「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛・企画SS集

●『大好きなあなたの誕生日に結ぶ幸せの約束』(学バースディSS)

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「まなぶ、おたんじょう日、おめでとう」
 小さく可愛らしい手から差し出されたのは、オレンジ色がとても鮮やかな君子蘭(くんしらん)。
 シッカリとした長く硬い葉が孔雀の羽根のように広がり、茎の先に綺麗な花を沢山つけている。
 その姿は、美しいながら凛々しく高貴で、見た瞬間学を思い出した。
 それで美春は、四月十四日、大好きな学が五歳になる誕生日に、この花を選んだのだ。
「君子蘭はね、“誠実”とか、“情が深い”とか、そんな花言葉があるのよ。学くんにピッタリね。美春、良い花を選んだね」
 母のエリが微笑んで頭を撫でてくれた時、美春はとても嬉しくなった。

「クリビアだね、有難う、美春!」
 葉山邸の大きな客間で行われていた学の誕生日パーティーで、彼はとても嬉しそうに花を受け取ってくれた。
(クリビア、って、いうんだ?)
 別名を知り、ちょっとだけ賢くなったような感覚が、年上の学に近付けたような気分にさせてくれる。同じ幼稚園年中さんになったのだとはいえ、早生まれの美春は三月に四歳になったばかり。実質的には学よりひとつ年下なのだ。

(良かった、よろこんでくれたぁ)
 学の反応にホッとしながらも、美春は少しだけ不安になる。
(ホントに、お花で良かったのかな……)
 学の元には、沢山の誕生日プレゼントが届けられていた。それは、幼稚園のお友達が手作りしてくれた小さな飾りから、父親の会社関係で届けられる大きな包み、親戚から贈られたものなど様々だ。
 色々な大きさ、色々な種類の誕生日プレゼント。
(まなぶは、ほんとうは何がほしかったんだろう?)
 美春だって、お誕生日に、欲しかったぬいぐるみやオモチャを買ってもらえると嬉しい。学も、眺めるだけの花などではなく、美春が読めないような難しい本や、ゲームのような物のほうが嬉しかったのではないか。
 だが美春はまだ小さくて、そんな高価なプレゼントはできない。おまけに本やゲームは、趣味的にも種類が多すぎてよく分からない。
(学が、本当によろこんでくれることって、何だろう……)

 眉を寄せ、口をへの字に悩んだ美春は、少し考え込みふっと思いつく。「そうだ」と思い付いた頭が横へ傾き、ふわりと柔らかいツインテールが彼女の頬をくすぐった。
「んふ……」
 そのくすぐったさに笑ったのか、思い付いた“プレゼント”に嬉しくなったのか、美春の表情は、春の陽だまりのような温かいものに変わったのだ。 

*****

「学っ、こっちきて、こっちっ」
 美春に「こっちに来て」と言われて、行かない学ではない。
 パーティの後、ふたりは学の部屋で余ったケーキを食べながら、ふたりだけのプチ二次会中だ。
 学はプレゼントの中にあった数枚のDVDを物色中で、何を観ようかと頭を悩ませていたところだった。決まりかかってはいたのだが、美春の可愛らしい声に呼ばれたとあってはDVDなど二の次だ。
「何? 美春」
 学が美春を振り返ると、彼女は絨毯の上にぺったりと座ったまま、膝をパンパンっと叩いている。
「早く、ここ、ここ」
「え?」
 小首を傾げ、美春の前へ座る。足を揃えて横へ崩している美春とは対照的に、彼は正座だ。
「ちがうぅ、ここに、頭のっけて」
「え?」
 再びパンパンっと叩かれる美春の膝。学は目をぱちくりとさせてそこへ視線を落とす。薄いピンクのフリルが沢山付いたスカートから覗く膝は、白くてふわりと柔らかそうだ。美春はそこへ頭を乗せろという。
「はやくぅ、ほら」
「う、うん……」
 笑顔で促され、学は恐る恐る寝そべり、頭を乗せた。
 ふわっと包み込まれるような感触。今まで頭を乗せたどんな高級な枕より気持ち好い、美春の膝枕。
(……うわっ、……きもちいいっ)

 美春に抱きつかれることも抱きしめることも、日常茶飯事だ。いつも彼女の柔らかさと甘い香りを感じているはずなのに、膝に頭を乗せる行為は、それ以上に美春の柔らかさと温かさ、そして、何とも言えない、包み込んでもらえるような優しい香りを感じる。

(わっ、わっ、僕、どうしようっ)
 なにが「どうしよう」なのか、自分でもよく分からない。彼らしかぬ動揺を感じてしまった学は、これもまた彼らしくないことに、顔が赤らみ始めている自分を悟る。
(凄く、嬉しい……)

「学、きもちいい?」
 全身がもぞもぞとするおかしな感情に戸惑う彼に気づくこともなく、罪のない笑顔と共にかけられる罪のない質問。
 学は顔を上げる余裕も持てないまま、美春の膝頭に手を置いた。
「う、うん……、気持ち好くて、寝ちゃいそうだよ……」
「んふっ、ねてもいいよぉ? ねぇ、学、おひざまくら、うれしい?」
「うん……、凄く嬉しいよ」
「良かったぁ」
 無邪気な喜びを示し、美春の小さな手が学の髪を撫でる。
「ママがね、よくパパの頭をこうやって乗せてるの。パパね、おしごとでつかれた顔してても、ママにこうやってしてもらうと、すごくごきげん良くなって、ときどきねちゃうんだよ?」
 降り注いでくる可愛らしい声と共に、学はふっと思い出す。
 彼の両親もとても仲が良いのだ。父が母の膝に凭れて眠ってしまっている姿を覗き見てしまったことがあるが、普段仕事で忙しく厳格な表情の多い父が、とても安らかな顔をしていた覚えがある。

「だからね、学もよろこんでくれるかな、って。美春、おたんじょうびに学が本当に欲しいものはあげられないけれど、学がよろこんでくれることしようって思ったんだ」
「美春、そんなこと思ってたの?」
 学が顔を上へ向けると、そこにははにかむ美春がいる。
「うん……、ごめんね……。美春、まだ学に、ホントに学が欲しいプレゼントあげられないけど、学がよろこんでくれることができるようにするからね」
 母が父にしていた仕草を見て、学も膝枕を喜んでくれるのではないかと、小さな美春は小さな胸と頭をいっぱいにして考えた。
 その気持ちとはにかむ笑顔は、学に最高に嬉しい気持ちを与える。

「有難う、美春。一番嬉しいプレゼントだよ!」

 学は美春の腰に両腕を回し、彼女をキュッと抱き締める。
 今度は何となく美春のほうが照れ臭くなってしまったのか、小さな両手で学の髪をくしゃくしゃっと撫で始めた。

「じゃぁさ、美春、お願いして良い?」
「なぁに?」
「これからずっと、僕の誕生日は、“僕がして欲しいこと”をお願いして良い?」
「……ご本とか、ゲームとかじゃなくていいの?」
「うん、美春にしかできない、僕が“嬉しい”と思うことをお願いする。それを、誕生日のプレゼントにしてよ」

 美春は一瞬キョトンッとしてしまったが、“物”でも“してあげること”でも、学が喜んでくれるのならば、それだけで彼女も嬉しいし満足だ。
「うん、いいよ。じゃぁ、おたんじょうびは、美春、学のお願いをきいてあげるね」
 美春がニコリと笑うと、学も笑って、また柔らかな腰に抱きつき優しい香りがする膝に頭を乗せた。


 誕生日には、大好きな学が喜ぶことをしよう。
 大好きな学のお願いを、ひとつきいてあげる。

 幼いふたりが交わした誕生日の約束は、これからもずっとずっと続いていく、幸せな約束。




     『大好きなあなたの誕生日に結ぶ幸せの約束』

   *END*









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~ Comment ~

学クン、1日遅れましたが誕生日おめでとう(*^▽^*)

リトルの2人は可愛いですね♪特に美春チャン。あーハグしたい~(*゜∀゜*)

毎年、何をいただいてるのだろう…学クン。大人になってからは想像つきますが(笑)

みわさんへお返事です(4/15)

みわさん、こんにちは!

 学くんに、お誕生日のお祝いを頂き、有難うございます!

 突発的にUPしたので読んで頂けるか不安だったのですが、感想を頂けて嬉しいです。(*´∀`*)

 本編に中に、よく「学くんのお誕生日は、彼のお願いをきいてあげるのが小さい頃からのプレゼントだ」というくだりが出てきていて、それを約束したお話を書きたいと思っていたのです。
 やっと書けました。(^^ゞ

 リトルシリーズ、今度はいつお目にかけられるか分かりませんが、ひょっこりと出てきた時は、またちっちゃいふたりを構ってあげてくださいね。

 有難うございました!

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