理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第11章1(爽やか系の攻防戦)

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「光野さんの弟さんなんですかー、そうなんですかーっ」
 彼は感動口調も爽やかだ。
(……信兄さんに似てる……)
 一真の、須賀に対する第一印象は、流石なほど姉の美春と同じだ。
「まさかここで会えるとは思わなかった。お姉さんにはいつもお世話になってます」
 がっしりと一真の両手を握手よろしく掴み、挨拶代りに上下しながら、偶然にも専務室でかち合った憧れの人の弟に、須賀は満面の笑みだ。
 つい懐いてしまいたくなるこんな笑顔を見せられた日には、美春辺りならばお菓子のひとつでも差し出して、思わず餌付けをしたくなるだろう。だがしかし、ここはやはり一真だ。彼はほんわりと微笑み、須賀の天然をかわす。
「いいえ、こちらこそ。きっと姉が随分とお世話になっていることと思います。須賀さんですよね? 存じていますよ。これからも姉を。宜しくお願い致します」
 例え年上であろうと、一真の策略的な笑顔攻勢に敵はいない……。

 自己紹介もしていないのに名前を知っていたこと、何といっても美春の弟から物柔らかい対応を受けたことに、須賀は感動を覚える。
 ――実際は、専務室へ入る際、「専務、須賀です。入ります」と挨拶していた名前を覚えていた一真が、それを口に出しただけなのだが……。

 そして、相変わらず頼もしいほどの根回しを見せてくれる一真と、すっかり丸め込まれている須賀を面白そうにデスクから眺めているのは、傍観者を決め込む学だ。
 会社にまで訪ねてきて話を聞かせてくれた一真が帰ろうと席を立った時、外出から戻り次第専務室へ来るようにと伝言されていた須賀がやってきた。一真の姿を見て「お客さまでしたか」と引こうとしたのだが、「私の義弟ですよ」と学に聞かされ、美春の弟であると悟ったのだ。
 そうと分かればただで引くはずもなく、ふたりは感動の初対面とあいまったのだ。

 一真が学を訪ね直接話したかったのは、美春とエリの件だ。
 あの時、美春と一真は本当の意味で姉弟なのだと、一真はエリの口からハッキリと聞きたかった。
 だがエリは「私は、そう信じている」と言ったに留まってしまったのだ。
 母が父を裏切る気持ちを持つ可能性など、万が一にもないと一真は信じている。何があっても美春を信じる気持ちと同じく、何を聞かされても母を信じたかった。

 学に騒動の経過を話し、「分かった心配するな」と力強い言葉をもらった一真は、更に須賀から心強い言葉をもらう。
「光野さんの弟さんかぁ。光野室長に良く似てますね。いや、笑った表情がお姉さんにそっくりだ」
 一真は一瞬目を見開く。そして徐々に、口元が和み始めた。
「姉と、似ていますか?」
「ええ、笑顔を見ていたらホッとします。優しそうな目元なんてそっくりだ」
 何気ない本心ではあるが、こんな時だからこそ、一真の胸に「似ている」という言葉が響く。不覚にも目頭が熱くなってしまいそうになるのを抑えるため、彼はわざと明るい声で学を振り返った。
「学兄さん、僕、お父さんに会っていこうと思うんだけど、会えるかな?」
 急に話を振られたが、学は内線用の受話器を取り上げ笑顔を見せた。
「ああ、室長室に連絡を取ってやるよ。お父さんは、今朝は普通に家を出たのか?」
「え? だって、父さん研究室に泊ってるんでしょう? 一度着替えを取りに来たけど家には戻っていなくてさ、僕、金曜の朝から顔を見てないんだ。何か、大変な研究の詰めとかなの?」
 内線を押そうとした指が一瞬止まる。学の中で何かの予感が動いたが、彼はすぐに受話器を耳に当て、ニヤリと笑って見せた。
「ああ、葉山製薬を潰しかねない、大きな敵と戦ってくれているんだよ」

 その意味は良く分からなくとも、父がとても大切な仕事をしているのだということは分かる。
 大介が室長室にいると確認をしてもらった一真は、もう一度須賀と握手を交わし、専務室を出ていった。
 閉まったドアを眺め、須賀はハアッと感嘆の溜息をつく。
「良い子ですねぇ……。大学生の弟さんがいるって聞いたことはありましたけど、光野さんと同じでとっても雰囲気の良い子だ」
「まぁそれが、彼の最大の武器だからね」
「は?」
「大学を卒業したら入社予定だよ。その時はよろしくしてあげてください。……あっ、ただ、結構なシスコンなので、彼の前であまり美春にベタベタしないほうがいいかな」
 一番ベタベタしている人間に、「ベタベタしないほうがいい」と言われてしまうと微妙な気持ちになる。須賀は半分苦笑いで学のデスクへ歩み寄った。
「あんな綺麗なお姉さんがいたら、シスコンにもなりますよ。仲良いんだ、羨ましいなぁ。じゃぁ、何年後かには社内でふたり並んでいる姿が見られるんですね。楽しみだな」
 言葉だけではなく本心から楽しそうな須賀を眺め、学は内心ほくそ笑む。
 そのうちに須賀の感想は、羨望の「羨ましい」から、驚嘆の「羨ましい」に変わるだろう。一真のシスコンと美春のブラコンが結託した姿は強力だ。この学でさえ、幼い頃はそのお陰でどれだけ苦汁を舐めたことか……。

「さて、仕事に入りましょう」
 過去の笑い話を理性の奥へ片付けると、学は立ち上がり椅子の背をポンポンッと叩きながら、その横に立った。
「ちょっと、ここに座って」
「は?」
「ほら、早く」
「は、はい……」
 いきなり専務の椅子に座れと言われても限りなく焦ってしまうが、須賀は言われた通りに、一生かかっても腰かけられないであろう席に腰を下ろす。
 うろたえながらも座り心地の良さに力が抜けそうになる。しかし、目の前に置かれたノートパソコンの画面が、彼に脱力を許さなかった。
「仕事だよ。須賀さん」
 不敵な声が頭上から降り注ぐ。その声から学が今どんな表情をしているかまで、須賀には想像できた。
 彼の目の前には、侵入者を拒むパスワードの入力画面がある。
「……何分、くれます?」
 両手をキーボードに添え、今までとは違う重い声が学に問う。そんな須賀の横で司令者の指が広げられた。
「五分」
 だが、その指定に、須賀は彼らしくない表情で口角を上げたのだ。
「三分で、充分です」
 返答と共に、指がキーボードへ吸い込まれていった。








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後書き
 こんにちは。玉紀直です。
 第11章、スタートしました。

 爽やかクン同士(笑)の御対面から始まりました。
 何というか、数年後に一真が入社した暁には、須賀は思いっきりいじられそうな雰囲気ですよね。^^;
 
 さて、光野家での一件は一真に聞いて学が知るところとなりましたが、須賀を呼び出して彼がしようとしていることは何なのでしょう。
 それを明かす前に、次回からは美春側のお話になります。

 ではまたしばらくお付き合いくださいね。
 宜しくお願い致します。




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