理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第4章6(眠りへの誘い)

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「寝溜め、って出来ないものね」
 欠伸に開く口を片手で押さえ、僅かに残念な表情を見せるさくらを、一は愛しげに見詰めクスリと笑った。
「あれだけ眠ったのに。……今私が何を考えているか分かる? 少し眠くなってきたなんて考えているのよ、呆れちゃう」
「無理をせずに、先に休むと良い。久し振りに会社へ出て張り切ったから、元気に見えるようでも身体が疲労を感じているのだよ」
「ええ……、でも……」
 さくらの瞳が申し訳なさそうに一を見上げる。彼はさくらの前に置かれた空のグラスにワインを注ぐと、横に腰を下ろし、彼女の肩を抱き寄せた。
「良いから。これを飲んで先に寝なさい。私はまだやることがある。明日は光野家と食事に行く予定なんだ、疲れなど残しておいたら美春ちゃんが心配をするぞ」
「そうね……」
 クスっと小さく笑って一の肩に凭れ掛かる。軽く目を閉じると、ふわりっと睡魔に襲われ、さくらは慌てて瞼を開いた。
(本当に……、寝溜めは出来ないものね……)

 葉山邸のリビングでは、さくらが一のワインの相手をしながら就寝前の寛ぎタイムだ。
 普段人並み程度にたしなめるさくらだが、今夜は一応病院帰りということで「少しだけ」の約束だった。だが結局は二杯目を注がれてしまい、普段と変わらなくなりそうな気配にほくそ笑む。

 先に就寝するのを躊躇ったのは、やはりいつもよりはまだ時間が早いことと、一がまだ起きているからだろう。
 明日の土曜日は、久し振りに土曜出勤をしなくても良い日。温室の桜でも見てゆっくり過ごそうと、一が気を遣ってくれたのだ。このうえ食事会で疲れた様子などを見せては、エリにまで心配をかけてしまう。
 さくらは一の言葉に甘えることにした。

「じゃぁ、これを飲んだら、先にベッドに入らせてもらうわ。ごめんなさい」
「いや、私も眠る時にさくらの可愛い寝顔に迎えてもらえるのだから、大歓迎だ。早く寝なさい」
「でも、もう少し一さんと一緒にいたいから、ゆっくり飲むわ」
 寄り掛かった肩に頭を擦ると、肩を抱いている大きな手が髪を撫でる。本当にこのまま眠ってしまいたい陶酔感の中で、さくらはアランに貰ったサプリメントの話を一にしておこうかと思い立った。

 疑っている訳ではないのだが、二日間も眠り続けてしまったのは何か強力な成分が作用したのではないかと思えてならないのだ。
 結局アランは、成分を教えてはくれなかった。
 「トップシークレットだよ、さくら」と言われてしまっては、教えろとゴネるわけにもいかない。社長クラスが口にする“トップシークレット”がどれほどの意味を持つか、さくらは身に沁みて理解している。

(明日でも良いかな……)
 今すぐにこの問題を論じるには、少々さくらの気合が不足している。
 今夜は眠っていつもの調子を取り戻してから、明日にでも話せばいい。ちょうど明日は食事会で、学や大介も一緒だ。きっと納得出来る結果を出してくれるに違いない。


 そうして、さくらは眠りについた。
 不可解な眠りから目覚めて二日……。

 ――――再び、彼女は不可解な眠りに落ちて行くことになる――――。


*****


 アランとグレースは、内密でやって来た時のまま、マニフィークヒルのハイラグジュアリー・スイートに宿泊をしていた。
 葉山グループ側でも傘下の高級ホテルに部屋を用意していたのだが、一カ月近い長期滞在になるからと、アランから断りを入れたのだ。
 内密でやって来たのには、勿論理由がある。
 アランの個人的な理由ではあったが、エリに会いたかったこと、そして、以前日本で発表され、いつの間にか学会から詳細を抹消されたとある文献を調べたかったのだ。

『何故、あの薬を、サクラに渡したのですか?』
 今更と思われる疑問を口にしたのはグレースだった。スイスとのネット会議を終え、モニターから顔を上げたアランは、大きく吐息しながらソファへと凭れ掛かる。
『何か不思議か?』
『……あれは……、ミハルへ渡すはずだったのでは?』
『気が変わったんだ』
 
 アランの前に赤ワインがもったりとたゆたうグラスを置き、グレースは悲しそうな目をする。
『――ですが、サクラは……』
『お前は、サクラが憎くはないのか? グレース』
 アランの言葉に、グレースは驚きに目を見開いて彼を見た。
『サクラの境遇が、妬ましくはないのか? 僕はお前の気持ちを汲んで、“研究材料”にサクラを選んだ』
『……そんな……、わたしは、別に……』

 戸惑うグレースの表情を見ながら、アランは嘲るように喉を鳴らした。

『名家の令嬢でありながら、彼女は土地や家族の為にハヤマに買われた女だ。――お前と同じじゃないのか、グレース。――だがひとつだけ違うのは、サクラはハヤマに妻として迎えられ、彼を愛し幸せになったこと。――お前は、……家の為に僕に買われて奴隷になり、僕を恨んでいることだ……。この十五年間、ずっと!』







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