理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第17章1(心の言葉を託された者)

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 ――――学が迎えに来てくれるのを、待っているのかもしれない……。

 それは、美春の本心だ。
 すべての希望も信じる気持ちも、愛情さえも犠牲にしたかのように見えても、彼女の本質は何も変わってはいない。
「……畜生……」
 美春の声を最後に、スマホを介したヘッドセットからの音声は聞こえなくなった。彼女の声と言葉を何度も何度も頭の中でリピートさせて、須賀は顔を伏せたまま、その頬に涙の小川を作り続ける。
「光野さん……」
 いい歳をした大の男が、人の言葉ひとつでボロボロ泣くなどみっともないのかもしれない。だが須賀は、泣かずにはいられなかったのだ。
 美春の辛い立場と悲しさと、それでも彼女しか持っていない強さと、学を信じたいと言った気持ちが、痛いほど伝わってくる。
 櫻井がアランの部屋に入ってからの様子は、ハッキングしたモニターとヘッドセットから伝わる音で須賀にも伝わっていた。美春がベッドルームから姿を現した場所まではカメラの範囲なので、櫻井が倒れてから美春が彼を庇い啖呵を切ったところまで、しっかり見ることができたのだ。
 倒れた櫻井を守るために見せた強さは、須賀の息を止めた。
 凛然とした態度と力強い口調。まるで学を見ているようだとも思い、感動さえ覚える。櫻井がアランの手にかかり絶望感が走ったが、美春の態度はそんな須賀の気持ちを救った。
 そして、あのひと言。
 学が迎えに来てくれることを待っているという言葉に、須賀は涙か止まらなくなった。
 櫻井は明日の朝まで眠り続けるだろう。彼はアランの研究被験者としてふさわしくはないと美春が提言してくれているので、これ以上何かをされるとは思いたくはないが、まったく安心できるとは限らない。
 このままアラン側の監視を続けることはできる。定期的に入る相手側のセキュリティチェックから身を隠すのが手間だが、それさえかわせば容易い。
 だがこのまま監視だけをしていても、状況が好転するとは思えない。何か策を講じる必要があるというのに、美春の件で頭がいっぱいで誰に相談をしたらいいのか判断がつかないのだ。

 IT事情部はいつも通りの騒がしさだ。各個人それぞれの仕事をしているので、特別関わりのある要件ではない限り、忙しそうにしているところへ話しかけてくる者もいない。
 ずっとメインデスクでモニターを追っている須賀を横目に、オフィス内の面々は彼がとても大切な仕事をしているのだろうと見当をつけている。顔を伏せ涙を流していても、特に気付かれることなく詮索してくる者がいないのもそのせいだ。
 だが、そんな須賀の背後に立った人物がいる。
「……やはり……、監視をしていたんですね」
 メインコンピュータに繋いだ須賀のプライベートPCの画像を覗いて、その声は少し嬉しそうだ。須賀ならば黙ってはいない、そう考えていた通りの行動を、彼が取っていたと分かったからだろう。
 悔しさに噛みしめていた奥歯を解放し、須賀は唇を結ぶ。
 尊敬している人物であるはずなのに、今はその声を聞くと何とも言えない怒りしか湧き上がってこないのだ。
 それは、彼の態度と言葉に、失望感を与えられた結果だろう。
 彼に不可能などないとまで思っていた、この、葉山学に。
 振り向かない須賀の肩越しにモニターを覗いていた学は、アランとグレースの他に、見逃してはいけない人物を見つける。画像の端に倒れた男と、その男に寄り添っている女性の姿。
「……美春……、櫻井さん?」
 学は須賀の手が離れたマウスを手に、カメラポイントを拡大させる。そこには、倒れた櫻井のネクタイを緩め、上着のボタンを外して身体が楽になるよう世話をやく美春の姿がある。
 彼女が櫻井に対して甲斐甲斐しく努める姿に、やきもちにも似た気持ちが顔を出しそうになるものの、美春に動揺の陰がないことから、櫻井に外傷はなく気絶をしているか眠っているかの状態であると察することができた。
「いないと思ったら、やっぱり行っていたのか」
 駐車場に櫻井の車がなかったので外へ出たのだろうことは分かったが、スマホが繋がらず、どこへ行ったのかが分からなかったのだ。
 仕事ならば社用車を使う。学を探そうとしたにしても、学のレクサスは駐車場に置いてあるのだから会社から出たとは思わないだろう。冴子に異常があって病院へ行ったというわけでもなさそうだったので、残る案としてはアランの元へ行ったのではないかという考えだったのだ。
 モニターに映る美春の姿に胸が熱くなる。櫻井が何故倒れているのかも気にはなったが、彼女が取り乱してはいないのだ、焦眉の急という事態ではないのだろう。
(アランに一服盛られたか? 素手で櫻井さんが負けるとも思えないしな)
 もっともな考えに思考を巡らせていると、項垂れていた須賀の頭がゆっくりと上がった。
「……どうして……、何もしないんです……」
「須賀さん?」
 モニターに映る状態を見ても、櫻井や須賀が美春のために自主的な動きを見せてくれているのが分かる。この件に関して、須賀は学を責めたい気持ちでいっぱいなのだろう。それは学自身にもよく分かった。
 彼に“今の”自分の気持ちを伝えようとした学だったが、出しかかった言葉は須賀の行動の前に止まってしまう。
 須賀はマウスを掴む学の手をそこから弾き落とし、いきなり立ち上がったかと思うと、あろうことか学のスーツの襟を両手で掴み上げ詰め寄ったのだ。
「光野さんはこんなに専務を信じているのに! どうして何もしないんですか!!」






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後書き
こんにちは。玉紀直です。
 第17章、始めさせて頂きます。

 学を復活させる際、様々な人が動いてくれました。
 その中で、学を信じたくとも絶望したのが須賀です。
 今の学は復活後の学ですが、それを知らない彼に、悔しかった分ちょっと歯向かわせてあげてくださいね。
 美春が待っている。
 その気持ちを学に与えて、彼に奮起してもらいながら第17章を進めていきたいと思います。

 どうぞお付き合いくださいね。
 宜しくお願い致します。





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