理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第10章5(学の慰め)

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「学は、どうしてここにいたの?」
「ん?」
「私、先に帰ってもらった柳原さんにも、どこに行くとは言わなかったのよ? 社長の所を出てから、先に帰ってとは言ったけど……。学が柳原さんに、私が別行動になったって連絡を受けたんだとしても、どうしてここにいるって……」
 すると学は、ニッと笑って美春の頭を引き寄せ、彼女の耳の後ろで鼻を鳴らした。
「美春の匂いがしたんだーぁ。この、あまーくてイイ匂い」
「くっ、くすぐったいっ……」
 耳元でクスクスと笑いながら、学は傍らに置かれた美春のショルダーバッグをつつく。
「スマホ、入ってるだろ?」
「あ……」
「美春のスマホは、俺としか通信できないGPSが組み込まれているのを忘れたのか? どこへ逃げたって、すぐに分かるんだぞ?」
 学が美春のスマホに細工をして渡していることを当初は知らなかったが、春に一度スマホと故意に壊されたことがあり、その時にGPSの存在を知らされた。後に新しいものと取り換えてもらったが、仕様はそのままなのだ。
「……逃げないわよ……」
「ホントか?」
 彼の背に腕を回し、キュッと抱きつく。
「逃げたって……、学はすぐに見つけるもん……。学から逃げるなんて、きっと無理……」 

「よくできました。イイ子だ」
 抱き返され、頭をポンポンッと撫でられる。そのくすぐったさに口元がほころんだ時、学の手が左太腿を撫でていることに気付いた。
「こら、えっちっ」
「違うって。美春はやっぱり言いつけを守るイイ子だなって思ったんだ」
 “イイ子”と言われた理由はすぐに分かった。叩こうと構えていた平手を学の手に添えると、彼がゆっくりと捲るスカートの下から、先週貰ったガーターリングとナイフが姿を現す。
「俺の傍にいられない時は、絶対に身に着けていろって言ってたもんな。言い付けを守っているじゃないか。イイ子だ」

 会社を出る前、美春は鞄を取ってくると柳原を待たせ、更衣室でこのガーターリングを着けた。
 “親交”の場へ行くための身支度としては、いささか理にそぐわない準備ではあるが、学がアランを警戒してこれを渡したのだと分かっているので、「俺の傍にいられない時」の言葉に従って、一応用意したのだ。

「学の言いつけだもん。それに、……こんな物を持ち歩かなきゃならないのも、この一件が解決する時まででしょう?」
「ああ、そうだ」
 美春の不安を和らげるために肯定はするものの、この件の解決が難しい位置にあることを、学は確信している。
 だがそんな不安は口に出さず、彼は美春の肩に手を置いて身体を離し、彼女を見据えて質問を返した。
「さて、美春はどうして家へ戻ったんだ?」
 ピクリっと肩が震え、顔色が変わる。それだけで、美春にとって訊かれたくはない事柄なのだと察しがついた。
 ただでさえ動揺をしているこんな時に、無理に聞こうとするのは得策ではない。瞬時に察した学は、すぐに笑顔を見せ彼女を安心させる。
「――って、訊こうと思ったんだけど、取り敢えずは家へ帰って、シャワー浴びて着替えよう。メイクも直そうな」
「……あ、……うん……」
「甘いものでも食べて落ち着いてから行こうか。ちょうどコンビニの前だし、サッパリと水羊羹辺りで良いか?」
「うん。でも、水羊羹なら葉山家にあったような……」
「コンビニオリジナル買ってきてやるよ。好きだろ? 待ってろ」
 笑いながら車を降りコンビニへ歩いていく学を見送ると、美春はいつの間にかほころんでいる口元に気付いた。そのままシートに凭れ掛かり、ふうと吐息する。

 アランとエリの関係と、自分に降りかかった出生の疑惑を、学に話しても良いものだろうか。
 こんなこと口に出すのも嫌だが、胸に溜めたまま彼に隠し通せるとも思えない。黙っていても、すぐに知られてしまうような気さえする。
「学は……、信じられないほど勘が鋭いから……」
 ならばいっそ、話してしまった方が良いだろうか。もしかして学なら、この歪んだ事態に修正の手を入れられるかもしれない。

 聞きたくないとエリを拒絶して逃げ出してきたというのに、学にこの状況を打破する道標になって欲しいと願っている。
「馬鹿みたい……、私」
 自分を非難しても、美春はそれを望む自分を否定できない。未練がましいくらいに脳裏を支配するのは、突き付けられた嫌疑に悲哀する母の表情だ。
 あの顔をさせてしまったのは、自分なのに……。
「……お母さん……」

 また落ち込みそうになってしまった気持ちは、スマホの着信音に遮られる。こんな時間にかかってくるのは仕事関係だろう。美春はスマホを取り出し、相手を確認してハッと手を止めた。

 ――電話をかけてきたのは、グレースだったのだ。

 彼女は今どこにいるのだろう。学が美春を探しに出られたということは、学側の“親交”は終了していたということなのだろうとは思うが、まだ本社ビルの中にいるのだろうか。それとも、アランの元に帰っているのだろうか……。
 アランが近くにいるかもしれないと考えるだけで、電話に出ることが躊躇われる。このまま無視してしまおうかと、一瞬ずるい考えが頭をよぎった。だが、大切な仕事の要件である可能性もある。
 美春はスマホを耳に当てた。
 ふと、グレースの御機嫌が良いようなら、学とどんな話したのか訊いてみようかと思い立った……。








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