理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第7章1(夫婦愛)

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「ごめんなさい……」
 彼女が謝る必要はない。
 きっと誰もがそう言うだろうし、実際それは正論だ。
「私が、勧められるままに飲んでしまったから……」
 だが、紗月姫の調査内容や、自分の身に降りかかっているとんでもない奇病の存在を一から聞かされたさくらは、謝罪を口にすることしか出来なかった。
「さくらが謝る必要はない。さくらは、申し入れを断れない立場にいた。本当に謝罪をしなくてはならないのは、発症促進物質を持ち込んだ人間だ」
 一は勿論さくらを庇う。そしてまた、その意見も間違いではない。
 この問題に対する原因は、アランなのだから。


 水曜日の午後、またしても櫻井の見事なスケジュール管理能力が発揮され、一には一時間ほどさくらの様子を見に病院を訪れる時間が与えられた。
 目を覚まして二日目。アランからさくらが受け取ったと考えられる発症促進物質の話をするべきか否か、一は決めかねていた。だが様子を見に来た彼に、さくらから話が切り出されたのだ。
 「アラン社長に、サプリメントではない何かをもらって、飲んでしまったのかもしれない」と。
 さくら自身、この原因不明の睡眠障害をおかしく思っている。一は、真相を話さないわけにはいかなくなった。
 
「心配するな、さくら」
 ベッドの上でページの進まない本を手にしたまま俯くさくらに、一は優しく声をかける。
「社長からサプリメントと言われたものをもらい、それを飲んでからこの異常は起き始めたのだと、さくら自身が自覚している。充分、社長から真相を聞き出す糸口になるだろう。
「一さん……」
「恐らく彼は抗体も用意しているはずだ。さくらへの使用を認めたら、抗体の提供を要求する」
 椅子から腰を上げ、おもむろにベッドの端へ座った一は、顔を上げられないさくらの頭を撫でた。
「さくらが必要以上に気に病む必要はない。どんな理由があるにしろ、これは研究者としてのプライドを持つ者がやって許される行為ではない。きっとすぐに、不安材料は解消される」
 さくらが顔を上げ、ふたりの目が合うと、一はふたりきりの時にだけ見せる笑顔でにこりと笑んだ。
「私が直接社長にかけ合おう。大切なさくらに関する一件だ、心配しないで、待っていなさい」

 不安に張り詰めていたさくらの表情が僅かに和んだ。一が手をかけて上手くいかなかった事例はない。この件は、本当にすぐ解決してしまうだろう、さくらにはそう思えたのだ。

 そう思うと気持ちも緩む。
「でも、何て言うか、不幸中の幸いだったのかしら……。私が被験者に選ばれなければ、美春ちゃんに発症促進物質が与えられていたのでしょう?」
「ああ、まぁ、そんなことになれば、大騒動だったろうな」
 さくらが言わんとすることが分かったのだろう。一は軽く失笑する。
「“誰かさん”が、荒れて大暴れだったろうな」
「本社ビルが壊されかねないわ。あの子はまだ、一さんほど冷静な対応が出来ないだろうし。ことの他、美春ちゃんに関しては」
 一に釣られて、さくらもクスクス笑い出した。

 気持ちが和んだせいだろう。不意にさくらが小さな欠伸をする。彼女の手から持っているだけの本を取り上げ、一は優しく声をかけた。
「少し眠りなさい。昨日も一昨日も、あまり眠れてはいないのだろう?」
 さくらは一を見詰め、大きな瞳に躊躇いを映す。彼が言う通りに眠りについて、また目が覚めなかったら……。そんな思いが、さくらを深い眠りから遠ざけていた。
 火曜の朝、水曜の朝、二日間順調に目覚めてはいるが、それは決して、クライン・レビン症候群用に使用される中枢神経を刺激する薬のお陰だけではない。
 さくらが、意識的に深い眠りを避けようとしているからだ。

 眠りに身を委ねてしまえば、また数日目が覚めないのでは……。
 そんな不安が、ずっと彼女を苛み続けている。

 一は身体を伸ばしてさくらを抱き締め、ポンポンッと背中を叩いた。
「こんなことで弱ってしまっては大変だ。眠るまで付いていてあげるから、眠りなさい。仕事を終えてから来た時に、まださくらが眠っていたら私が起こしてあげよう」
「一さんが起こしてくれるの? 凄い、じゃぁ私、寝たふりをするわ」
「よしてくれ、心臓に悪い。これでも若い頃よりは弱っているはずだ、あまり驚かせないでくれ」
「あらぁ? 天下の辻川財閥総帥を、目の前で二度も土下座させた経験を持つ人が何を言うの? 驚かせたくらいで一さんの心臓を停められる人なんていないわ」
 一に抱きつき御機嫌になったさくらだが、その回答はすぐに与えられた。
「――いるぞ、私の心臓を停められるのは、さくらだけだ」

 回答と共に触れる唇。さくらの柔らかい髪と温かい吐息を感じて一は唇を離し、彼女をベッドへ横たわらせた。
「私もこの後は仕事が控えている。早いところゆっくりと眠る姿を見せてくれ。そうしなければ安心して仕事に臨めない。さくらの代行秘書君は、なかなか峻厳なキレ者でね、私も気が抜けないよ」
 ベッドへ身体を預け、さくらはクスッと笑みを漏らす。
 柔らかなベッドの感触と、髪を撫でる一の手、彼の愛しげな視線がすぐに彼女をふわりとした眠りへと引き込んでいった。

「……じゃぁ、少し、眠るわ……。絶対に、……起こしてね、一さん……」

 今まで一を見つめていたしなやかな瞳が閉じると、間もなく小さな寝息が立てられる。一はさくらを見詰めたまま、切なげに目を細めた。

「……おやすみ。さくら」






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後書き
 こんにちは。玉紀直です。
 第7章、開始させて頂きます。
 いつも有難うございます。第6章から続けてになりますが、お付き合い頂けますと幸いです。^^

 どうぞ宜しくお願い致します!






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