理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第11章2(アランの弟)

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「そうか、ミハルは随分と弟と仲が良いんだな」
 彼が声を上げて笑う姿は、とても楽しそうで屈託がない。
 それは、甲斐甲斐しくアランの世話をするグレースが、思わず手を止めて見惚れてしまうほどだ。
 だがそんな笑顔を見せるのも美春と話をしているからなのだと思い立ち、彼女は寂しげに仕事を再開する。
「アランも弟さんがいるじゃないですか。ロシュティスの副社長は弟さんでしょう?」
 同じソファに座り身体を傾け合いながら、美春は小首を傾げて笑顔を見せる。身体ふたつ分離れているとはいえ、美春と差し向かいでプライベートの話が出来ること、そして何より彼女が「社長」ではなく「アラン」と呼んでくれることが、彼をご機嫌にしている最大の理由だろう。
「まぁ、一応ね。ただ、性格的にあまり合わないので仲が良いとは言い難いな。僕は直感で奔放に動くが、弟は慎重で真面目すぎる……」
 
 控え目に副社長との不仲を口にし、アランはチラリとグレースを盗み見る。
 さっきまで、グラスの水滴を拭いたりフルーツを切り分けてくれたりと、当然のように世話を焼いてくれていた彼女は、午前中の会議で副社長のレインが送ってきた資料を簡易デスクでまとめている。そこには、いつもと変わらぬスッと伸びた背中と、キーボードを叩く手元だけが窺える後ろ姿があった。
 アランに従順さを見せながらも、グレースはレインにアランの行動を報告している事実がある。
 アランにもう二度と昔のような過ちを起こさせぬよう考えたレインがグレースに報告を義務付けているようだが、それを隠しもしないところが逆に牽制されているようで、アランの癇に障るのだ。
 美春との話で不仲をほのめかしたことも報告するのだろうか……。どこか捻ねた感情が湧き上がり、アランはフンッと鼻白んだ。

 美春がアランの元を訪れてから、“緊急会議を待つ間に”と借りたシャワーではあったが、朝から色々な出来事に襲われ過ぎて混沌としていた頭と身体に、新鮮な飛沫はとても気持ちが良く安らいだ。
 ついつい長く時間を使ってしまい、待つどころか待たせてしまったのではないかと心配をしたほどだ。
 だがそれは杞憂に終わり、アランの緊急会議はグレースに勧められた化粧品でメイクが終わっても、緊急でホテルクリーニングに出した美春の服が二時間余りで戻って来ても、まだ終わる気配を見せなかったのだ。
 これならば出直してきた方が良いのではないかと諦めをつけかかった時、やっと会議が終わり、昼食に誘われた。
 すっかりアラン側のペースにされてしまっている。聞きたいことのひとつも訊けてはいないというのに、これでは丸一日かかってしまうではないか。不安を抱いた美春だったが、そんな彼女にグレースが告げたのだ。
 「マナブにはわたしから連絡しておくわ。今回はミハルとシッカリ話をすることがアランの希望なの。これは契約条件にも大きく関わることよ、分かるでしょう?」
 ――契約条件という言葉を出されては、言い返す術はない。

 クローゼットに保管を勧められても、美春は食事のテーブルとソファの間を移動する時でさえ、ショルダーバッグを離さなかった。
 この中には、学が美春の存在を知るために持たされたスマホが入っている。
 いつも学が見守ってくれている。
 その感覚を、身体から失いたくはなかった。

 昼食を終えてソファに移動してから、やっと気楽に話が出来るようにはなったが、今のところ家族や幼い頃の話など、当たり障りのないプライベートの話題ばかりだ。

(学……、心配してるかな……。今日は丸一日潰れちゃいそう。代行は誰がやってるんだろう、柵矢室長かな……)
 軽い親交のはずだったが、そうもいかなくなってしまった。それはアランの元を再訪問した時から予感はしていたのだ。美春は半ば諦め気味に話を進め、仕事の話題へ誘導した。
「でも、副社長は真面目で誠実な方でした。こちらの成果を良いほうに認めてくださって、専務にも目をかけてくださって……」
 本心ではあるが、不仲を臭わすアランには少々嫌味に聞こえてしまうだろうか。美春が言葉を止めると、膝に乗せられていた彼女の両手を、アランがそっと取り上げた。
「ミハル……」
 両手で美春の手を包み込み、自分の胸に当てて、遣る瀬無さにブラウンの瞳を翳らせる。
「ミハルは、恨んでいるんだろうね。……昨年、途中で僕が担当を代わり、進んでいた話を全て白紙に戻したことを」

 ヘタな返答はできないが、少しでも恨まなかったと言えば嘘になる。
 レイン副社長との交渉で、話はほぼ決定的に良いところまで来ていたのだ。もしもあのままであったなら、もしかして学と美春は既に結婚をしていたかもしれない。
 担当がアランに代って、進んでいたもの全てを白紙に戻されたお陰で一から仕切り直しとなったのだから。

「ミハルが葉山製薬にいると知って、ミハルを知る時間が欲しかった。……どんな女性に育ったのか、どんな性格なのか……。実際に会ってみて、それは想像以上だった。……信じて欲しいのは、決して嫌がらせのつもりで白紙に戻したわけではないということだ」
「それは……」
「葉山製薬との提携は、白紙に戻しても最初から念頭には置いていた。君を困らせるつもりはなかった。さっきも言ったが、ミハルを知る時間が欲しかったんだ……。ただそのせいで、同じ苦労をさせて悪かった……」
 アランは片手で美春の手を握ったまま、もう一方の手で彼女の頬を撫でる。
「本物の君を見た時は夢のようだった。こんなにも美しいレディになっていて……、どれだけ嬉しかったか……」
 感動さえ悟らせる様子は、逆に美春の胸を締めつける。
 母に似ているから嬉しいのでしょうと出そうになる言葉を呑みこみ、唇をキュッと結んだ。

 それを言ってしまっては朝の繰り返しだ。
 そんな嫌味を言いたいのではない。
 美春は、真相を聞きたいのだ。








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