理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第10章1(応接室の親交)

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「残念でしたね。葉山専務」
 グレースが含み笑いと共に吐いた台詞を、学は同じく、含み笑いを持って返した。
 まるで彼女が、そう言うであろうことを悟っていたかのように――――。
「本当なら、ミハルに同行させるのは、あのガードマンではなく、見るからに腕の立ちそうなサクライを指名したかったのでは? 同行……いいえ、ボディガードとして」
 アランの元へ美春を赴かせるには、ボディガードが必要。グレースは学に「アランを信用していない」という皮肉を投げかけているのだ。
 苦笑いで誤魔化す彼が見たかったのか、それとも、「そんなことはありませんよ」と、信頼関係を崩したくないばかりに焦る彼が見たかったのかは定かではないが、彼女の密かな希望は、学の微動だにしない意思の前に打ち崩された。
「ええ、その通りですよ。私は櫻井をボディガードに付けてやりたかった。ですが、彼はまだ出社をしていない。――それを狙って、こんな早朝からいらっしゃったのでしょう? ミス・グレース」

 グレースの眉がピクリと動いた。仕事ではポーカーフェイスを貫く彼女には珍しく、ブラウンの瞳に焦りが揺らぐ。
「ですが、今同行してもらった彼もとても頼もしい男ですよ。もしも、施錠したドアの向こう側で美春君の悲鳴が聞こえたとしたら、彼は一秒の躊躇もなくそのドアを力づくで破壊し、中へ飛び込むことでしょう」
 感情を出さぬよう息を詰めるグレースを見据え、学はあくまでも動揺などみせない。
「私の周囲には、そんな頼もしい人間が多いのですよ」

 もしも櫻井が出社していたのだとしても、さくらが動けない今、彼にはさくらの代行を務めるという大切な仕事がある。
 可能であったなら、学が美春に同行させたかったのは、須賀なのだ。
 彼なら、仮にアランが仕事の話をするから部屋の外に出ていろと言っても、ただで出てくるようなことはしない。
 必ず室内の様子が分かるように何らかの仕掛けを施してくるはずだ。それによって、アランとどんな話をしたのか、美春からではなくとも探ることができただろう。
 美春が戻ってから本人に確認すれば良いという話でもあるが、時が時だ、何か衝撃的な話題でも振られたのなら、その動揺から美春が口を閉ざしてしまう可能性がある。
 それじゃなくても、今の美春は自分の置かれた立場に動揺を隠せないのだ。

 だがとにかく、美春の身だけはしっかりと守って欲しい。
 そこで学は、間違いのない柳原を同行させた。

 アランが美春に好意を持っていることは勿論分かっている。だがまだ話は始まったばかりで、不利とはいえ、こちら側の意見を一切加味してはいない状態だ。
 そんな現状で美春に手を出すほど、アランも愚かではないだろう。
 自分の研究のためには、身内の犠牲や知人一族の崩壊も厭わない男に人道的措置を望むのは、もしかしたら間違いであるのかもしれない。だが、この“秘書交換”という条件は、美春の気持ちというものが大きく関係してくる。
 彼女がアランに対して不信感しか抱いてはいない今、アランだって迂闊に手出しなどできないはずなのだ。

(頼むぞ……、柳原君……)
 心の中で柳原へ信頼を預け、学は椅子に腰を下ろしてグレースと対峙した。
「さて、じゃぁ、まだ早い時間ではありますが“仕事”に入りましょうか? “親交”とは? 何をしたら良いのだろう? 男同士ならば夜に出直してもらって酒を飲むとか、恋人の話をするとか、そんなこともできるのだけれど、貴女とはそういうわけにもいかない」
 にこりと微笑む学の表情は、仕事で見せる厳しさと威圧感が影を潜め実に秀麗だ。
 男性というものは、アラン以外興味を持たぬよう調教されてきたグレースでさえ、一瞬見入ってしまった。
「親交を持つなら、まずお互いを知らなくてはなりませんね。少し、プライベートに関するお話なんていかがです? 女性と話をするなら……、そうだな、“恋愛系”の話などが喜ばれそうだ」
 学はそう提案し軽く腕を組むと、頬笑みを絶やさぬまま不敵に口角を上げる。
「それならば私も、興味を持って聞いて頂けそうな話が沢山ありますよ。幼馴染との恋愛話です。ああ、そういえば、貴女もアラン社長とは幼馴染なのだそうですね。是非、幼い頃のお話など伺いたいものだ」

 学の頬笑みに懐柔されそうになっていた表情が、僅かに凍る。グレースは奥歯を噛み締めて学を見つめた。
 程度は知らなくとも、アランとグレースの間には身体の関係があると、学は承知している。それを前提に、いったいどんな話ができるというのか……。
 学と美春のように婚約者同士ならば、“恋愛話”として話せるだろうが、アランとグレースは表向きボスと秘書だ。
 根底にあるのは、恐怖と戦慄の中で結んだ主従関係。
 そんなものは口に出すどころか思い出したくもないというのに。

 葉山一族が情報系に強い事実を思い出し、グレースの額にジワリと汗が浮かんだ。
(まさかマナブは……、十七年前のことを知っているのでは……)

 疑い始めると止まらない。挙句の果てには、自分が蹂躙されている事実まで見透かされている錯覚に陥る。
 グレースはその思いを打ち切るためにも、大きく吐息しながら立ち上がった。
「それより……、もっと手っ取り早い方法があります……」
 そのまま学の前へと歩み寄ってきたグレース。彼女の動きをずっと目で追っていた学は、その視線が自分の前で下がった時、やっと内容の質問をした。
「どんな方法です?」
 グレースは学の前で両膝を着き、彼を見上げている。彼女の手は学の両膝に置かれ、彼の脚をゆっくりと開くと、その間に肩を入れた。
「分かり合わなくてはならないのが“男と女”なら、方法は簡単です。葉山専務はわたしのボスになる人ですから、“わたし”という人間を知ってもらわなくてはなりません……」
 学は無表情のままグレースを見つめた。彼の視線から瞳を逃がし、グレースは学のベルトに両手をかける。
「仕事面と同じように、……ミハルに引けを取らないくらい満足して頂けると思いますよ? 葉山専務」
 急ぎながら、だが確実に、彼女は彼のボトムを暴いていった。








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後書き
 こんにちは。玉紀直です。
 第10章スタートです。
 またしばらく、お付き合い下さいね。

 第9章は、応接室を出てからの美春を追いましたが、第10章は、美春が応接室を出てからの学とグレースから始まりました。
 美春のボディガードが柳原さんではちょっと……と思われてしまったかもしれませんが、学も言っていました、もし悲鳴が聞こえた時にドアに鍵がかかっていても、彼は突撃していくと。
 そう考えると、9章でちょっと柳原を馬鹿にしたアランは、逆に笑われちゃいますね。
 ですが、そんな話をしている場合ではないようです。
 グレースの行動が意味深過ぎますから。これは、学はどう対処するのでしょう……。

 ですが……。
 次回は美春側のお話になります。

 第10章も、宜しくお願い致します!

*10章スタートの活報を、朝のうちにあげます。
 いつものように戯言が多くはありますが、ご一読頂けますと幸いです。





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