理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第17章3(ハッキング対象物件)

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「はあ……、凄いものだねぇ……。いや、素晴らしい技術だ」
 感心されているのだ。なおかつ褒められている。それはとても嬉しいことだ。
 またそれが憧れている人の父親だと思えば、照れ臭ささえも入り混じる。
「ハッキングかぁ……。僕みたいな凡人にはできないなぁ……。須賀君の話は美春に聞いていたけれど、鮮やかなものだね」
 いえいえ、あなたこそ凡人ではありませんよ。その場にいた学と須賀の思いは見事にシンクロするが、セリフ自体は胸の中へとしまわれる。そして緊張気味にキリリと表情を引き締め、須賀はモニターから顔を上げた。
「ありがとうございます。光栄です、光野室長」
 白衣姿でうんうんと頷きながら笑顔を見せてくれる憧れの人の父親は、畑がまったく違うせいもあるが普段の交流はない。そんな人物が自分の横に立ち、それも自分を知ってくれている。
 何とも感動ではないか。
 だが、呑気に心を動かされている場合ではないのだ。須賀の向かいに座る学は、既に気持ちを切り替え、大介に計画の説明を始めているのだから。
「相手のコンピューターには侵入できました。今ファイルを引き出すためにキーワードの検索をかけています。研究資料がヒットしたら、怪しいと思われるファイルを開いていきますから、室長には、目指す文献を見つけ出して欲しいのです。文献は、英語ならまだしもフランス語で書き替かえられている可能性が高い。おまけに時間がありません、ゆっくり見ている余裕がないので、クライン・レビンに関する資料を一文で判断願います。俺がやっても良いのですが、室長のほうがこの文献に関しては、限りなく確実だ」
 大介はその表情から笑みを消すと、ゆっくりと首を縦に振った。

 専務室内には、学と須賀、大介の三人だけがいる。
 デスクに座る学と、その向かい側に椅子を引っ張ってきた須賀。ふたりの前には私物のパソコンが置かれ、学の仕事用パソコンには、相変わらずアランが宿泊している部屋が映し出されていた。
 須賀を連れ出し、そのうえで行われる“特別任務”といえばひとつしかない。
 大介に頼まれた検案だ。アランが作ったクライン・レビンの発症促進剤が、かつて大介が作り出し封印された物とまったく同じ物であるか確認をすること。その確認がなされなければ、せっかく大介がさくらのために作り上げた抗体が効力を発揮できるものであるか、投与しても異常をもたらすものではないか、判断をすることができないのだ。
 そのために、グレースが肌身離さず持っているパソコンをハッキングする必要がある。
 てっきりロシュティス本社研究所のデータをハッキングするのだと思っていた須賀は、ハッキング対象がグレースのパソコンであると知り疑問を抱いた。
「でも専務、なぜ秘書のパソコンなんでしょう? 大切なデータなんですよね? 本社や研究所にデータを残すんじゃ……」
 すると学は、クスリと笑って大介を見上げる。
「研究者というものは、自分の研究に関しては頑固なものだよ。研究途中であったり、他に晒したくはない研究データであったりすれば、管理は自分でする。それが認可されるところまでいけば話は別だけどね」
 大介は苦笑いで自分を指差す。「私も頑固者かい?」と訊きたいところなのだろう。学は意味ありげに笑み、不思議そうな須賀に説明を続けた。
「アラン社長の研究は、高度だが危険すぎるものが多い。もちろん、他人の目に晒すのは遠慮して欲しい研究のほうが多いだろう。被験者の合意がないままに行われる人体実験もしているしね。そんなデータの数々を、本社や研究所に置いておくと思うかい?」
「それなら、アラン社長自身がデータを持っているんじゃ」
「彼に関係した管理は、すべてグレースが行っている。彼自身の管理から、持ち歩く薬、人体実験のデータもすべて。……それだけアランは、グレースに信頼を置いている」
「……専務と、光野さんみたいですね」
 須賀としては遠回しに気を利かせたつもりだった。他には洩らせない秘密も内情も、共有し合う仲。信頼は元より、相手を理解していなくてはできないことだ。
 だが、自分で口にしておきながら、須賀は矛盾を感じた。
「……それだけ信頼し合っている秘書なのに、……どうしてアラン社長は、“秘書交換”なんて……」
 自分自身も、研究のすべてさえも知っている秘書。もし手元から離して、彼女が握っている秘密を外に洩らされでもしたら……。そんな可能性と危機を考えはしなかったのだろうか。
 学の瞳が曇る。推測ではあるが、彼は考えられる可能性を口にした。
「アランが秘書交換をしたかったのは、もちろん美春を欲しかったせいもあるけれど、……グレースを、自分の傍から離すのが本当の目的だったのかもしれない」

 須賀は更に分からなくなった。見る限り、アランとグレースの仲は悪そうではなかったのだ。
 第一、そんなに信頼し合っているなら、傍から離したいなどと考えるものではないだろう。
 だが、学がそう考えた理由は、何の根拠も要因もないところから出たのではない。
 ――アランには、グレースを傍から離したかったであろう切実な理由がある。

 その理由を頭に、学は部屋を映し出している画面を見つめた。
 アランの姿はなく、グレースはソファの前に置かれたアランの物と思われるパソコンで誰かと話をしている。彼女が自分のパソコンに意識を向けていないのは都合が良い。彼女のパソコンは、須賀に内部を荒らされている最中だ。
(……それにしても……)
 学はとある一点を見つめ眉を寄せた。
 部屋の片隅で倒れたまま動かない櫻井。それは良いのだが、問題はなぜ美春がその横で身体を休め、あまつさえふたりで一枚のガーゼケットを使用しているのかだ。
(何で一緒なんだよ……)
 美春は櫻井を守るために傍から動かないのだ。それは察しがつく。
 だが、“ふたり一緒に”というところに、彼は胸のもやもやを払いきれない。

 だが、いつまでも可愛い嫉妬をしている暇はない。
 学の思考は、須賀のひと言で切り替わった。
「専務、研究データらしきファイルが引っかかりましたよ!」






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