理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第12章8(“美春”補充中)

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「どうしても訊きたいと思ってたこと、忘れてたんだけどっ」
 思い出したように美春がそう切り出したのは、一日の仕事も終わりに近い終業間近。学の膝の上だった。
「ん? 何だ? 何が聞きたい? 残業もそんなにガッチリやる予定はないから、食事の手配はいらないぞ。分かってると思うけど、俺が今食べたいのは美春だし、今“残業分の気力”をもらったら、一気に仕事を片付けるから」
 専務室のデスクで椅子に深く腰掛けた学は、膝の上に美春を乗せて御機嫌だ。彼女の顎の下からうなじを撫で回す様は、まるで猫でも愛でているかのよう。彼は今、これから始める残業分の気力を美春から補充中なのだ。

 今日の美春は、ボスの言いつけ通りデスクワークも専務室でやっていたので、ほぼ一日中学の傍にいる形となった。
 「仕事の分は会社に行ってから」の言葉通り、彼は要所要所で美春から気力をもらって行く。お陰で何度口紅を塗り直したか分からない。過度の美春不足なら、いっそ昼休みにでもガッチリ美春を感じて充電してしまえば良かったのかもしれないが、こんな日に限って来客が重なり、彼女を感じようとする時間など取れるものではない。
 終業間近、もちろん残業は必至。ほどほどに目処を付け、さくらの病院へ寄ってから夜のデートを堪能しなくては、明日もこの調子では美春も敵わないだろう。
 いや、学本人も切ないところだ。

 学の肩から腕を回し、首の後ろで指を組むと、美春は彼の顔を覗き込み小首を傾げた。
「昨日からずっと訊きたかったのに、チャンスがなくて忘れてたわ。アレって本当なの? グレースさんに聞いたんだけど……」
「グレース?」
「うん、“親交”の話」
 ああそういえばと言わんばかりに学が頷く。美春が聞きたがっている事柄に見当はついたのだろうが、それには答えず、彼からは逆に質問が出された。
「それより、俺も訊きたかったんだけど、俺の浮気疑惑は解けたのか?」
 答える代わりに、美春はチュッと音をさせて可愛らしいキスを学の唇に施す。自分の勘違いを恥じるよう気まずそうにはにかむと、額をコツンッとつけて学を見つめた。
「ごめんね。疑って」
「昨日はしょうがなかったんだ。分かってもらえたのなら、もういいよ」
「……じゃぁ、私の質問なんだけど……」
「うん」
「あの、……グレースさんに言ったことって本当? 学が……その……」
「うん?」
「私にしか……って……」
「俺が美春が相手じゃないと勃たないから、美春以外とはセックスもできない不甲斐ない男なんだって言ったところか?」

 分かっているなら焦らさないで欲しい。嬉しい言葉ではあるが、確認をとるには少々恥ずかしいのだ。
「本当に決まってるだろ。馬鹿だな、今更何を確認してるんだ?」
 ハハハと笑って両手で髪を撫でる学は、美春の戸惑いまで分かってくれてはいるのだろうか。彼は至って気楽なものだ。
「……大袈裟に言っただけじゃないの?」
「信用してないの?」
「私としかエッチできないっていうのは、私だって学以外の人となんてするつもりも考えたこともないから、言ってもおかしくないけど……。グレースさんを納得させるためとはいえ、……た、勃たない、……まで言わなくても……」
「でも本当のことだからしょうがないだろう? 俺、美春を思い浮かべるか美春に触ってもらわないと勃たないぞ。なんなら証拠見るか?」
「どうやってみるのよっ、アホっ。……だって、学さぁ……」
 突飛な提案に反論するものの、美春は言葉が止まってしまう。言わずともその意味を悟った学は、苦笑して額をコンコンッとぶつけた。
「俺の身体はね、念願だった美春を抱けるようになって“美春”を覚えてから、“美春”しか受け付けなくなったんだよ。考えようによっては、可哀相だろう? “美春”がいないと、俺は自分の身体もコントロールできないってことだ。美春がいないと、男としても駄目になるってことなんだぞ。――分かってんのか、こら」

 じわりっと目頭が熱くなる感覚が、美春を襲う。
 またしても学の言葉を疑おうとした自分が疎ましい。
 美春と恋人同士になる前の学は、名うてのプレイボーイだった時期がある。そんな昔のことを盾に取る気はないのに、少しだけそれを思い出してしまったのだ。

「ごめんね……、学」
 しおらしい声が非を認め、唇が謝罪の意味を込めて学の唇をつつく。
「でも、私の身体も学しか受け付けないんだよ。……知ってるよね?」
 謝る唇を受け入れて、今度は学が彼女の上唇を食む。その唇が微かに笑むと、「当たり前だ」と吐息が囁いた。

 残業の気力をもらうだけだった予定の“美春補充”は、それ以上を求め合いそうな予感を孕みながら、唇付けを深くしていく。
 早めに残業の目処をつけ、わらび餅を手土産にさくらの様子を見に行き、その後食事をして、そして……。
 そんな予定をシッカリ立てているというのに、お互いしか求めない求めたくない気持ちが、早々に欲し始めてしまった感がある。そしてふたりとも、それを自分の中で認識しているが、止めようと思わない。

 学はキスをしたまま美春をデスクに座らせると、パソコンと書類を脇へ押しやる。唇を吸い合い、お互い昂ってきたのかその音が激しくなると、美春の両手は学の頭を抱き、彼の手は彼女のボディラインをなぞり始めた。
「ぁ……ふ……っ」
 激しいキスに喉を逸らし呻きが漏れるが、すぐに唇は強く塞がれ、美春はゆっくりとデスクへ倒される。

「学……ダメ……、仕事……」
「予定変更しようか」
「あと、一、二時間、我慢して……」
 大きく吸いこむ息と共に、更に大きく盛り上がる隆起。学は柔らかな膨らみを掴み、ゆっくりと円を描く。「我慢して」と制止をした唇から、吸った分の息が艶めかしい吐息となって彼を煽り、椅子に乗せていた美春の脚は、学の脚に絡み付いた。
「……やっぱり変更しよう。……今すぐ、美春が欲しい……」
 求められる喜びに全身が粟立つ。「私も」と呟く唇を濡らし、熱情のままにブラウスが開かれようとした時……。

 鍵をかけていない専務室のドアに、ノックの音が響いた。
「専務、櫻井です。光野秘書に頼まれていたスケジュール調整の件で……」

 ――――仕事上は好都合だが、ふたりにとっては、何とも間の悪い展開だ……。 
 






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