理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第3章4(異国の人)

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「そういえば、先週来る予定だったんだっけ……」
 外を眺めながら、柳原はひとりごちる。
 外国の製薬会社が視察にやってくる話は彼も知っている。相手会社の社長が視察で移動の際は、警護に当たるように言われているからだ。
(いつ来るんだろう……。今日にでも分かるかな……)
 来社日が気になってしまうのは、やはり予定に合わせてシフトを入れ替えなければならない立場だからだ。とはいえ、日中のシフトで固めておけば間違いはない。それに比べて、学や美春はきっと夜や休日なども時間を裂くことになるのだろう。
「……大変だなぁ……、坊ちゃんもお嬢さんも……」
 溜息と共に零れた呟きが、意外にも大きく響いてしまった気がして、柳原は慌てて誤魔化しの咳払いをした。

 広いエントランスに時折響くのは、早朝出勤組の足音。
 エレベーターの動く音や、吹き抜けの階上からも物音が響くのではないかと思わせる静けさだ。
 そんな中、ビルの前に一台のタクシーが停まった。
 重役のほとんどは社用車で出勤してくる。社員だろうかと何気なく考え視線を流した柳原は、中から外国人とみられる男女ふたり組が降りてきた姿を見て目を瞠った。
 ブラウンの髪と瞳を持つ白人男性。女性の髪は男性よりも少し明るめだ。見るからに一流の雰囲気を漂わせたふたりは、それなりに成熟した年齢であることを窺わせる。
 それでも、女性の方が男性よりはずっと若いようにも感じる。話しかけている時の姿は、美春が“専務”に話しかけている時のようだ。
 エントランスが静かであるが故、タクシーが走り去ってからのふたりが日本語ではない言葉で話をしている声が聞こえてしまい、柳原は困ってしまった。
 彼は英語が苦手だ。挨拶くらいならば何とかなるが、本格的に話しかけられて対応出来る自信はない。高卒なりに英語は学んだが、学生時代はアメフトに青春を捧げていた。“捧げた”といえば聞こえはいいが、早い話がそれしかしていなかったとも言える。
 よって、この状況は、彼にとっては非常に好ましくない。何か話しかけられても、満足に対応出来そうにもないからだ。
 柳原は咄嗟に思考を巡らせ、対応してくれそうな人物を選択する。
 詩織は英会話が出来る。だがまだ来る気配がない。同じ夜勤の先輩は、申し訳ないが当てにはならないだろう。
(そうだ……、櫻井さん……)
 詩織と同じ秘書課で、美春の教育係を務めている櫻井が既に出社をしている。柳原は彼に連絡を取ろうと思い立った。

 四月に結婚をした柳原より、一カ月早い三月に結婚をした櫻井。
 詩織や美春などとの繋がりもあったので、結婚式にも出席してもらい、エントランスで会えば立ち話をするような仲になっている。
 柳原は無人の受付へ駆け寄り、櫻井へ連絡を取る為、内線電話を取った。


*****


「羨ましいですねぇ。私は最近、おにぎりなんて作ってもらってないですね……」
 何か言いたげな口調で詩織に話しかけ、学の視線は美春を捉える。彼が何を言いたいのかは勿論分かる。すかさず美春は反論した。
「だ、だって、最近、そんな暇も機会もなかったし……」
「こう……、海苔を一緒にキュッと握った、しっとりしたやつ、食べたいなぁ……」
「わっ、分かったってば、今度作ってあげるから」
「いつ?」
「……近いうち……」
 満足な笑顔を見せた学を前に、美春はしてやられた感でいっぱいだ。
 詩織としては予期せぬじゃれ合いを見せられてしまった訳だが、柳原ならば「仲が良いなぁ」と照れてしまうこんな光景も、詩織にはとある驚きをもたらしたようだ。
「せ、専務……、おにぎりなんて、庶民の食べ物食べるんですかっ!?」
 彼女は学をなんだと思っているのだろうか……。
「食べるよ。何も入っていない塩だけのとか好きだし」
「ええっっ!!」
 非常に驚く彼女ではあるが、美春はそこにひと言付け足してあげたい気分だ。
 “塩のみ”と選択をする際は、彼お気に入りの岩塩を細かく挽き、美春の指だけが知る絶妙の塩加減で握られる、実に限定されたものでなくては受け付けないという事を。

 おにぎりで話が盛り上がってしまった詩織は、そのままレクサスの後部座席へと招かれ、残り数百メートルを同行することになった。
 そんな中で美春は、ビルの正面入口へ続く車用通路に一台のタクシーが入って行った様子を視界の端に捉えたのだ。

「タクシー……」
「ん?」
「ううん、……タクシーが入って行ったの……。こんな早朝にタクシーが入ってくるなんて珍しいと思って」
 視界に捉えていたタクシーの件を口にすると、学も前方へ目を向ける。しかし既にビルの前へ入ってしまっているので、彼の目には留らなかった。
「急に早く来なくちゃならなくなった社員とかじゃないのか? バスや電車の都合がつかなかったか、よっぽど急いでいたか……」
「そうかも……」
 不確かな回答を美春は笑って受け止める。考えてみればそれほど気にするようなことでもないだろう。

 後部座席で緊張する詩織に笑いかけ、ハザードを消して、学は車を走らせた。
 いつもの早朝出勤なら、そのまま地下駐車場入り口へと向かうのだが、正面玄関で詩織を降ろさねばならない為、ビル正面の車用通路へ入った。
「あら? お客様?」
 その存在に気付いたのは美春だけではない。学も、そして後部座席からフロントガラスを覗き込んだ詩織も気付いた。
 正面入口の前に、スーツ姿の男女が立っている。恐らく先程美春が見たタクシーに乗っていた人物だろう。
「えっ? 外人さん?」
 助手席のシートをがっしりと掴み、詩織が驚きの声を上げた。だが、驚いたのは彼女だけではない。ふたりの姿がハッキリと見えてくると、美春も驚きに目を見開いたのだ。
(どうして、ここに?)

 車が近付くと、異国のふたりも気付いたようだ。男性側と目が合った美春は、視線を合わせたまま素早く車を降りた。
「どうしたんですか? どうしてここに……」
 彼に近寄って行こうとしたが、その前に彼の方から近寄ってくる。そして美春をその大きな腕で抱き締めたのだ。

「おはよう、ミハル。こんなに早く君に会えるなんて、僕はラッキーだよ」

 ――アランは、嬉しそうに笑った……。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 ここに信君がいたのなら「おにぎりは“はちみつ梅”!」と力説してくれたことでしょう。(笑)
 おにぎりといえば、「海苔パリパリ派」と「海苔しっとり派」に別れると思いますが、皆さんはどっちですか?
 私は……、しっとり、かなぁ……。でも、手巻き寿司とかはパリパリの方が良いですよね。
 (何故かおにぎりの話題)

 タクシーから降り立った異国人。
 男性側に見覚えがあった美春ちゃん。彼は、そう、薔薇の花束を持って来ていたエリさんの知人。
 アランでした。
 さぁ、美春ちゃんが彼の正体を知ります。

 では、次回!!






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~ Comment ~

直さん、こんにちは(*゜▽゜)ノ
ご無沙汰しちゃってすいません…。毎日来てるですけど、お話読ませて頂いてるんですけど、なかなかコメントできなくて(T_T)アキハイソガシイ
なんて、言い訳ですね(>_<)


第1章はこれでもかっていうくらいのイチャイチャ(笑)
第2章は疑惑(?)のアランサン登場。エリサンに会いに来ちゃうなんてところが、ただですまない感いっぱいですね。
第3章突入でいよいよって感じですか?
アランサンはいつから葉山製薬専務秘書がエリサンの娘だと気づいたのだろうか…
この辺りもこれから解明していくのかな?
過去、何があったのかも気になりますねー


毎日が楽しみです(@^▽^@)ありがとうございます♪

電子書籍の方の仕事も忙しそうですね~
パピレスさんからダウンロードして楽しく読ませて頂いています!今は薬指の秘密~読んでます!

ではまた。もう少し頻繁にコメントできるように頑張ります!(笑)

みわさんへお返事です10/24/

みわさん、こんにちは!

 もう、すっごくお返事が遅れてしまって本当にごめんなさい!!m(;∇;)m 

 いつも来て頂いて、本当に感謝ですよぉ。
 コメント頂けて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。(その割に遅い……。(-_-;))

 昨日から第4章に入りました。^^
 さくらさんがちょっと……、な感じですけど、多分アランがやらかしてくれる章になると思います。
 変なことしたら怒ってやって下さい、(`皿´)←

 まだまだプロローグのお話に行かないんですよね……。
 何かノンビリ過ぎかな。ごめんなさい。(^^ゞ

 それと、電子書籍の方も読んで頂けているんですね。
 有難うございます~~~~。
 凄く嬉しい~~~~~~。(≧∇≦)
 『薬指~』地雷じゃなかったですか? 大丈夫でした?(おろおろ)←心配

 なんとなくノロノロ更新になってますが、見に来るのが楽しみだと言って頂けると本当に嬉しいです。

 明日も更新頑張ります!
 有難うございました!!


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