理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第14章3(悲しみの波紋)

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 ――――学の、美春。

 美春の身体をまさぐり、首筋に顔を埋めてその言葉を聞いた学の肩が、小刻みに揺れる。
 笑っているのとはまた違う雰囲気に、彼が泣いているのではないかと勘繰ることもできたが、美春は深く追求はしない。
「私はね……、きっとこの先、アランに抱かれようと、誰と身体を重ねようと、幸せをもらえることなんてないと思う……。学が私にしか感じないって言ってくれているように、私も、この身体は学にしか感じないから……」

 心に決めたただひとりの人にしか、自分の身体が反応をすることはない。
 それは、自分にとっても相手にとっても、言葉以上に感じ合える愛情だ。
 それなのに、そんな愛情を持つふたりが、もう二度と、その愛を交わすことができない位置まで追い詰められている。

 決して引き裂かれることのない運命を持っていると信じられていた、学と美春が……。

「きっと俺、もう二度と、……女なんて抱けない……」
 学の口調は嘲笑を含む。ひとりの男として考えるのならば情けない発言であるのかもしれないが、それは決して冗談ではない。
 美春を愛するあまり、彼女以外の女性になど反応しなくなっている彼にとって、それは違えようのない事実だ。

 脚の付け根の先で柔肉の境目をなぞっていた指が、尻側からクレバスへもぐりこんでいく。ひっかかりもなく花芯へ到達し、問題なく緩やかに前後できるのは、学の切ない愛情に反応した美春の身体がその証を溢れさせていたせいだ。
「……ここも、びしょ濡れだ……美春」
「雨に当たらない場所なのにね」
「感じたの?」
「学に触られて、感じないわけがないでしょう……?」
 雨で湿り、重たくなった上着を学の肩から落とす。それを脱ぐために彼の指が離れると、美春は肩から腕を回し、唇を重ねた。
「抱いて、学……」
 それは言うまでもない望み。口に出さずとも、学はそのつもりだっただろう。
 だが美春は、彼の気持ちに便乗して、切なる希望を哀願に変えた。
「学を……、忘れないように……。一生忘れられないくらい、私の身体に学を覚えさせて……」
「美春……」
「私の身体は、最初から学しか知らない……。これからも、この身体が覚えているのは、学だけで良いの……」

 例え、誰に抱かれようと。
 誰が学の上書きを行おうと。
 美春が感じるのは学だけ。美春がその心に注ぎ込まれる愛を受け入れられるのは、学の愛以外ない。

 強く抱き合うふたりを濡らす雨が、激しさを増す。
 唇の感覚が麻痺してしまいそうなほど繰り返される唇付けの中、微かに開いた美春の目が、雨に濡れる学の瞼を捉えた。
 スッと伸びた綺麗な目尻から流れ落ちた物が、雨であったのか、それとも涙であったのか、美春にも分からない……。

 *****

「田島さん、煙草は吸わないの? 一服して来ても良いのよ? 奥様は私が責任を持って見ているから」
 その言葉は、つきっきりでベッドの傍らに座っている信に冴子が気を遣ったものだろう。だが信は、得意の爽やかな笑顔で嫌味なく好意を戻した。
「いいえ、煙草は吸いません。大丈夫ですよ、有難うございます」
「吸わないの? 若い人なのに珍しいのね? それとも、奥様が妊娠してからやめたクチ?」
「元々ですよ。父も吸いませんし。“親分”の葉山専務も吸わないので、僕が吸うわけにはいきませんよ。怒られるじゃないですか」
 おどけて見せる信に笑顔を零し、冴子は簡易ベッドの上でうっすらと開いた目を和ませる涼香を覗き込む。
「雨にうたれてダルいようなら、少し眠ってね。濡れた洋服もまだ乾かないし、乾かす間だと思って、楽にね」
「有難うございます……」
「もしお腹が痛んだり吐き気がしたり、そんな異常を感じたら、すぐに言ってね。ゆっくり休んでいって、どうせ今の時期ほとんどの社員が夏季休暇でいないから、処置室も静かなのよ」
「はい」
 涼香の素直な返事と、信の感謝を込めた会釈をもらって、冴子も微笑みながらベッドを離れる。仕切りのカーテンを引きふたりの姿を隠すと、軽く吐息して振り返った。
 視線の先には、壁側に置かれた大きな寝椅子に足を組んで座り、腕まで組んで深刻な表情を見せる櫻井がいる。
 雨に濡れた涼香を案じ、処置室へ連れて来てから三十分以上が経っているが、彼はずっとここで考え事をしていた。
 会長一番の仕事人間が、その会長の元へも戻らず戻ろうともせず動かない。彼が動ける精神状態ではないのも確かだが、櫻井自身、今会長室へ戻っても一に仕事の話など切り出せないであろうことを分かっている。一も恐らく、仕事どころではないだろう。

 冴子には、深い事情が分からない。
 けれど、涼香と信を連れて処置室へやってきた時の、やるせなく悔しさを全身から漂わせた彼を見て、とても大変な出来事があったのだということだけは理解ができた。
「りっくん……」
 彼の前に立ち、肩に手を置いて顔を覗き込む。泣き出してしまうのではないかと思わせる切なげな瞳の色に、冴子は一瞬ドキリとした。
「冴ちゃん……」
 その目は、はるか昔、一度だけ別れを告げた時に彼が見せた悲しげな眼差しにそっくりだ。恐ろしい予感に背筋を粟立たせ、冴子は思わず櫻井の頭を両手で抱き締めた。
「俺は……、何もできないのかな……」
 自分を哀れむ声が、泣いているかのように聞こえる。
 その腕っぷしを買われ“専務のお傍付き”などといわれても、期待を寄せられて、会長第一秘書代行として奔走しても、自分は本当に、力になりたい人達のために何かできているのだろうか……。
 
 美春を止めることができなかった。学を諭すこともできなかった。そしてこの結果は、会長である一に、大きな艱難辛苦を与えてしまったではないか。

「……専務と女史のために……、もう、できることなんてないのかな……」

 ――――悲しみの波紋は、大きく、大きく、広がっていく……。







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