理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第4章10(原因不明の眠り)

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「ただ眠っているだけ。前回と同じだよ……」
 冷静な口調。尚且つ落ち着きある態度であるはずなのに、一の表情がどこか苦しげに見えてしまったのは、彼の心中が決して穏やかではないと予想できるからだろうか。
 顔には出さず上手く動揺を隠す仕草が、学ととてもよく似ている。そう感じる分だけ、美春は一を見ていて切なくなった。

 今朝、どれだけ名前を呼ぼうと揺さぶろうと目を覚まさなかったさくら。
 前回と同じ状態であるとすぐに気付いた一は、斉に連絡を取り、自分で病院へと運んだ。
 昼食会の中止とさくらの状態を伝えに、直接光野家にやって来たのは学だった。驚いた光野家の面々は、身仕度も半分に病院へ駆けつけたのだ。

 辻川総合病院の特別室には、数日前と同じ光景がある。
 大きなベッドに、ただ眠るさくらが横たわっていることだ。
 全員が揃うなか、さくらの手を握って泣きそうな顔で彼女を見詰めるエリを、病室の外へ出すよう大介が一真に言い付けた。
「見ていてもしょうがないんだ。ロビーで休んでいなさい。一と話があるから、それが終わったら、ひとまず僕達も帰ろう」
 エリは声も無く頷き、一真に腕を支えられて病室を出る。前回もエリは、とてもさくらの様子を案じていた。もう異常はないのだと思っていた分、彼女の不安も大きいのだ。

 エリが一真に連れて行かれる様子を見ながら、美春は少々迷ってしまった。
 大介が一と話す為にエリと一真を病室の外へ出したということは、さくらについての込み入った話なのかもしれない。学も動こうとしないということは、恐らく症状についての話し合いがなされるのだろう。
 この道に明るい者達の話し合いだ、本来ならば美春も席を外すべきだったのかもしれないが、彼女はどうしても自分の見解を確かめたかった。
 学の秘書になると決めた大学二年生の頃から、彼に習って薬学の勉強はした。専門的に学んでいる一真ほどではないかもしれないが、美春にもそれなりの知識はある。今回の件でどうしても気になった症例があり、美春はそれを確認したくて、敢えてこの場に残ったのだ。

「あの……、どうしても確認したくて……。訊いて、いいですか?」
 ベッドの傍らに立ったまま、チラリと大介を見てから一に話しかける。仕事モードの少々厳しい面立ちを見せる父に「余計な口出しをするんじゃない」と咎められるかと心配したが、大介は口を出さず一と共に耳を傾けてくれた。
 隣に立つ学も、話を聞こうとしてくれている。緊張をしつつも、美春は自分の見解を口にした。
「自分の意思に反して眠ってしまう病気があったように記憶しているんです。……もしかしたら、今回はそれなのではないでしょうか」
 美春が現状から何かを読み取り、関心を示す姿が嬉しかったのだろう。大介は微かに表情を和め、娘の補助をした。
「美春が言っているのは、“ナルコレプシー”のことだろう。“眠り病”といわれる睡眠障害だよ。ただこれは、……日中一緒にいる一に、昼間の様子を聞いてみないと分からないな」
 大介の視線が一へと向くと、それを追って美春や学も彼に注目をする。一からの答えは、すぐに弾き出された。
「いや、ナルコレプシーではないだろう。あれは、通常の生活をしている時間帯にいきなり睡魔に襲われ、起きていられなくなって眠ってしまう状態を何度も繰り返してしまうものだ。もうひとつ、自分の意思と反して睡魔に襲われる症状の原因として、睡眠時無呼吸症候群というものもあるが、とにかくさくらは、通常の活動時間帯に眠い素振りは見せなかった。あくまでも、夜、普通に眠気を感じたうえで就寝しているので、どちらにもあてはまらない」
 ひとつを否定すれば、きっと美春は次に考えられる可能性を示してくるだろう。それを悟ったのか、一は先手を打った。実際、考えていたもうひとつの可能性も否定されてしまい、美春は早々と口をつぐむしかなくなってしまった。

 だが、大介のようなエキスパートの前で、自分の見解を臆せず口にしたのだ。そんな彼女の背をポンッと叩き、学は美春の成長を称える。
「ナルコレプシーの可能性は俺も考えていた。ただ、母さんの場合は睡眠状態が長過ぎるので、判断しかねていたんだ。よく気付いたな」
 学に褒められ気持ちが軽くなった美春は、何の異常もなくただ眠り続けるさくらを見て、何気なく口にする。
「ただ眠り続けてしまうなんて、……眠り姫みたい……」

 発言の可愛らしさに学はクスリと笑い、もう一度美春の背をポンポンッと叩く。
 彼を見上げてはにかむ美春ではあったが、彼女のひと言に顔色を変えた人物がひとりいた。

 大介だ。
 瞬時に表情を固めた彼は、さくらを凝視し、眉を寄せる。
「……まさか……」

 小さな呟きは、誰の耳にも入ってはいない。
 だが一だけは、大介の様子に気付いていた。

 ふたりの脳裏に、共通の過去が浮かび上がる。


 研究者としての大介が、たった一度侵した、過ちを――――。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 第4章、本日ラストになります。

 目覚めたはずなのに、再び眠りに落ちたさくらさん。
 原因不明の症状に、各自思惑を巡らせてはいますが、ひとつの可能性に気付いたのは大介さんと一さんでした。
 ですがそれは、研究者としての大介さんを、苛むものであるようです……。

 アランとグレースの関係が少し見えてきました。
 ただ、ふたりの本当の気持ちはまだ見えないままです。
 さくらさんと似た境遇の元、アランの傍につき従うグレースですが、彼女の真意はどこにあるのでしょうか。

 第5章では、さくらさんの異常に、決定的な判断が下されます。

 ではまた、第5章も宜しくお願い致します!

*第5章は、11/28からになります。






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みわさんへお返事です11/19

みわさん、こんにちは!

 第4章、お付き合い頂き有難うございました!
 なんというか、間に長いお休みが入るので亀更新のようになってしまっていてスイマセン。(^^ゞ

 ここに来て色々なことが少しずつ明かされていっていますが、まだ序盤、どんどん深読みしてくださいね。(*^^*)

 第5章もノロノロ進行ですが、お楽しみ頂ければと思います。^^

 そういえば、ご家族の体調はいかがですか?
 そうそう、病気系は順番にめぐるんですよね。( ̄  ̄;;
 みわさんは大丈夫ですか? 看病疲れにご注意を。

 有難うございました!

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