理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第9章6(もしも、の期待)

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「何? 皆が忙しくなったり、美春が相変わらず大変そうなのって、アランのせいなの?」
 美春とさくらの話を横で聞きながら、エリは小首を傾げた。
 立場的に、エリはアランと知人関係にある。母の知人に困らされているなどという事実は、限りなく口に出しづらいものだ。
「いや、あの……そういうわけじゃなくて、ほら、最後の仕上げだから、皆忙しくなってるだけ……」
「冗談抜きで、私『美春をよろしくね』って念を押しておこうか? まだ日本にいるんでしょう? あの人」
「いいよっ、そんなことしなくていいっ!」
 胸の前で両手を振り、美春は懸命に否定をする。エリは冗談のつもりなのかもしれないが、今このタイミングでアランとご対面などしたなら、どんな話を吹きこまれてしまうか分からない。

 ――――僕はもう二度と、心惹かれた女性を手放したくはない。エリのように……。

 アランが美春に囁いた言葉を思い出し、何とも言えない不安が湧き上がる。
 花束などの一件から、もしかしてアランがエリに惹かれていたのではという疑念は持っていたが、それは間違いではなかったのだ。
 その影を美春に求めている。この困窮した状況を、どう処理したらいものか。

 ドアにノックの音が響き、すぐに学が顔を出した。
「美春、良いぞ。斉先生の所に行こう」
「え? 何で?」
 美春が目をぱちくりとさせる。学はクスクス笑いながら彼女の肩を抱いた。
「定期健診だよ。最近受けていなかっただろう? 今日は斉先生がいるから、ついでに受けて行こう」
「でも……」
「斉先生には頼んであるんだから、ほら、行こう」
 学はさくらとエリに「ちょっと行ってきます」とひと声かけ、半分美春を引きずりながら病室の外へ出た。

「どうしていきなり健診なの? 一昨日倒れちゃったから?」
 肩を抱かれたまま歩いていたが、問い掛けに答える為なのか学が立ち止まる。
「今日も、まだ“来る”気配はないんだろう?」
「え? ……あ……」
「判定試薬で確認してからでも良いけど、来たついでに診てもらいたいって、さっき斉先生に頼んできたんだ」

 土曜日が生理予定日だった美春は、今日もその気配がない。通常一日二日のズレなど気にするほどの範囲ではないが、二十八日周期が規則的な美春としては、ずれること自体が珍しいので学も気にかかるのだろう。
 ただ、今回は忙しく精神的にも特殊な期間が続いていたことを考えれば、ホルモンバランスの崩れで数日間遅れているとしても不思議ではない。だが、心配要らないのなら要らないと、早目にハッキリと分かった方が安心というもの。もしも“心配のいる状態”になっているなら、早めに対応しなくてはならない。
 自分の希望も入った考えに、学は笑い声を上げながら美春を抱き締めた。
「美春、ずっと発情期気味でスッゴク敏感だったもんなぁ。こういうことだったのかなとか思うと納得だな。もし“そうなってたら”どうする? 俺は嬉しいな」
「ちょっと、またそういうこと言うっ」
 ふざける学の背をポカポカと叩くが、彼は平気だ。希望を高めるように美春の身体を揺らす。
「何だよ、美春は嬉しくないのか?」
「それはっ、そんなことになったら嬉しいけど、……でも、まだ早いし……。っていうか、学ってば冴子さんの前でもそんなこと言ってたでしょう。恥ずかしいよ、そっ、“そのまま”しちゃってます、って言ってるようなもんじゃないのぉっ」
「だから褒めてくれたろ? 『潔くて素敵です』って。流石に冴子さんは大人だよな」
「まなぶっ」
「怒るな怒るな」
 ムキになる美春を強く抱き、学は彼女の耳元に囁く。
「いつも言っているだろう? 俺は、今すぐだって良いんだって。今すぐでも一年後でも。なぁ、美春、俺のお願い、いつきいてくれる?」
 耳から入りこむ、学の甘いお願い声。美春はぽうっと顔が熱くなった。
「わ……、私だって、そんなことになったら、もちろん嬉しいよ……。学のお願いだって、すぐにでもきいてあげたいけど……、でも、まだ結婚前だし……。私としては、少し複雑だったりするんだから……。分かってよ……」
「……うん、ごめん」
 彼の優しい謝罪を耳に、美春はキュッと背中に回した手でしがみついた。
「そんなことになったら、嬉しくて泣いちゃうよ……、私……」


*****


 生理の遅れに少々の期待を持ってはみたが、願望と現実は明らかなギャップを見せてふたりの前に立ちはだかった。
「ご懐妊されている兆候はありません。やはりお身体に無理がかかっていたのか、少々変調が見られるようですね」
 診察室で学と美春を前にした斉は、相変わらず柔らかな笑顔と謹厳な口調で説明をしてくれた。
「美春様のお身体自体は準備をしてくれているのですが、働きがそれに着いて行ってくれていないようです。排卵の準備はされているのに機能していない状態ですね。精神的なものが作用しているとすれば、落ち着かれれば排卵後月経が起こると思われます。もしくは無排卵のまま月経が起きるか、です」
 
 正当な排卵予定日は二週間前だったので、かなりズレたことになる。
「女性は、種々のストレスなどでホルモン調節のバランスを崩した時に、無排卵周期症というものを起こしがちです。元々何らかの疾患があるのなら処置が必要になってきますが、美春様は子宮の器質的に問題がある方ではありませんので、まず心配は要りません」

 酷く緊張したりトラブルがあったり、そんな時に生理が遅れるなどのホルモンバランスを崩すことはよくあった。
 心配するような症状ではないと分かったのは良いが、今まだ排卵されていない状態であるということは、違う面で、大きな問題があるのではないのか……。 








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