理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第15章9(触れる権利)

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「目が覚めたのかい? ミハル」
 何か大切な真相に近付きそうになった思考は、ベッドルームへと入って来たアランに遮られた。
 彼が近付いてくると、グレースが移動し場所を譲る。その行動を当然とし、アランは何の遠慮もなく美春の傍らへと座ると、彼女の腰を抱き額へと手を当てた。
「ア……アラン……」
「ん? 熱は下がったのか、まぁ、当然だな」
 アランの視線が説明を求めるようにグレースへと流れる。どこか切なげな目が「三十七度まで下がりました」と告げると、アランは美春の額から手を離し、顔を近付けた。
「そうか、下がったなら良かった。とはいっても、無理やり熱を逃がしたようなものだからね、疲労感は大きいはずだ。今日はゆっくりとしていくといい。何か食べるかい? ずっと眠っていたから、食欲もないかな?」
「あ、いえ、大丈夫です。もう少し休ませていただいたら、弟を呼んで帰ります。……すみません、結局、ご迷惑をかけに来てしまったみたいで……」
「ミハル」
 密着しすぎを感じ、美春はアランの胸を押す。しかしやはり発熱で疲労した身体にいつもの体力は残っていないらしく、彼にとってはシャツの胸を掴まれた程度の感覚でしかないようだ。それどころか、抱いた肩を更に抱き寄せ、アランは密着度を上げた。
「そんなに他人行儀にならないでくれ。ミハルは、仕事のためだけに僕の所へ来たわけじゃないだろう?」
「それは……、でも……」
「それにね、今日は帰らなくても良いんだ。エリには僕が電話で話をしておいた。ミハルは今日は帰れないとね。だから、ゆっくりしていくといい。明日帰る時は、僕が送っていくよ」
 美春は驚いてアランを凝視した。
「ミハルは自分から言うと言っていたけれど、君が熱を出して弱っているのに、帰すわけにはいかないじゃないか。エリも納得してくれたよ。ミハルは色々と考えすぎだ」
「……お母さんが?」
 驚きは更に続く。美春がアランの元へやってきたこの状況をエリが納得しているということは、学の元からアランの元へと行かなくてはならなくなった現実を、知ってしまったということではないか。
 母が納得などしているはずがない。もししていたとしても、酷く落胆したうえでの納得だろう。この話はすぐにでも大介へと伝わるに違いない。
 それを思うと、美春は胸が痛くなった。

「ああ、これはいけないな」
 熱で汗ばんだ身体が、更に冷や汗でしっとりと湿る。そんな美春の状態が、肩を抱き身体を密着させているアランには分かったのだろう。そのままの体勢でグレースに指示を出した。
「ホテルのレンタルにネグリジェがあっただろう、手配しておいてくれ。取り敢えずは僕のシャツに着替えさせる。美春の服は汗だらけだ」
「では、クリーニングの手配も……」
「今回は急がなくて良い。明日までに仕上がれば良い」
「はい」
 楽しげにプランを立てるアランを止めようと、美春は彼のシャツを揺すって抵抗した。しかし、悲しいかなその行動は、ただ腕の中で美春がうごめいているくらいの感覚しかアランには感じさせなかったようだ。
 そして、彼は更に美春の動揺を誘う指示を出す。
「温かい湯で湿らせたタオルを二本用意しろ。着替える前に身体を拭いてやる」
 美春の脈が早まり、また冷や汗が流れた。「拭いてやる」ということは、彼の態度から考えても自ら手を出そうとしているのだと強く感じる。
 病人をいたわるという意味では悪いことではないが、この状況での発言としては、いたわる以上のものを感じてしまうではないか。
「い、いいです……そんなの……」
 美春の弱々しい否定は、アランの笑い声に撥ね退けられる。腕の中で身を捩る美春の肩を抱き直して、アランは意気揚々としたものだ。
「汗をかいているのに、そのままにはしておけないだろう? だからと言ってひとりでシャワーを使わせるのも不安だ。バスルームで倒れてしまう」
 それは美春にも自覚がある。現に今、上半身を起こしているだけでも強い倦怠感を覚えているのだ。アランに身体を支えていられなければ、おそらく身体を起こしていることなどできないだろう。

 薬によって、身体に溜まる高熱を短時間のうちに下げられた。
 肉体的に考えるのなら、その細胞を虐待レベルまで酷使して体調を変えさせられたのだ。
 それで正常な体力など保っていられるはずはない。いくら異常なく使えると言われても、効果的には恐ろしい薬であることに変わりはない。
(そんなものを、平気で人に与えるなんて……)
 美春はチラリとグレースへ視線を走らせる。
(彼女は、こんなことを何も感じずにできるアランを、ずっと支えてきた……。ずっと、傍で……)

 助けを求めているとでも思ったのだろう。美春の視線には気づいたが、やり切れなさを感じたグレースは顔を逸らし、アランの指示を実行するために部屋を出た。
 そんな彼女の後ろ姿を、美春は目で追う。
(どうして、グレースは……)

 問いかけたいが、声を出すのもおっくうだ。心が許すなら、このままアランでも良いから寄り掛かっていたいほどの倦怠感だった。
 だが、美春は声を出さざるを得なくなる。アランの手が、美春のブラウスのボタンを外し始めたからだ。
「……アラ……ン……」
「なんだい? 脱がないと着替えられないだろう?」
「自分で……」
 アランの手を、微塵の力も感じさせないまま押さえる美春の手。彼はそれを、まるで仔猫の悪戯であるかのように握り締める。
「無理だよ。今のミハルには、自分でボタンを外す力もないはずだ」
「でも……」
「すぐにグレースが着替えを持ってきてくれる。脱いでおいたほうが早いからね」
「やっ……」
 せめてもの抵抗で身体を引くが、それはただボタンを外しやすくしただけだ。倒れたあと寝かされる時に緩められていた胸元は、次の抵抗を待つ間もなくすべて外されてしまった。
「やっ……、いいの……、やめて、アラン……」
「体調が悪い君の世話をしているつもりなのに、そんなふうに嫌がられては、まるで僕が無理やり何かをしようとしているみたいじゃないか」
 笑うアランの口調は軽いが、美春は必死だ。微力ながらも身体をひねりアランを否定する。アランにしてみれば、こうなってしまった限り美春に触れる権利を持っているのは自分だと主張しておきたいところなのだろう。だが、美春にしてみれば、触れられるどころか服を脱がされて肌を見られるのも嫌なのだ。
 それは、“アランだから”というわけではない。
「やめ、て……、見ないで……」

 ――――学以外の男に、自分を見せなくてはならないことが、あまりにも苦しく哀しいのだ……。







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