理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第14章6(雨に打たれた後で…)

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「温かい……」
 素肌に当たる雫が、やっと肌に滲み通ってくるような温かさに変わった気がする。
 シャワーのコックをひねった瞬間噴き出してきたお湯は、肌に刺さるくらい熱くて痛かった。
 だがそれは、美春の肌があまりにも冷え切っていたせいであり、そして、身体がとても敏感になっていた後だからだ。
 雨でメイクなど跡片もなくなってしまった顔にシャワーを当てる。顔を下にすると、お湯は後頭部から背中を伝って全身を包んだ。
 秘書課や専務室を始めとする重役室が置かれた三十四階には、仮眠室の隣にシャワー室がある。この階だけが特別なのではなく、偶数階に決められて設置されている設備だ。
 冷え切っていた身体が温まっていくのは嬉しいが、体温変化に美春の身体が着いて行かない。眩暈がしそうな浮遊感を足元に覚え、美春は倒れてしまわないよう、ゆっくりと膝を落とした。
「……しっかり、しなきゃ……」

 最終的には豪雨に近くなった雨の中で、愛し合った学と美春がすぐにしなくてはいけなかったことは、何をおいても着替えることだった。
 会社に泊り込むこともあるため、着替えは数セット専務室に置いてある。学は美春に着替えを持たせ、すぐにシャワーで温まってくるよう言いつけたのだ。
 「とにかく、早く温まって着替えろ。俺の分は自分でやるから、気にするな」そう言って、美春を慌ただしくシャワー室へと追い立てた学。
 いつもの調子を考えるなら、「俺も一緒に入る」と口を出すところだ。
 しかしその気配もなく美春を専務室から追い出したということは、ひとりで考えたいことがあるのだろう。
 ぼんやりと考え事をしたいという気持ちは、美春にも分かる。彼女は特に何の追及もせず、シャワー室へと向かった。

 お湯の温かさを感じ瞼を閉じていると、眼球の奥が脈打っているかのように重い。
(泣きすぎたかなぁ……)
 クスリと笑って指先で瞼を回す。たくさん泣いたうえにいつまでも温かいシャワーに当たっていては、すぐ眠くなりそうだ。
 終業時間も近いので、それでも良いだろうかとも思う。いっそこのまま、仮眠室で明日の朝まで寝てしまおうか……。
 だが、明日はアランの元へ出向かなくてはならない。
 朝は一真に送ってもらうつもりでいるのだから、その旨を説明するために、今日は光野家に帰らなくてはならないのだ。
(もうひと頑張り、しっかりしなくちゃ)
 泣きすぎて目が赤くなっているような気がする。処置室で充血用の目薬をもらおうと考えた時、涼香はまだ休んでいるのだろうかと気になった。

 *****

 一般的に、目薬の貸し借りや複数人での使用はタブーとされている。
 それはもちろん、雑菌や感染など衛生面が大きな理由だが、そのため処置室に置いてある目薬も社員用に特別パックされた、使いきりタイプの物だ。  
 充血に効果のある目薬をもらった美春だが、眼球が疲労気味であったせいかいつもにはないくらいの刺激を受け、今度は目薬に泣かされてしまった。
「光野さんを泣かせるなんてとんでもない目薬ね。専務に廃棄処分されるかもしれないわ」
 当然のように出た冴子の冷やかしだが、今回ばかりは苦笑いしか出ない。

 美春が処置室へ入った時、室内には冴子と涼香しかいなかった。
 洋服もとっくに乾き、ひと眠りからも目覚めていた涼香だったが、信が学の様子を見に行っているので戻るのを待っている状態なのだ。
「具合悪くない?」
「あんな場面見せられて、悪くないはずがないでしょう。って言ってやりたいところだけど、……大丈夫よ」
 台詞自体は皮肉だが、その表情はいつも美春をからかう時の涼香だ。彼女の様子にホッとしていると、冴子が「ちょっと医務室へ行ってくるから、ふたりで話でもしていて」と部屋を出た。
 ただならぬ雰囲気を感じ取っている冴子が、親友同士で何か話したいことがあるのではと、気を利かせたのだろう。

「ごめんね……涼香、変なところ見せちゃって……」
 ベッドの傍らに立ってかしこまると、涼香はしばらく美春を見つめてからふっと苦笑いを浮かべた。
「久々に、美春の可愛いすっぴん見られたから、その件は、許してあげる」
 シャワーを浴びて、髪だけを乾かしてから来たのでメイクはしていない。指先を頬に当てちょっとはにかんで見せるが、和みかかった雰囲気は次の瞬間張り詰めた。
「でも、葉山君から離れる決心をしたのは、許せない」
 浮かびかかった安堵の笑みを困惑に変え、美春は目を逸らしてしまった涼香を見つめる。
「ふたりが恋人同士になった時、思ったのよ……。“理想だなぁ”って……」
 天井を見つめる涼香の瞳が、過去に思いを馳せる。
 彼女はそこに、高校時代の学と美春を見ていた……。

「幼馴染同士……、お互いを理解し合っていて、恋人同士じゃない時期だってずっと想い合っていて。お互いが一番好きで一番大事で、障害にぶつかっても支えて守られて、愛し合って結ばれて。葉山君は美春一筋で、美春も葉山君一筋で……。なにこの黄金パターン。……すっごく、理想的な恋愛をしてるふたりだと、思ってた……」








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~ Comment ~

最近一話一話が中途半端でとても読みにくいです。
それと、物語のためとはいえ美春は学のことを全く信じていないように見えます。
結局、美春は自分のおかげで葉山とさくらが助かった。という自己犠牲の自己満足したいだけのように見えます。
正直、今回はストーリーが無理やりすぎですね。
それでは、失礼しますm(_ _)m

匿名様へお返事です。(6/6)

こんにちは。
お読み頂き、有難うございます。^^
貴重な御意見も頂けて、嬉しいです。

長さに関しては、本当に申し訳ないとしか言えない次第です。
翌日更新分の流れを考えて切るものですから、中途半端に感じられる回も多々あると思います。どうしても気になる方などは、まとめ読みをしてくださっているようです。
不快で堪らないとお感じになるようでしたら、御検討頂ければ幸いです。

美春の行動につきましては、物語の流れ上、こうなっていくのはしょうがないことではあります。
ですが、色々な登場人物の想いや行動、今までの経緯を踏まえて、美春が

>自分のおかげで葉山とさくらが助かった。という自己犠牲の自己満足したいだけ

という、女性なのではないということは分かって頂けるかと思っていました。
また、そんな性質の女性ではないということも、長い物語の中で書いてきたつもりです。
それが伝わっていないのだということは、ただひとえに、私の表現力のなさが原因だと反省をするのみです。

物語の進行上、御不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
登場人物が不幸になっていく姿を見たくないのは、誰しも同じだと思います。「恋愛小説」と謳っている物なら尚更です。
こちらの作品は、始まった5年ほど前から「ハッピーエンド公約作品」を謳っております。
間違いなく幸せになるラストを、どうかお待ち頂けますと幸いです。

有難うございました。

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