理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第6章1(嬉しい知らせと危険な話)

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「さっきまでさぁ、すっげー浮かれてたんだよな、オレ」
 愚痴るつもりではなかったのだが、信は恨みがましい視線を学へ送りながら溜息をついた。
「それはすまないな。まぁ、機嫌直せ。ほら、手土産のメロン」
「――許す」
 最初から拗ねるつもりもなかったが、予想外の手土産が特大のマスクメロンとなれば、メロン好きとしてはニヤリとせずにはいられない。そんな現金な笑顔を見せる信に、学は思わず失笑した。
「機嫌も良くなるよな。赤ちゃんの性別分かったんだから。“女の子”だって? 良かったな、希望通りじゃないか」
 学がくれる心からの祝福に、信は更に破顔する。一瞬忘れかけていた喜びが、再び蘇ったようだった。


 さくらを見舞った後の学は、事務所に電気が点いていることを確認したうえで、田島総合法律事務所へと立ち寄った。
 目的はもちろん、信に会って今回の一件を話すことだ。
 十日前に戻ってきた信は、後期修習期間を過ごしたウィークリーマンションも解約し、すっかり後片付けも済んだ。
 あとは約一カ月後の合格発表を待つだけなのだが、その期間も相変わらずこうして事務所の自室へ入り浸り、法律の空気に触れている。
 今日は朝から涼香の健診に付き合った。「旦那さんが一緒なの?」と気を良くした女性医師は、彼にも診察室へ入ることを勧め、エコー検査の際に胎児を見せてくれたのだ。
 「うん、どうなのかなーと思っていたけど、これなら女の子で間違いないですよ。ほら、赤ちゃんの臓器、見えますか? 卵巣が見えるでしょう? 時々、股の間におちんちん挟んで隠している子がいるからハッキリ言えなかったんだけど、……ほら、間違いないみたいよ」ポインターを移動させながら胎児の説明をされるが、正直、臓器と言われても素人目にはよく分からない。だが、性別を聞いて信と涼香がどんどん笑顔になっていく様を見ながら、女性医師は張り切って教えてくれた。
 あらかじめ、性別が分かったら教えて欲しいと告げてあった他、涼香が「女の子が欲しい」と言ってあったせいか、女性医師も希望通りであったことを喜んでくれた。
 その時は、喜びを微笑み合うことで伝えあったふたりだったが、診察室を出ると、涼香は嬉しさに涙が止まらなくなってしまったのだ。
 「……はるか、だった……」と。
 生まれてくる子が女の子だったら、“はるか”と名付けたいと言い出したのは涼香だった。
 “はるか”は、信が八歳の時に他界した母親の名。信が、そして父親の信悟が、思い出の中で大切にしている女性の名前だ。
 そんな思いもまとめて“家族”になりたいと、涼香は望んだ。そんな願いが通じたのか、涼香の身体には“はるか”が宿ったのだ。
 仕事中だとは分かっていたが、結果を信悟にも知らせた信は、女の子だったと告げた時、一瞬父が言葉を詰まらせたあの“間”を、きっと忘れることはないだろう。
 そんな感慨深い思いに包まれた今日、幸せな彼の前に現れたのが学だった。

 アラン・ルドワイヤンが絡んだ、不吉な話と共に。

 当然だが、少々浮かれた気持ちは萎えてしまったらしい。
「もしも葉山夫人に何かあれば、国際問題にもなりかねない。……こりゃぁ、また爺ちゃんの力を借りなきゃならないかもな……」
 受け取ったマスクメロンを片手でクルクルと回しながら、信はデスクの椅子に深く寄り掛かる。大好きなメロンを目の前にしてはいるが、話が話なだけに、どうしても浮かれた気分にはなれなかった。
 弁護士一族といわれる田島の家系。信の祖父は現在、国際弁護士として活躍中だ。今年に入り、紗月姫の関係で神藤の身元調査をした際は、国際的な領域で話が進んでいたために随分と活躍してもらった。
「まぁ……、葉山家の問題だからな……。どうしても法的な問題にしなくちゃならない場合は、力を借りる他ないだろうな……」
 腕を組み、右手を軽く顎に当て考え込む学をチラリと一瞥すると、信は軽く口角を上げる。、
「……はぐらかした言い方だな……。お前としては、そこまでの問題にはしたくない、ってところなのか」
「あの人が、悪戯に何かを仕掛けたのだとしても、……大きな問題にしたところで、向こうにはもちろんだが、葉山側としてもマイナス要素にしかならないからな」
「話し合いで解決したい、ってのが本音なんだろ?」
「母さんの症状が、クライン・レビンで間違いがないなら、……社長は、抗体を持っているはずだ」

 闇に葬られた研究者の真似をしたのなら、重大な問題のある発症促進剤を作ったのだから、万が一を考え、アランは抗体を用意しているはずだ。単純にさくらの症状を改善させようと思うなら、彼に抗体を提供させれば良いだけだ。
 だが、問題はある。
「ロシュティスの社長が、故意に発症促進剤を飲ませたと自ら認めない限りは、抗体の提供を強く要求出来ないってところだな」
 流石に信は呑み込みが早い。学は口角を上げ、「まぁな」と苦笑いを漏らした。

 最初の予定をキャンセルしたと見せかけて、実は現地入りしていたアラン。
 美春の話を聞き、てっきり昔の思い出を辿りエリに会うためなのかと思ったのだが、それだけではないようだ。
 二十五年前、学会から抹殺された文献を調べたかった。いや、文献そのものよりは、その謎となっている研究者の正体を探りたかったのかもしれない。

「でもなぁ、……社長は何だって、そんな怪しい研究内容を知っているんだ? 研究者の真似をしたってことは、抹消されたはずの文献を持っているってことなんだろう? まぁ、コピーなんだと思うけど……」
 手で回していたメロンを、今度は右へ左へ両手で弄び、信は疑問を投げる。学は相変わらず考え込んでいるスタイルから厳しい表情を変えない。
「ルドワイヤンの家系は学者の一族だ。特殊な環境の中で育ったアラン社長も、そして副社長である弟も、薬学博士として著名な人物だ。一族の中には、もちろん学会関係者もいる。恐らくその関係から、何らかの形で文献を手に入れたんだろう」
「そして自ら保管し続けたってわけか……」
「ああ……」
 メロンを弄ぶ手を止め、学を見ていた信の目に鋭が差す。
 眉を寄せ、彼とは思えない重い声が、学を追求した。
「……で? その問題の“研究者”ってのは、誰なんだ?」

 危険な研究を発表した研究者は、葉山製薬の人間だという。
 紗月姫もハッキリとはその名を告げなかったが、学ならば知っているだろうと、信は読んだのだ……。







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後書き

 こんにちは。玉紀直です。
 第6章、スタートします。
 またしばらく、お付き合い下さいね。^^

 やっと出てきました。信君です。
 ここまで全然出なかったので、「今回ほとんど出ない?」と思われたかと思いますが、彼はサブメインですから、出てもらわなくちゃ困ります。

 男同士の話し合いの中に、ちょっと嬉しい話もありました。
 涼香ちゃんの赤ちゃんは、女の子です。
 「はるかちゃん」ですよ。良かったですね。^^
 ふたりはもちろんですが、信吾さんも嬉しいです。彼が声を詰まらせるなんて、本当に無いことですから。
 ……きっと、すっごく可愛がるんだろうなぁ……。想像したら笑いが……。(何故っ)

 さて、問題の研究者ですが、その正体を学君は知っているのでしょうか。
 そして、問題の抗体は本当に存在しているのでしょうか……。
 美春ちゃんが今回の一件を知るのは?
 そんな問題だらけで進みます第6章。……あっ、もちろん、いちゃいちゃもありますよ。もちろんですとも!
 どうぞ宜しくお願い致します!




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