちに包まれた。
 彼は急に車を左折させ、いつもの出勤ルートとは違う道へ入っていく。どこかへ寄るつもりなのだろうかと美春が外を確認すると、全く関係がなさそうなビルの横道で停止した。
「どうしたの、学……」
 何気なく問いかけ振り返る。すると学に肩を抱かれ、そのまま抱き締められた。
「学?」
「美春。やっぱりお前、最高だよ」
 真剣な囁きを息を詰めて聞き、両手を彼の背中に回す。
「昔から、俺が自分を晒せるのは美春だけだ。……それは、いつでも美春が、どんな俺でも受け止めて癒してくれていたからだ。美春はとっくに、俺を支えてくれる唯一の女になってる」

 幼い頃から、老舗大企業を営む企業一族の完璧な跡取りとなるべく育てられた学。
 神童と謳われ、大人顔負けの知識と行動力で常に称賛を浴び続けていた幼少期から、いつも素直に“自分”というものを見せるのは美春に対してだけだった。
 そして美春は、どんな学でも、受け入れて来たのだ。
 自信家で我儘な学も。理知的で品行方正な学も。――ちょっと、慰めて欲しそうに構ってくる学も……。

 学は美春を守り。
 美春は学を支え受け入れ。
 その関係性は、恋人同士ではなかった幼馴染時代から、変わらず続いている。
 そして、これからも……。

「愛してる……」
 学の強い囁きは、美春の全てを抱き締める。
 心も身体も、強く彼を感じながら、美春は穏やかに微笑んだ。

「愛してるわ……。学……」

 永遠に、この関係性は続いていくと、ふたりは信じている。







人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 お爺様。新一さん。一話だけですが、第10部で初めて出てきましたよね。別作の『恋桜』ではちょこちょこと出てましたが……。

 両親や祖父の期待と望みを背負ったふたりの前に、いよいよ“あの人”が現れます。

 では、次回!!





もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第3章1(望まれる娘)】へ  【第3章3(新婚・柳原家)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第3章1(望まれる娘)】へ
  • 【第3章3(新婚・柳原家)】へ