理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第3章7(心強い援軍)

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「いくら心待ちにしていた社長にお会い出来たからといって、いきなり抱き付いては失礼だろう。外国のお客様とはいえ限度がある。分かるね?」
「は、はい、……申し訳ありません……」
 有無を言わせぬ櫻井の押しの強さに、美春はただ呑まれるだけだった。
 美春から抱き付いたのではないのだから、櫻井の言い分は間違っている。いつもの美春ならば「私、そんなことしません!」と反抗をしただろう。だが彼女は、敢えてこの言いがかりを認めたのだ。

 それは、櫻井が美春の為に、故意に言いがかりを作り上げたのだと気付いたからだ……。

 実際櫻井はエントランスでこの様子を見ていた。
 当然、アランから美春を抱き締めたのも知っている。そして、交わされた会話も全て耳に入ってた。
 櫻井は学の為、そして美春の為に、彼女を叱責し失礼だと称してアランから引き離したのだ。

「ルドワイヤン社長、申し訳ありません。光野はいささか感情の波が大きく感動体質です。入社当時から携わって来たプロジェクトの最高責任者である社長にやっとお会い出来たので、その感動が抑えられなかったのだと思います。驚かれたことでしょう。光野に代わりまして、私がお詫びを……」
 美春を庇うように彼女の前に立ち、櫻井は頭を下げる。美春を奪い取られた形のアランではあるが、彼は楽しげに笑い声をあげた。
「いいや、いいよ。どちらかといえば君の出現に驚かされた。これは君の誤解だ、専務秘書の方から抱き付いて来たのではないのだよ。そうだと嬉しかったが」
「そうなのですか? 安心しました。では私は、かえって社長に失礼をしてしまいましたね」
「専務秘書は、君の部下でもあるのかな?」
「はい、私は彼女の指導係なのです。申し遅れました、葉山グループ会長付きの秘書事務を務めております、櫻井と申します。数回、社長ともメールのやり取りをさせて頂いた事が有ります」
「ああ、サクライか、覚えているよ。指摘が的確過ぎて、普段ベッドの上以外では取り乱した姿を見せない僕の秘書が、焦ってしまった相手だ」
 冗談か本気か、アランが笑顔で飛ばした秘書の内輪話ではあるが、当のグレースは顔色ひとつ変えず、動揺のひとかけらも見せはしなかった。
 相変わらず彼の傍らに寄り添い、ポーカーフェイスに徹している。

(綺麗な人なのになぁ……。映画に出てくる女優さんみたいなのになぁ……)
 グレースを見ていた美春は、不意に彼女と目が合い、慌てて笑顔で会釈をした。
 彼女とは毎日のようにメールをやり取りしていたせいか、美春自体はとても親近感を覚えているのだが、グレースはそうでもないのかもしれない。美春が笑いかけたが、お愛想にも彼女の口元が和む事はなさそうだ。

 僅かに寂しさのようなものを感じていると、学に背中をポンポンッと叩かれ、美春は我に返る。
 いつまでもこんな場所で立ち話をしていてはいけない。櫻井が機転を利かせてくれた気持ちに応えなくては。
 櫻井の横に並ぼうと足を出しかけた美春ではあったが、その時エントランスへの自動ドアが開き、清爽な声が凛と響き渡った。

「お待ちしておりました、ミスタールドワイヤン。こんな早朝に思いがけないサプライズですわ」

 そして、その華奢な身体が何十倍にも大きく見える凛々しさで姿を現したのは、さくらだったのだ。
「こちらへ来ることを隠していらっしゃったのですね。どう驚かすおつもりでしたの? ミスタールドワイヤンは、時折突飛な論文を発表なさるので有名な薬学博士でもいらっしゃるわ。びっくり箱みたいな方。何が飛び出すのか楽しみですわね」
 
 僅かな皮肉は気の利いたジョークに変わる。さくらは右手を出しながら笑顔でアランへと歩み寄った。
 学の時はなかなか応じなかったアランも、口元をほころばせ握手に応じる。
「早朝に驚かせてしまいました。申し訳ない」
「とんでもない。申し遅れました、葉山グループ会長第一秘書の葉山さくらです。視察を決定して頂いた際に、ご挨拶のメールをさせて頂きました」
「覚えておりますよ。葉山会長の奥様でしたね。会長よりは年下だと伺っていましたが、ミセスさくらが、まさかこんなに可愛らしい奥様だとは思いませんでしたよ」
「素敵な紳士に褒め言葉を頂けるのは嬉しいですわ。さぁ、こんな場所で立ち話なんかしていてはいけません。どうぞ中へ。朝食はおとりになっていらっしゃいましたか? とらずにいらっしゃったのでしたら、食べた瞬間にミスターアランを懐柔出来そうなほど美味しい日本食をご用意いたしますわ」

 スムーズな語り口調で、さくらはアランとグレースをエントランスの中へと促す。中から柳原が自動ドアを押さえると、さくらは学と美春を振り返った。
「社長とお話しをするのに、色々と準備が有るのでしょう? しばらく私がお相手をさせて頂くから、あなた達は急いで準備を」
「はい、分かりました」
「はい、さくらさん」
 学と美春が同時に返事をすると、さくらは美春に視線を流し「頑張って」の意味を込めて微笑みをくれた。

 温かな勇気が、美春の胸を満たす。
「専務、急いで準備を。私は用意してあった資料を出してきます」
 力強い美春の始動に、学も口角を上げ、アランにしばし時間の猶予を乞う意味で頭を下げると、ふたりはエントランスを先へ進んだ。

「櫻井君、すぐに応接室を開けて。ご用意を」
「はい、分かりました。すぐに」
 張り切るふたりを見送り、続いてさくらは櫻井にも指示を出す。当然のごとく忠実な返答をして、彼もエントランスを先へ急いだ。
 そんな櫻井の後ろ姿を見詰め、アランは関心をする。
「頭の良い青年ですね。――専務を気遣い、部下を助けた小細工はお見事でしたよ。……彼は、ミセスさくらの部下ですか?」
「ええ、大のお気に入りですわ」
 さくらは満足そうに微笑む。その頬笑みに導かれ、三人はエントランスへ入った。


『――頭の良過ぎる忠犬だな。……シッポの振りも大き過ぎる……』

 ――――フランス語で囁かれたアランの嘲笑に気付いたのは、グレースだけだ……。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 櫻井さんは、故意に美春ちゃんを叱責して彼女を助けました。
 勘違いを装った彼ではありましたが、その意図をアランはお見通しだったようです。
 口では褒めつつも、それは本心ではないようで……。

 現れた援軍はさくらさんです。
 この場を綺麗に治めてくれた彼女。アランも彼女の対応を気に入ったようですが……。
 ……もしかしたら、そう見えるだけ、なのかもしれません。

 では、次回!!





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