理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第11章6(心と身体の所有者)*R凌レ

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『社長に、押し倒されたりしていないか?』
 学らしい質問に、思わず美春の口元もほころぶ。
「馬鹿ね。そんなおかしなことをされるわけがないでしょう?」
 クスリと笑って顔を上げると、立ったまま腕を組んで美春を眺めているアランと視線が合う。慌てて目を逸らし、学の承諾をもらって通話を終わらせた。

 本来の目的を確認したい気持ちも大きいが、例のデーターをもう少し見ていたい気持ちもある。
 閲覧を続けるにしても、スマホだけは手元に置いておこうと持ったまま踵を返すが、いきなりアランがそれを取り上げた。
「これはバッグに戻しておきなさい。傍に置いていたら気が逸れる」
「返して……!」
 慌てて取り返そうとした手を掴まれ、美春はアランの腕に抱き込まれた。すぐに離れようともがくが、彼の腕はほどけない。
「はな……、離して……っ」
「マナブはここにいることを許してくれたようだけど、最後は何を話したの? 『おかしなこと』って何の話だい?」
「それは……」
「ああ、そうか、“こういうこと”か」
 ふわりと身体が浮く。考える間も与えられないまま、美春はアランの腕に抱かれたままソファに倒された。

「アラ……ンっ……!」
「“こういうこと”をされていないか訊かれたんだろう? 『そんなことされるわけがない』って、僕を庇ってくれたのかい?」
「ちが……、離して……」
 身体を捩りもがくが、アランの身体は動く気配を見せない。顔が近づき重なりそうになる唇を避けるために大きく顔を逸らす。だがその代わりのように差し出された耳を食まれ、ビクリと両肩を竦めた。
「優しいね、ミハル。僕を信用してくれているんだ? 嬉しいけれど、男としては残念だ」
「アラン、やめて……、ふざけないで……」
「ふざけてなんかいないよ。反対に怒ってるんだ。何度もアプローチをしているのに、僕をすっかり“安全な男”にしてしまって、ひとりの男として見てくれない」
 圧し掛かる身体は美春の身動きを許さない。逃れようと動けば動くほど、美春の身体はアランに密着し、その温かさと柔らかさを伝えてしまう。
「まるで煽られているようだな……。秘書交換が正式に済むまで手は付けないつもりだったんだけど……。どうしようか」
 横を向いたまま頭を押さえられ、湿った吐息が耳孔に吹き込まれる。馴染のない硬い手が、肩口から鎖骨の下をジッとりと撫でまわした。
「やめて、アラン……、私は、私は仕事の一環で来ているのに……、こんなのおかしいでしょう」
「おかしくはない。立派な“親交”だ。考えてもごらん。ミハルは僕の秘書であり妻になる。いずれはセックスで快楽を与えあう関係になる。その始まりが、今でも後でも、さほど変わりはない」
「アラン!」
「グレースは上手く“親交”を務めあげてきたのに。ミハルだって“仕事”をしに来たんだろう?」
 肩を捻って動けるだけの抵抗を見せていた美春だが、ハッと動きを止めた。頭を押さえられているのでグレースを視界に入れることはできないが、彼女は同じ部屋にいるのだ。アランがグレースではない女を組みふせているこの姿を見ているはずではないのか。
(何とも思わないの……? アランが自分じゃない女性を抱こうとしても……)

「こんなの……、仕事じゃなぃ……」
 圧し掛かる身体を押しのけようと手に力を入れるが、その抵抗さえも一笑に付された。
「可愛いね。小動物を見ているようだ。こんなに抵抗をする女は初めてだな。かえって面白い」
「アラン……!」
「マナブに遠慮をしている? 彼だって、将来のために実りある“親交”を持ったのに。ミハルが遠慮をする必要はない」
「私は……、そんなの信じない……、あっ!」
 無駄な抵抗を可愛らしく感じるのも僅かな時間。少々煩わしくなったのか、アランは美春の両手首を片手で強く掴み、彼女の頭上で押さえ付けた。
 指が器用にブラウスのボタンを外し始めると、今まで押さえられていた頭がやっと動く。アランの背後にグレースが近づいてきた姿が視界に入り、彼女がひと言注意をしてくれるのではないかと期待をしたが、それは無理だとすぐに分かった。
「……ベッドルームを使いますか?」
 グレースはいつものポーカーフェイスで、冷静に言い放ったのだ。
「いいや、ここでいい。取り敢えず、これから自分が誰のものになるのかを教えるだけだ。ベッドは、今度ゆっくり使うさ」
「私は、部屋を出たほうが良いですか?」
「ここにいるといい。そのほうが、お前も刺激になるだろう?」
「分かりました」
 グレースは事務的な返事をして、ソファの向かい側に置かれた椅子に腰を下ろした。

 美春には信じられない。そして彼女の気持ちが分からなかった。
 何故平気なのだろう。アランが他の女を抱こうとしている姿を見て、何故冷静に彼の命令を利こうとするのだろう。
 この頑ななまでに服従する姿勢は、彼女の心のどこから来ているのだろう。

 それでも、このポーカーフェイスを支えるブラウンの瞳が、憂いで揺らぎ見えるのだ。
 それは、彼女の心にはアランが特別な存在として映っているのだと信じたい、美春の願望から来る錯覚なのだろうか。 

「今、そしてこれから、美春の心も身体も誰のものになるのか、しっかりと教えてやろう」
 アランの片膝が美春の片脚を掬う。無防備に開かされた脚の間に、ブラウスを暴き終えた手が伸びてきた。
「……教えることなんてできないわ……」
 グレースを見ていた美春は、締め付けられ始めた心のままに、アランを仰ぎ柳眉を逆立てる。
「例えここでアランに抱かれたって……、心まではあげない! 私の心は、身体中の愛情も全て、学だけのものだから……!」

 アランの記憶がフラッシュバックする。
 彼は手を止め、見開いた目で美春を凝視した。

 ――――しかし、彼よりも驚いていたのは、グレースだったのだ……。








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