理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第6章4(ふたつのご褒美)

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「なっ、何持ってんですか、櫻井さん!」
 反射的に閉めたドアへ張り付いてしまった須賀だが、本能的に美春の腕を引き、自分の後ろへと庇った。
「だっだだ、駄目でしょうっ、女の子にナイフなんか向けちゃ! それも、専務の前で光野さんにって……、何やってんですかっ! 謀反ですか、殺されますよ!」
 咄嗟に出た本音に、傍観者の学は失笑だ。
 だが、それに返した櫻井の本音も、更に学の笑いを誘う。
「専務に謀反を起こしたって、五分とかからず病院送りだ! 子どもが生まれるのに、そんな命知らずなこと出来るか!」

(……そこまで言いますか、櫻井さん……)
 櫻井に言われては、流石に学も笑えない……。
 そんな彼を引き合いに出しつつも、お傍付き同士の攻防は続く。

「ああ、そうだ、教えてあげるから須賀君も覚えておくと良い。男ならこんな物のひとつやふたつ扱えないと……」
「そっ、そんなもん使えなくたってキーボードは叩けます!」
「専務のお傍付きなんだから、このくらい覚えておこうよ」
「櫻井さん実戦担当! オレ、頭脳担当! はい、解決!!」

 彼なりの必死さを見せて美春を庇う須賀。彼の肩に手をかけ、美春はひょこっと櫻井を盗み見る。
 怯えつつも威嚇する四つの瞳に凝視され、櫻井は噴き出しそうになった。
(いいコンビだ)
 そう思うと、少々意地悪心に火が点る。冴子にでも見られたなら「弱い者苛めばっかりしてぇ!」と怒られるところだが、ここにはいない。

「ほーらほら、光野君、よーく見てなさい」
「係長、嫌いっ!」
「やめてくださいよ、危ないです、櫻井さん!」

 嫌味なほど美春の前でバタフライナイフの扱い方を実演して見せる櫻井。
 一見苛められている風なのに、学は止めない。
 彼には分かっているからだ。こうやってふざけているように見えて、櫻井はシッカリと美春に扱い方を伝授している。そしてまた美春も、嫌がる言葉を出しながらシッカリとその動きを頭に入れ、学習しているということを。


*****


「学っ、嫌いっ」
 嵐のような実演講習が過ぎ去った専務室には、美春的低気圧が停滞していた。もちろん、櫻井の猛攻を止めてくれなかった学に対しての抗議だ。
 ソファに膝を揃えて座る彼女を笑いながら眺め、学はご機嫌取りに用意したアイスオレンジティーを手渡して横に腰を下ろす。
「怒るな、怒るな。逃げる美春、可愛かったぞ」
「もぅっ、係長、目が本気で怖かったんだから。止めてくれても良いじゃないの」
「美春の脳みそが勉強中だったのに、止めるわけがないだろう?」
 ストローでアイスティーを吸い上げる美春の頭を指の関節でコンコンッと叩き、学は畳まれた状態のバタフライナイフを笑顔で差し出す。勿論、櫻井が実演で美春に“勉強”させていたものだ。
「覚えただろう?」
 自信に満ちた口調で手渡され、美春は拗ねた表情で受け取りながらも右手の指でストッパーを弾き、勢いをつけて手首を反した。
 カシャンッと規則正しい音がして刀身がセットされる。先に弾いたストッパーを指で弾き戻し、美春は自慢げに微笑んで見せた。
「どう?」

「よくできました。美春は頭が良い子だから、櫻井さんの動きを見ていればすぐにイメージで覚えられると思った」
「ご褒美くれないの?」
 学は美春の頭を片手で引き寄せ、優越感に上がる唇にキスをした。
 徐々に濃密さを増すキスに、「口紅が取れちゃったでしょ」と文句を言う準備を頭で整え、美春は目を向けないまま刀身をグリップに挟み込み収納してしまう。
 この柔らかく甘ったるい唇の持ち主とは思えない観察眼の鋭さに、学はほくそ笑まずにはいられない。

「じゃぁ、もうひとつ、ご褒美やるよ」
 深い声が意味有り気に囁き、太腿を撫でる。エッチなご褒美だと勘違いした美春は軽く彼の手を叩くが、学はその手でスーツの内ポケットから小さなレース布を取り出した。
「何、これ? 可愛い……」
 学の掌に乗せられた物を見て、美春は弾んだ声をあげる。それは輪状になった幅広の白いレースだ。ストレッチ性の繊維が縫い込んであるらしく、中央に向かってギャザーが寄せられている。アクセントに周囲を取り囲む二本のリボンは、ラベンダーブルーのベルベット素材。女性なら誰もが感歎の声をあげてしまいそうな可愛らしさだ。
 手に取って見てみたかったが、美春の手には右にナイフ左にアイスティーのグラスが握られている。それなので彼女は、学の手を覗き込むしか出来なかった。
「アームバンド? にしては大きいような……。シュシュでもなさそうだし……」
 首を傾げる美春は本当に分からないようだ。着けた経験がないので無理もないだろう。学はソファから下りて美春の足元に屈むと、彼女の右足を取ってパンプスを脱がせた。
「なっ、何?」
 いきなり何をするのかと驚き、足元の学を凝視した美春は、彼がレースの輪を脚に通したのを見て思いついた名前を口にする。
「……ガーターリング?」

 ガーターベルトは着けた経験があるが、ガーターリングは着けたことがない。どちらもガーターストッキングを留める物ではあるが、リングの方は太腿でストッキングを留める。
 本来の用途の他、デザイン性に富んでいるため、ミニスカートなどの下にファッションとして着ける場合もあるようだ。
 だが、これが「ご褒美」とは、どういうことだろう?








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