理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第3章6(アランの正体)

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「……社長?」
 美春は目をぱちくりとしばたたかせ、学からアランへと視線を移した。
「社長って……、まさか……」
 目の前にあるアランの頬笑みを凝視する。心の中にとある予想が広がってはいるが、「まさか?」という考えも拭いきれない。
 だが学は、美春の「まさか」を確信へと導いた。
「美春君、いきなり失礼だよ、離れなさい。分からないのかい? ロシュティス社のアラン・ルドワイヤン社長だ」

 美春は息を呑み、目を瞠った。

(ロシュティスの……、社長……)

 学の言葉を受けて吃驚する美春に、アランは更なる頬笑みを向ける。
「そうなんだよ、ミハル。黙っていて悪かったね。でも、もし僕の正体が分かっていたら、君は普通には接してくれなかっただろう?」
「……それは……、そう、ですが……」
 動揺のあまり言葉もあまり出ない美春を腕に抱いたまま、アランはチラリと好意とは違う目を学へ向ける。
「葉山専務はすぐに分かったようだ。……素晴らしい観察眼だね」
「恐れ入ります」
 学はにこりと微笑む。差し出したままの右手は、まだアランに受け取ってはもらえない。それでも彼は引く気配を見せなかった。

「あ……、あの、アラン……、社長、腕を……」
 冷静な忠告ではあったが、学は間違いなく美春がアランの腕の中にいる今の状況を好ましく思ってはいない。
 やんわりと断り離れようとした美春だが、彼の腕は更に強く美春を捉えた。
「おや? ミハルは再会を喜んではくれないのかい? 僕は美春に会えてとても嬉しいよ」
「それは……、喜ばないなんて、そんなことはありませんが……」
 再会とはいっても、彼に会ったのは一昨日だ。もう二度と会う事もないだろうと思っていた人物との再会なので、この偶然は凄いことなのかもしれないが、それにしても今の状況は頂けない。
 美春が気にしているのは、何をおいても学だ。
 相手が相手だ。学が無理矢理美春をアランから引き剥がすのは失礼にあたる。だからといって、美春が無下に離れることも出来ないだろう。
 アランが自主的に離してくれなければ、美春は自由になれないのだ。

 そんな中、学は一昨日聞いた美春の話を思い出していた。
 もちろんそれは、エリの知人だという“アラン”の話だ。美春は、エリと同じくらいの年齢でロシュティスの社長と同じ名前だと笑っていた。
 アラン・ルドワイヤンはエリよりもふたつ年下の四十二歳だ。公にはされていない話だが、十代の頃に日本に留学の経験を持っている。その期間にエリと知り合い、美春に接したのだろう。

「社長は、私の秘書をご存じだったのですね」
 学の口調はあくまでも穏やかだ。はたから見れば、そつの無い好感が持てる態度であっただろう。だがアランは、学が浮かべる友好の笑みを嘲笑で返した。
「ミハルが幼い頃だよ。だがしかし、専務がミハルを知ったのではないかと思われる年よりは……ずっと以前に会っていた。……まァ、専務が知らないミハルを、僕は知っている訳だ」
「……それは、興味がありますね……」
「聞けば専務は、美春と婚約をしているそうだね。不快かな? そんな男がビジネスの相手では」
「いいえ。それとこれとは全く関係の無いことです。知らないところで繋がりがあったのだというこの素晴らしい偶然を、私はより良い方向へと考えたい」
「――実に良い返答だ……」

 ふたりのやり取りを聞きながら、美春は冷や汗が出る思いだ。
 会話内容は実に友好的で平和だが、その口調と雰囲気は決して友好的ではない。それでも学は毅然と接しているが、アランの態度にはいささか妙な印象を受ける。
 まるで敵視をしているようにも感じてしまうのは、美春の考え過ぎなのだろうか。
 そう思ってしまうのは、差し出された学の手に、アランが握手で応えようとしてはくれないからだ。いくらこちらが提携を申し入れている側だといっても、これは感じの良い物ではない。
 握手に応じてくれるよう、進言した方が良いだろうか。今のアランは、美春が言えば応えてくれそうな気がする。
 そう考え彼を見上げた時、初めて聞く声が横から発せられた。

「社長、葉山専務と、握手をお願い致します」
 毅然とした落ち着きのある声だが、それはとても事務的だ。
 初めて声を発したのは、アランの横に立ち黙ってこの様子を見守っていた女性。
「このままでは肝心の話が進みません。仕事になりませんよ」
 彼女はチラリと学を一瞥し、アランに視線を戻す。態度と話から、この女性が毎日連絡を取り合っていた秘書のグレース・ラファランであると悟った美春は、彼女ならこの状況を何とかしてくれそうだと期待を込めた。

 アランは鼻で息を抜き、しょうがないとでも言いたげな嘲笑を浮かべると、やっと学の手を受け取った。
「連絡も無しに、いきなりですまないね。葉山専務」
「いいえ。抜き打ち視察をされて困るようなこともありません。お気遣いは御無用ですよ」
「素晴らしい自信だ」
 話は仕事に入ったというのに、アランの腕は美春から離れない。仕事に入るよう促したグレースが何とかしてくれるのではないかと希望を持っていたが、その気配もないようだ。
 これは本当に自分から無理矢理離れるしかないと考えた時、美春はアランの腕から半ば強引に引き離された。

「何をしているんだ、光野君! 社長に失礼だ、離れなさい!」

 美春を咎めながらも学の横へと引っ張ってくれたのは、突然現れた櫻井だったのだ。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 アランの正体に気付いた美春ちゃん。
 まさか彼がロシュティス社の社長だとは思ってもみなかったというところでしょうか。
 でも、何となくアランは学君にあまり良い態度をくれません。

 このまま放っておいたら、一日中美春ちゃんを離さないのではとも思われましたが、彼女を引き離してくれたのはエントランスの中で見ていた櫻井さん。
 そしてもうひとり、美春ちゃんにとってはとても心強い援軍が飛び込んできますよ。

 では、次回!!





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