理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第5章2(天使の推論)

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「どうして、斉先生じゃなくてお父さんなの?」
 もちろん、紗月姫が切り出した話の不自然さに美春はすぐ気付いた。
「それとも、何か薬で改善できるの? 注射とか? 斉先生は、眠っているだけとしか言ってくれないんだけど……」
 病気の可能性を探るのなら、主治医である斉に訊くのが筋だ。大介は医者ではない。さくらの病状を探るなど出来ないだろう。
 それとも紗月姫は、何か薬で改善できる方法を大介が知っているとでも言うのだろうか。

 キョトンッとする美春に向き直り、紗月姫は言い聞かせるように説明を始めた。
「美春さん、光野室長が、睡眠障害に関する著書を多数出されているのは、もちろんご存知ですね?」
「……え? ええ……、たまに講演会とか、仕事で行くし……」
「彼は若い頃から多くの論文を発表し、学会や論文誌にもよく取り上げられていました。彼が持つ博士号も、多くの素晴らしい論文の結果です。そんな論文の半数以上が“眠り”に関するものであるのは御存じ?」
「……そこまでは……」
 大介が多くの論文を発表し取り上げられていたのは知っている。葉山の本社研究室へ、二十代のうちに室長として栄転した異例の昇進も、全ては数多くの研究成果と実績だと聞いている。
 だがその半数以上が、眠りに関する研究だというのは知らなかった。

「……っていうか、お父さんが本社に来た頃なんて、紗月姫ちゃんは産まれてもいないじゃない……。私が二歳になったばかりの時だよ? なんでそんなに詳しいの?」
「私、光野博士の著書は全て持っていますわよ? 彼の論文が掲載された論文誌やジャーナルも、全て目を通していますから分かります。結構熱心な信奉者でしょう?」
 意外なところで父親のファンを発見し、美春はぺこりと頭を下げる。
「お買い上げ、ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
 茶目っ気を出した紗月姫が美春に合わせてぺこりと頭を下げ返すと、その可愛らしい光景にまたもや学が失笑し、神藤でさえクスリと笑みを漏らした。

「さくら伯母様の症状が睡眠障害に関係するものであるなら、光野博士は可能性を探れるはずです。正当な医師である斉先生が医学の観点で結果を出せなくても、光野博士ならば可能でしょう」

 何となく専門的な話になりそうだ。今まで紗月姫と話していたのは美春だが、これは自分の出る幕ではないとばかりに学の腕をクイクイと引っ張り、掌を出させバトンタッチよろしく手を打ち付ける。
 了解した、と口角を上げ、学は紗月姫へ向き直った。
「光野室長は沈黙を守っているよ。多分……、何かを感じているのではないかと俺も思ってはいる。病院に皆が集まった日、長いこと父さんとふたりで話をしていたし……」
「一伯父様と?」
 人差し指でトントンっと唇を叩き考え込むと、紗月姫は不敵に口角を上げた。
「伯父様も……、このおかしな偶然に、気付いていらっしゃるのかしら?」

 なかなか紗月姫の言葉の意味と思惑を察することが出来ない美春だが、ひとつだけ分かるのは、大介がさくらの症状について、何かを知っているのではないかということだ。
 すると、首を傾げる美春に紗月姫はヒントを与えた。
「美春さん、ミスター・ルドワイヤンは、今日は来社していました?」
「え? ああ、今日は来ていないわ。明日はそれこそ研究室室長と話がしたいからって言っていて、午前中に来るはずだけど」
「毎日来社している訳ではないのですね?」
「毎日ではないわ。こちらで視察や会議検討を繰り返しながら、スイスの仕事もしているみたいだから」
「先週、初めて姿を見せたのは月曜日ですね。その日は大変だったとお伺いしていますが?」
「早朝にいきなり来たんだもの。てんやわんやだったわ。お母様のサポートがなかったら、満足に対応も出来なかったような気がする」
「さくら伯母様は、かなり長い時間対応を?」
「そうね、……朝と、……あとは休憩時間も……」
「――睡眠状態がおかしくなったのは、その日の夜からです」
「……紗月姫ちゃん?」

 矢継ぎ早に質問を繰り返した紗月姫は、眉をひそめた美春を置き去りにして学との対話に戻った。
「ミスター・ルドワイヤンは、学者一族の出身です。副社長を務める弟は、会社の経営面に心血を注いでいる熱心さを持っていますが、社長である彼は、社長職よりも研究が好きな人物。特に好きなのは“眠り”に関する研究。光野博士と同じ分野で論文を多々発表し、もちろん博士号も持っている。……これが、どういう意味か、お分かりですね? 恐らく学さんも、その点はお考えになっていたことと思いますが?」
「……あまり、考えたくなはい例だな……」
 眉をひそめたまま、美春は学を凝視した。まさかの推測は、彼女にも容易に出来たからだ。

「さくら伯母さまが奇妙な睡眠症状を表し始めた日に、彼女はミスター・ルドワイヤンと長く接しています」
 決定的なひと言は口にはしない。だが、紗月姫が言いたいことは学のみならず美春にも分かった。
 これは学が言う通り、考えたくはない仮説だ。一歩間違えば、この提携に関する商談は白紙となり、最悪の場合、国際問題になりかねない結果を生むことになるからだ……。

 多くを口にしないまま眉を寄せる学に、紗月姫の厳しい声がかけられた。
「学さん、私は以前、ロシュティスの件を成功させる為に、辻川財閥次期総帥として口添えをさせてくれとお願いをしたことがあります。それは、間違いなく葉山製薬側を有利に出来るものであったからです。ですが、貴方は断りました。この件は、自分の力でやらなくてはならない件だから、と」
「ああ、言った」
「ですが今回は、辻川の人間として、ロシュティスを調べさせてもらいます。貴方の為ではありません。これは、私の大切な身内の為の行為です。――異存は、ありませんね?」
 学は黙って首を縦に振る。そんな彼を見ながら、美春は今までの話から察することが出来る事柄を、なかなか信じられずにいた。

 さくらに降りかかったこの異常事態は、アランが何らかの細工を彼女に施したのだという、推論を……。








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