理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第4章4(バスルームの恋人達)

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「美春はさぁ、どうして自分から話したんだ? 俺は訊いてないのに」
 昼の一件を気にかけていると、相変わらず笑いながら学が問いかけてきた。
「社長と何を話したか、なんて、そこまで報告は要らないぞ」
「だって……、気になるかな、って……」
「先手を打ったんだろ? 俺が変な誤解をしないように」
「そんなこと……、きゃっ!」
 泡を落とす為のシャワーが浴びせられる。しかし、お湯ではなく冷たい水だった為、美春は驚いて声をあげた。
「学っ! 水! 水ぅっ!」
「気持ちイイだろ? 冷たくて」
「いっ、いいけど、ふるふるするっ」
 温かいお湯に浸かっているというのに、頭部にだけ冷たさを感じる。この妙なギャップに、美春の肩は本当にふるふると震えた。
 「ふふんっ」と意地悪な声が聞こえ、シャワーは徐々に温かくなる。学が温度を上げてくれたらしい。ホッと身体の力を抜くと、髪を指で梳きながら、学は泡を流し始めた。

「心配しなくたって、世間話をしていただけなんだろうってことは分かるよ」
「どうして分かるの?」
「見てたから」
「……見てたって、どこで?」
「防犯カメラから」
「は?」
 確かに防犯カメラは応接室に付けられている。すると学は、ずっと警備室のモニタールームで様子を探っていたというのだろうか。だがしかし、アランが応接室を出た時、実に良いタイミングで学がエレベーターホールへ見送りに出てきた。一階の警備室にいてあんなに早く来られるはずがない。
「学さぁ、もしかして……」
 その後を続けるまでもなく、再び聞こえる「ふふん」という意地悪な声。もしもの予想は大当たりだ。恐らく彼は、専務室から応接室の様子をハッキングしていたのだろう。

(こういった技術を持ってる人の特権、……っていうか……)

 考えてみれば、追跡経路が断たれない限り、恋人が何をしていても追跡できるのだ。
 愛されていると実感するか、そこまでされると怖いと感じるかはその人次第ではあるが、美春は間違いなく前者だろう。
 あの須賀が絶賛するハッキング技術を持った学ではあるが、普段表立ってその腕を披露することはない。例え仕事で美春がひとりで接待に当たっていようと、覗き見などしたことはないのだ。
 今回そこまでしてしまうということは、気にしていない振りをしていても、彼はかなりアランの美春に対する態度を気にしているのだろう。

(悠里さんも、こういうことされてるのかしら……)
 高度なハッカーを恋人に持っているという点では、須賀の恋人、悠里も同じ立場だ。
(でも、須賀さんは学ほどやきもち妬きじゃないだろうし、そこまではないかなぁ)
 悠里もどちらかといえばほんわりとした性格だ。もしされたとしても「気になったの? ごめんねぇ」くらいで終わってしまうのではないだろうか……。

 他人の恋愛事情に踏み込んでニヤニヤしているうちに、髪の泡は綺麗に流され、ブラシで梳かれ始めていた。
「さっき水かかった時、ぶるぶるした?」
「したぁ……」
 ブラシが髪に絡まったまま止まる。すると学の顔が耳元に寄り、彼の深いバリトンが鼓膜の中へ沁み渡った。
「もっとぶるぶるさせてやろうか……」

 美春はチラリと視線を流して、顔の横で不敵な表情をする学を見る。「どうやって?」と訊くのは無粋ではあるが、とぼけてみせるのはちょっとしたお約束だろう。
 小首を傾げて問いたげな美春を確認すると、学は彼女の右耳に唇を付け、吐息を吹きかけながら舌を挿し込んだ。
「ひゃんっ!」
 無意識に上半身がふるふるっと震える。驚いて肩を竦めた美春を、学の腕が後ろから抱き締めた。
 顎を掬った手が彼女の顔を振り向かせると必然的に唇が重なる。痛いくらいに舌を吸い取られる行為が快感に変わった時、美春は全身を粟立たせた。

「んっ……」
「ほら、二回もぶるぶるした」
「これ、反則……、絶対震えるって分かってるくせに……」
「ふふんっ、俺の特権。ほら、出ておいで、身体洗ってやるから」
「どうしたの? 今日はずいぶんサービス良いのね。自分で洗うよ」
「だーめっ。隅から隅まで俺が洗うのっ。他の男とふたりっきりでいた身体なんて、そのまま抱けるか」
「ちょっとっ、なにそれっ」
 今更の理由にふたりで笑い合うが、湯船からゆっくりと出ながら、美春ははにかみ気味に学を覗き見た。
「でも学、そろそろ、アレでしょ……?」
「アレ?」
「……危険日……。今日くらいからじゃなかった?」

 美春の生理周期を、本人より熟知しているのは学だ。もちろん彼女が言わなくても、排卵予定日前後二日を含めた約五日間、絶対にセックスはしない。
 昔は、自分のことでありながらあまり関心なく学にまかせっきりだった美春だが、いつからか自分でも気に掛けるようになった。美春の計算では、今日辺りから“危険日ウィーク”とふたりが呼んでいる五日間に入るはずなのだ。 

「んー、何かさ、もう気にしなくてもいいかな、とか思って」
「は?」
「どうせ結婚するし」
 湯船から上がった美春を、学は立ち膝のままキュッと抱き締める。臍にキスをされ舌でなぞられて、美春は三度ふるふると震えてしまった。
 それでも上からコンッと学の頭を小突く。
「だーめっ。今から気を抜いてどうするの」
「こんなに“その気”なのに」
「いつもの“我慢の学君”はどこに行ったの?」
「家出中」
「ばかっ」

 上からコンコンコンコンと頭を小突き続ける美春を膝に座らせ、学もそのまま腰をおろして、ふたりは濃密な唇付けを交わした。
 その後のプランについては、もちろん、美春の正論が採用された訳だが……。

「じゃぁ、来週の火曜日は、絶対残業入れないようにしてくれよ」

 解禁五日後の予定は、しっかりと立てた学だった。







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