理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第4章8(光野家の団欒)

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「うそぉ……」
 疑わしげな口調ながら、大きな目を更に見開きキョトンッとして目をしばたたかせる。
 口をぽかぁんっと開け、信じられないと呆気にとられる表情は、夫の心に娘時代のほんわりとした妻を蘇らせた。
 その反動で、ついソファに並んで座るエリの肩を抱き寄せそうになってしまった大介だが、美春の「やっぱりお母さん、知らなかったんだよね」の呆れ口調で我に返り、背凭れの陰で伸ばしかけていた手をそっと引っ込めた。
「知らないわよぉ……。美春がずっと困ってた会社の社長が、まさかアランだったなんて」
 この事実には、大介も苦笑いを浮かべてしまう。
 彼だって知らなかったのだ。まさかロシュティスの社長が、自分の妻と知り合いだったなどと。

 金曜の夜、光野家のリビングには珍しく家族四人が揃っていた。
 明日は葉山家と食事会だ。さくらの件を考慮して昼食時間を充てる予定なので、美春も大介も、明日は出勤予定を入れてはいない。
 美春が帰ってきているついでに、一真も今夜はデートが無いらしく家にいる。都合が旨く重なり家族水入らずの一家団欒が実現したのだ。

 午後に焼いたシフォンケーキがいつもより上手くいったとご機嫌だったエリは、家族が揃った光景を目に更に御機嫌だ。夕食後のデザート用にと大抜擢されたシフォンケーキに、生クリームを添えて家族四人分を用意し、大介にだけはメープルシロップを振りかけるという気の遣いよう。
 ニコニコと明るい笑顔を振りまく様は、家族が揃うこんな時間をエリがどれだけ大切にしているかが窺える。
 そんな御機嫌なエリを盗み見ながら、美春は恐る恐る訊いたのだ
 「今、視察で来てるロシュティスの社長ね、……この間、お母さんに会いに来てたアランさんなんだよ? お母さん、知ってた?」と。

 衝撃の事実に驚いたのはエリだけではない。大介ももちろん驚いたが、一真も思わず生クリームをフォークからぽろりと落としてしまったほど驚いたのだ。。
 母と“良いムード”を作っていた外国人が、まさか父や姉に関わる人間だったとは。
 しかし彼はそこでふと思い立ち、ケーキの皿を持ちながらちゃっかりと美春の真横へ移動して、笑顔で提案をした。
「でもさ、お姉ちゃんはやりやすいんじゃないの? お母さんの知り合いって事は、向こうだって知人の娘を無下には出来ないだろう? 手心加えてくれるんじゃないの?」
「仕事はそんなに甘くないっ」
 一真のおでこをペシッと叩き、美春は「簡単なこと言っちゃ駄目っ」とばかりに「めっ!」と眉を寄せる。
 大好きな姉に叱られたところで、彼にダメージはない。かえってより笑顔を作り、今度はエリに提案をした。
「ねぇ? お母さん。優しそうな人だったしさ、今度来たら、何気なく『宜しくね』って言っておけば? 仲良さそうだったんだしさ。そのくらい口を出しても許される範囲だよね」
 言ってしまってから、一真はハッと大介の顔を見る。アランがエリの知人だったと知って驚いたばかりだというのに、おまけに“家に訊ねて来たことがある”どころか“一真も会ったことがある”事実まで知ってしまったのだ。
 今まで知らなかっただけに、彼としてはちょっとしたショックではないか。

 大介の微妙な心境を、エリは感じ取ったのかもしれない。身体を深く倒して彼の顔を覗き込んだのだ。
「アランが、そんなに偉い人になっているなんて知らなかったわ。ここに越してくる前、私が頼まれ講師をしていた日本語スクールのフランス人コースにいたのよ。私が“社長を”教えてたのよ、凄いでしょう」
 気を遣っていたのかもしれないが、エリの口調は悪気がなく素直だ。大介の苦笑いが笑顔に変わると、エリも身体をソファに戻して、腕を組み感心して見せる。
「それにしても、そんな大きな会社の社長だなんて信じられないわ。確かにあの人、学者の家系で頭は良かったけれど……、気障で女の子に手が早くて、スクールでも有名だったんだから。まぁ、ハンサムで気さくだったから、好かれるタイプではあったわよね。でも、しっかりしているかと思えば、紅茶にお塩入れちゃったり、お魚にソースかけちゃったり、ベタにそそっかしくてね」

 いきなりの暴露話だが、美春と大介は微妙に笑えない。
 ひとりおかしそうに笑い声を上げるのは一真だが、彼は何のしがらみもない分気楽なのだ。笑う勢いで美春を茶化してきた。
「お姉ちゃん、学兄さんにも教えてあげなよ。今まで焦らし続けてくれた会社の社長なんでしょ? 社長の顔を見た瞬間に思い出して気持ちも和むよ」
「ばかっ、何言ってんのよ。かえって笑い上戸発動したらどうすんのよっ。最近ホント、葉山のお父様に似てきて、ツボに入って笑い出したらなかなか止まんないんだからね」
 焦る美春を面白そうに眺め、一真はシフォンケーキを口に入れ、ふっと思い立つ。
「そういえば、学兄さん、今日は……?」
「ん? あとで部屋に来るって言ってたけど?」
「――僕、二階にいない方がいい?」
「なっ、なんにもしないわよっ、馬鹿っ」

 ハッキリと言わなくても美春が意味を分かってしまう辺り、一真も気を遣うことが多いようだ。


*****


「あンっ、バカっ、ちょっ、こらぁ、あぁんっ!」

 ――――何もしない……、とは言ったものの……。

「やぁんっ、やめっ、やめっ、……駄目ぇ……」

 美春の部屋には、それはそれは可愛らしく艶っぽい笑い声が溢れていた。
「だってよぉ、美春に触れないと思ったらつまんなくてさ」
 危険日なのでしょうがないのだが、不機嫌な声で不満タラタラ仏頂面の学は、床に転がり逃げる美春をくすぐり回す。
「だっ、だからって、これはないでしょうがっ!」
「うるさい、触らせろっ」
「くっ、くすぐらなくたって……いやぁんっ、……あンっ……」
「くすぐった時の声が、シてる時みたいで可愛いんだよ」
「アホぉっ!!」


 もちろん大暴れで上げられる声は部屋から筒抜け。それどころか一真の部屋まで聞こえている。笑い声が混じっていることから、美春はくすぐられているだけなのだと察しを付けた一真だが、やはり聞こえてくる姉の声は微妙に色っぽい。
 彼は諦めて部屋を出ると、リビングへ避難した。

「……明日、食事会が終わったら、晶香ちゃんくすぐりに行こう……」

 だが少々、刺激されたらしい……。








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