理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第12章2(形勢逆転からの反撃)

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「……きゃっ!」
 息苦しいほどの緊迫感を見せていたアランとエリ。しかし返って来るべき答えにばかり気を取られていたエリの隙をついたアランが、彼女の足を払い転倒させてしまったことで、ふたりの形勢は逆転した。
 手で支える間もなく横転してしまったエリを、アランが押さえ付け圧し掛かる。転んだ拍子にナイフは手から離れ、身体を伸ばして取ろうとした手はすぐに掴まれた。
「まさかエリが、こんな手のかかる馬鹿なことをするとは思わなかった」

 緊張から解放され、アランは憎々しげに大きく吐息する。手のひらが鬱血して赤くなってしまうほどの力でエリの手首を掴み、彼女に馬乗りになった。
「さぁ、どうしようか。せっかく飛び込んできてくれたんだ、少し楽しんでいくかい? 博士は今でも帰ってこないことが多いの? エリもあの頃とは違うんだ、魅力的な人妻らしい“大人の態度”を見せてくれよ」
 自分の想いに応えてくれなかった過去のエリを、アランは嘲笑う。この体勢からエリがさっきまでのような凶行に出ることなど不可能だ。彼女はただ、無駄な抵抗にしかならない許しを乞うことしか出来ないだろうという確信が、アランにはあった。
 しかし、そんな彼を、エリは怯むことなく睨み上げたのだ。
「レイプしたいならすればいいわ、“あの日”みたいに! それで昔の未練が晴れるなら! でも、美春は返してもらうわ。アランの股間を食い千切って動けなくしてでも、美春は連れて帰る!」

 聞くに堪えない言葉が飛び出す中、クローゼットの扉が壊れんばかりに大きく開かれた。
「お母さん!」
 飛び出してきたのは美春だった。彼女は駆け寄りながらガーターリングからナイフを抜き、親指でストッパーを外して、身体の横でエッジを振り出しセットする。
 そのタイミングと、アランの後ろに回り彼の首に腕を回したのが同時だった。
「お母さんから離れて。それ以上をしようとするなら、今度こそこの刃を横に引くわよ!」

 セットしたナイフは、アランの顎の下へと当てられる。その気迫に、彼はエリから手を離した。
 アランがゆっくりと立ち上がり始めると、美春は腕を離し、上半身を起こしかけているエリの傍らへ回る。
「お母さん、……お母さん、大丈夫?」
「美春……」
 背を支えられながら身体を起こし、いつもの微笑みを向けてくれるエリを見て、美春はホッとしつつも再び涙が溢れた。
 この頬笑みを、もう二度と自分には向けてもらえないのではないだろうかという不安を、心のどこかで持っていたせいだろう。

 母に抱きついて泣いてしまいたかった。しかし、美春は柳眉を逆立てアランを睨み上げると、手にしていたナイフを彼に差し向けたのだ。
「やっと分かったわ……。そうよ、お母さんがお父さんを裏切るはずなんてないの……。アラン、あなた、無理矢理お母さんに身体の関係を強いたのね! それだもの……、お母さんがあなたと何かあったのかなんて、自分からハッキリと口になんかできないはずだわ!」
 エリがアランに対して切った啖呵を聞いて、美春は悟ったのだ。
 アランが美春の父親である可能性を、アランとの関係を、エリがハッキリと説明できなかったのはレイプされたうえでの関係であるからだ。
 レイプの結果として宿してしまった子どもである可能性を、どうして口にできようか。
「信じられない……。いくらお母さんが好きだったからって……。そんな、……卑怯よ、軽蔑するわ!」

 落としたナイフを拾ったエリが立ち上がるまで、美春はアランにナイフを向け続けた。
 ナイフの刃先は鋭く、見ているだけで切り刻まれてしまいそうな恐怖に陥る。
 だが、今のアランには、美春の鋭い視線と、大切なもののために心を決めたエリの瞳のほうが、見ていて恐怖を感じるものだった。
「……今日ナイフを突き付けられるのは三回目だな……」 
 アランは溜息をつき、寄り添う母娘を見つめる。そして両手を肩の高さに上げ、首を横に振って美春に笑いかけた。
「ナイフを仕舞ってくれ、ミハル。そうしたら、本当のことを教えよう」
「本当のこと?」
「僕が、エリをレイプしたのだと思われている日の……“事実”だよ」

 美春はチラリとエリの様子を窺い、ナイフを下げた。だがブレードは畳まないまま、ギュッとエッジを握る。
 何を知らされるのかと不安の色を隠せないエリに視線を向け、アランは口を開いた。
「覚えている? エリ、“あの日”……、僕が君を、無理矢理にでも抱こうとした時のこと」
「ええ……」
「あの時君は、逃げようとして壁に頭を打ちつけたまま、失神してしまっただろう? その後、何があったか分かるかい?」
「……失神している私を、抱いたのではないの?」
 アランは美春を見て苦笑いを漏らす。そして諦めを溜息に込めた。
「――抱いてはいない。……君にワンピースをかけて、僕は帰った……。“レイプした”は、濡れ衣だよ」

 目を見開き驚きを表すエリではあったが、心のわだかまりがスッと抜けていく感覚に襲われたのも確かだ。
 心の奥底に影を落とし続けていた不安。一度でも、例え不可効力でも、大介以外の男性に抱かれたことがあるのではないかという疑心。
 それが今、解明されたのだ。
 最も望むべき結果を連れて。

「気絶していてもいい。エリを僕のものにしてしまおうと思った……。けれど君は、意識を失う前に呼んだんだよ……、『大介……』って……」
 アランは、思い出したくないものを無理矢理記憶の奥から引っ張り出す苦痛に、刹那、頬を歪めた。
 それでも彼は、その記憶を晒したのだ……。







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