理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第10章6(お互いの親交結果)

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「いらっしゃいませ。おはようございます、葉山さん」
 コンビニに入ると、爽やかなクルーの声が学を迎えた。
 高級住宅街の入口に建てられているこのコンビニは、ほとんどの客が周辺住民だ。勤務が長いクルーなどは馴染みとなり、常連客が来ると親しげに名前を読んで接客してくれる。また、接客も客層に合わせ、“元気で素早く”より“明るく丁寧に”をメインとしているようだ。
 学も笑顔で「おはようございます」と返し、店の奥へと歩いていった。
 雑誌が並ぶ棚越しに外へ視線を向け、駐車場に一台だけ置かれたレクサスで目を留める。特に美春が追ってくる気配もないことを確認すると、彼は歩きながらスマホを取り出した。

 柳原から連絡を受けたのは、グレースが帰り、学が専務室へ戻った直後だった。
 美春がひとりでどこかへ行ってしまったということだったが、柳原は「先に帰っていてくれ」と言われたことよりも、美春が厳しい表情を蒼白にさせてアランの部屋から出てきたことに驚いているようだった。
 どうやら美春は、アランに動揺を誘う話をされたらしい。学はスマホのGPS機能を使い、美春が光野家へ向かったのだと知った。
 この状態で実家へ向かうということは、思いつく理由としてはひとつしかないではないか。
 アランがエリに花束を持って現れていることや、幼い美春に会いに来るほど親しかったのだという事実を踏まえて考えれば、過去に何かあったのだと考えるのが妥当だ。
 動揺した状態の美春から事情を聴くのは難しい。だが学は、状況を知るためにあらかじめ確認をしておいたことがある。
 美春を拾う前に、光野家のカーポートを確認したのだ。案の定、白いランサーがガレージから出され、出発の待機をしていた。
 白のランサーは一真の車だ。彼は家にいたのだ、何が起こったのか知っているだろう。

≪何があった?≫

 ひと言メールを打ち、返答を一真に託す。
 美春があんな状態になるほどの出来事だ、一真とて、例え冷静に振る舞っていたとしても内心戸惑いは感じているはずだ。
 時間の都合さえつけば、彼はすぐにでも電話なりメールなりをくれるだろう。一真からの連絡を心待ちに、学はメールを打つため店に入る口実とした、水羊羹を買いに向かった。


*****


『ミハル? 今どこにいるの?』
 グレースの声は妙に明るかった。弾んだ声とまではいかないが、いつもに比べると格段の差がある。
『会社にかけたら、まだ戻っていないと言われたわ。ホテルに戻ったら、あなたはとっくに戻ったというし。戻った、というより、あなた社長と話をしている途中で部屋を出てしまったんですって?』
「途中というか……、あれは」
 仕事放棄をしたように言われ、美春は反論しようとしたが、内容がどうだったにしろアランと話している最中に部屋を出てしまったのは間違いがない。
「ごめんなさい……、どうしても確認したいことがあって……」
『“親交”とはいえ、仕事であることは理解している? 社長は、まだあなたとこれからの仕事についての話もできていなかったと言っているのよ?』
「ごめんなさい……会社に戻ったら、改めて社長にお詫びの電話をします……」
 笑ったのか呆れたのか判断しかねる溜息が聞こえ、美春の声は徐々に小さくなった。
 
 アランの元へ行った時、彼は美春のことを色々と聞きたがっていた。だが、契約の条件として出された事柄について話がしたいと、“親交”以外の話題を出してしまったのは美春だ。
 秘書交換をしたがっている理由などを追及しなければ、エリとアランの過去にまで話が及ぶこともなかった。
 ホテルに戻ったグレースは、アランから“親交”の顛末を聞いている。自分の感情で仕事を投げ出した美春を、責めているのだろう。

 グレースは、美春がアランの娘であるという可能性を知っているのだろうか。
 幼馴染で、そのうえ彼の理解者としてずっと傍にいるのなら、日本での出来事も彼女は知っているのかもしれない。
 だとしたら、グレースはどんな思いで美春を見ていたのだろう……。

『とにかく、もう一度来て。あなたの仕事は終わっていない。社長だって、今日話したいことが沢山あったのよ』
「もう一度?」
『投げ出したのはミハルだわ。気に入らない話をされたからといって、勝手に場を離れて行くのは、相手に失礼だとは思わない?』
「それは……」
 グレースが言う通りだ。気追っていたのは確かだが、すぐにあの場で話題にするのは間違っていたのかもしれない。アランの元へ行ったのを、仕事と捉えるなら尚更だ。

 美春はチラリとコンビニへ目を向けた。学が出てくる気配はないが、これから身支度を整えてアランの元を訪れるとすれば、午前どころか午後の仕事まで潰してしまいそうだ。
「……明日改めて、という形にしてもらえませんか? ……今日は、仕事が詰まっていて……。専務にも、相談しなくてはならないし……」
『マナブに? それならわたしが話してあげるわ』
 美春は次の言葉が出て来なかった。学の話を出した途端、グレースの声が嬉々として跳ね上がったからだ。
『マナブは? そこにいるんでしょう? 出してくれる? 大丈夫よ、わたしに任せて』
 今まで彼女は、学を「専務」や「葉山専務」と呼んでいた。
 親しげな雰囲気とこの自信は何だろう。
 ほんの数時間前の“親交”の結果だとでもいうのか。

「グレースさんは……、専務とどんなお話をされたんですか?」
 自然と口から出ていた。こんな親しげな態度を取るのならば、よほど学とグレースの“親交”は上手くいったのだろう。何か共通の話題でもあったのだろうか。グレースのこんなに楽しげな声は初めて聞く。

『“話し”はしていないわ』
 グレースは、楽しそうに現実を告げる――――。








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